IMFが1兆ドルの追加資金枠設定へ

ヨーロッパの信用不安について。今朝の「日本経済新聞」には、IMFが1兆ドル規模の追加資金枠を設定する案が浮上されている、という記事が出ていました。

1兆ドルといえば約77兆円、日本の政府予算の8割に相当する巨大な額。3年前のリーマン・ショックのときが3200億ドルだったので、いかに今回の危機が深刻かということがわかります。

他方で、「毎日新聞」にはこんな記事↓。

ドイツ:国債の入札不調…市場に動揺:毎日新聞

ソブリン危機に、ついにドイツ国債まで嫌われ始めたのか? という問題もありますが、この記事のなかでエコノミストが指摘しているように「年末を乗り切るための現金を持っていたい」というのが一番の理由でしょう。しかし、それだけ短期資金の流動性が悪くなっているということなんでしょうか。

IMF1兆ドル追加資金枠 欧州危機封じ込めへ構想

[日本経済新聞 2011/11/24朝刊]

 【ワシントン=矢沢俊樹】イタリアなどに信用不安が広がる事態を重視し、国際通貨基金(IMF)に1兆ドル(約77兆円)規模の追加資金枠を設ける案が浮上している。支援額を積み上げ、欧州危機の封じ込めを目指す構想だ。ただ、欧州への不信感や各国中央銀行の反発などもあり、巨額の資金枠がまとまるのかは不透明な面も多い。
画像の拡大

■緊急電話協議も視野

 日米欧など先進7カ国(G7)は、中国などの主要新興国も加えた枠組みで電話による緊急協議も視野に入れている。日米などは欧州中央銀行(ECB)が徹底した追加支援に踏み切るべきだと要請している。
 ただ、楽観できない情勢が続く。IMFは22日、危機を予防するため、短期の資金を供給する新制度を正式に発表したが力不足との声が多い。日米などはECBとは別に追加策を検討している。
 そこで浮上してきたのが大型の支援枠だ。向こう3年間のイタリアの国債償還額がドル換算で1兆ドルを超すことを踏まえ、IMFが相当額の受け皿を持つ青写真を描く。ただちに資金需要が生じなくても、強固な財務力を持つIMFが控える安心感の広がりも狙う。
 具体的には「特別引き出し権」(SDR)と呼ばれる特殊な資金枠を広げる案がある。SDRは各国がいざというときに持ち分をドル、ユーロなどの主要通貨へ転換できるよう請求できる権利。疑似的な準備通貨ともいえる。
 2008年に起きた世界的な金融危機に伴い、IMFのSDR枠は3200億ドル(約25兆円)まで拡大済み。これを3倍強に膨らませる構想だ。イタリア自身が実際にユーロなどに換金できるのは全体の3%強にすぎないが、欧州勢の持ち分をかき集め、これをイタリアに振り向けることが可能だという。

■独などの中銀勢は反発

 ただ、こうした案は大量のドルやユーロを市場に供給する事態を招きかねない。インフレの兆しに敏感なドイツ連銀など中銀勢が強く反発しており「宙に浮いている」(当局筋)段階という。
 欧州側からは、ECBがIMFに融資してはどうかとの声も出ている。域内国債の野放図な購入に慎重なECBの立場を考慮し、IMFへ実質的に迂回融資する苦肉の策といえる。ECBがIMFの債券を購入するのは可能とみられ、情勢が緊迫すれば現実味を増す可能性もある。
 最大の障害はこうした技術論よりも、一連の欧州側の後手に回った対応に日米など主要国が不信感を募らせ、協力の機運が高まらないことだ。
 SDRの活用やECBの資金受け入れにしても実施までの関門として、IMFで最大の出資国である米議会が事実上の「拒否権」を持つ事情もある。野党・共和党の厳しい批判を浴びるオバマ大統領の一存では大型の支援策を決められない。
 フランス出身のラガルドIMF専務理事はイタリアなども含めて欧州支援に「極めて前向き」(IMF幹部)。だが、欧州以外の国にとっては「危機が再び深刻化しないと、国際協調は前に進まない」(当局関係者)面も大きいようだ。

ドイツ:国債の入札不調…市場に動揺

[毎日新聞 2011年11月24日 20時04分(最終更新 11月24日 21時18分)]

 ドイツで23日実施された新発10年物国債の入札が不調に終わり、欧州域内で最も財政が健全とされるドイツにも欧州債務危機の影響が及んでいることが浮き彫りになった。動揺は世界の金融市場に波及し、日経平均株価は約2年8カ月ぶりの安値を更新した。市場では、危機打開に向けた政策対応が実行に移されない限り、不安定な値動きは続くとの見方が強い。
 ドイツ国債の入札で調達予定額に届かない「札割れ」は珍しいことではないが、市場関係者にとって想定外だったのは未達額の大きさ。60億ユーロ(約6200億円)の募集に対し、落札されたのは約36億ユーロのみ。バークレイズ・キャピタル証券の高橋祥夫チーフ外債ストラテジストは「未達額がここまで大きいのは異例」と指摘する。
 札割れは、安全とみられていたドイツ国債でさえ、買い手がつきにくいことを示している。年2%という表面利率の低さが嫌気されたことも要因だが、野村証券の岸田英樹シニアエコノミストは「安全なドイツ国債を買うよりも、年末を乗り切るための現金を持っていたいという意識が働くほど金融市場の資金が枯渇している」と分析する。
 債務危機が進行する中、イタリアやスペインなど財政悪化国の国債が売られる一方、資金の逃避先として米国、英国、ドイツなどの国債は買われてきた。しかし、ここに来てフランスやオーストリアなど最上位格付けの国債も価格下落(利回りは上昇)が目立ち、「欧州の危機を支えられるのがドイツだけでは、負担が重くなり過ぎて信用力が揺らぎかねないとの見方が台頭」(高橋氏)、安全な逃避先としての地位が揺らぐ可能性も出てきた。
 この先1週間でイタリア、ベルギー、フランス、スペインの国債入札が相次いで実施される予定だが、これらも不調に終われば、さらなる相場の波乱要因になりかねない。市場は危機封じ込めに向けた政策対応を催促しており、「欧州中央銀行(ECB)による国債の大量買い入れや欧州金融安定化基金(EFSF)の活用による銀行の債務保証など、具体的な政策対応が出てこないと金融市場の緊張は続く」(岸田氏)との見方が強い。日本総研の牧田健マクロ経済研究センター所長は「世界の投資家にとって、危機は深刻でユーロ圏には投資しづらい。入札不調はユーロ圏からの資金流出を示唆している」と話している。【窪田淳】

ところで、マルクスは『資本論』で貨幣恐慌について、こんなふうに書いています。

いまや世界市場には、貨幣だけが商品だ! という声が響き渡る。鹿が清水を慕い喘ぐように、ブルジョアの魂も貨幣を、この唯一の富を求めて慕い喘ぐ。恐慌においては、商品とその価値姿態である貨幣との対立は絶対的矛盾にまで高められる。それゆえまた、この場合には貨幣の現象形態はなんであろうとかまわない。支払いに用いられるのが、金であろうと、銀行券のような信用貨幣であろうと、貨幣飢饉は貨幣飢饉である。(『資本論』第3章、新日本新書版pp.233-234)

「鹿が清水を慕い喘ぐように」というのは旧約聖書・詩篇の一節ですが、要するに、貨幣恐慌の時は、誰もが支払うためにともかく何でもいいから貨幣がほしい、という事態に立ち入るという訳です。現在のヨーロッパでも、ギリシャやイタリアの国債デフォルトの危険性から始まって、そうなると次は、ギリシャ国債やイタリア国債をもっている銀行の資金繰りが悪化し、その銀行が貸し渋りに走ると、そこからカネを借りている企業の資金繰りが苦しくなる…、という事態が少しずつすすんでいる訳です(これが信用不安)。

このドイツ国債の「札割れ」(予定した国債が全部売れなかったこと)のニュースは、それが、いまは貨幣恐慌といえるような状況には至っていないものの、とりあえず手もとにある現金は、株や国債に投資などせずに現金のまま置いておこう、と誰もが警戒する段階に至りつつある、ということを示しているのではないか、ということです。

展開はスローなんですが、少しずつ事態が悪化しているのではないか。これから、事態はどう展開していくのか。注意したいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください