資本主義に自浄能力は期待できるのか?

「日本経済新聞」の元旦社説は、清沢洌まで引っ張り出して、国家戦略による「資本主義の進化」を要求している。それに比べれば、同じ「日経」でも、大晦日のコラム「大機小機」の方がよほどまともなことを言っている。曰く――

  • 「先進国で広がる体制の危機は、四半世紀に及んだ経済運営の諸矛盾が限界に達したことを示している。行き過ぎた経済のグローバル化、市場化、金融化の弊害だ」
  • 「効率優先の市場主義は、為替を含む急激な価格変動で、経済と国民生活を不安定にしただけではない。勝者総取りを是とする思想と相まって、中間層がやせ細る富の偏在と格差拡大の社会的不均衡を生み、社会の分裂を招いた」
  • 「短期の資本移動を抑制する国際的な枠組み作りが重要」「金融を規律付ける再規制は喫緊の課題だ」
  • 「所得と資産格差の是正は、税・財政による再分配機能を強化する政府の役割である。過度な報酬制度でゆがんだ部分があれば、企業の分配政策の是正も課題になる」「政治と経済の目的は国民生活の安定と向上にある」

しかし、コラム子が言うように、はたしてこれが「資本主義の自浄能力」によって達成されるのだろうか? そうでなければ、社会の力でルールを確立しなければならない。

(大機小機)問われる資本主義の自浄能力

[日本経済新聞 2011/12/31付]

 イスラム圏で起きた政変連鎖、社会の絆の大切さと文明の在り方を考えさせた東日本大震災・原発事故、政治危機に発展したユーロ危機、政権交代年の先触れの金正日氏死去――。2011年は世界システムの転機を予感させる年だった。
 先進国で広がる体制の危機は、四半世紀に及んだ経済運営の諸矛盾が限界に達したことを示している。行き過ぎた経済のグローバル化、市場化、金融化の弊害だ
 金融と財政の複合危機は、規制緩和で実体経済と遊離して膨張した金融の不均衡拡大(バブル)の崩壊と、金融危機への対応の結果である。
 ユーロ危機の背景には、政治統合を欠く通貨同盟の下で金融と財政の規律の緩みが助長した域内経常収支の不均衡拡大がある。基軸通貨と単一通貨の違いこそあれ、米国とアジアのドル経済圏の不均衡はユーロ問題と相似形だ。
 効率優先の市場主義は、為替を含む急激な価格変動で、経済と国民生活を不安定にしただけではない。勝者総取りを是とする思想と相まって、中間層がやせ細る富の偏在と格差拡大の社会的不均衡を生み、社会の分裂を招いた
 自由と効率を優先する新自由主義的な経済運営の結果から、世界は何を学ぶのか。
 グローバル化の土台となる国際通貨制度の改革、貿易収支の不均衡に歯止めをかけ、短期の資本移動を抑制する国際的な枠組み作りが重要だ。返済不能な対外債務問題の解決には、債権国による債権放棄などを含む戦後処理に匹敵する調整が不可欠だろう。
 金融を規律付ける再規制は喫緊の課題だが、投資家の自制も求められる。金融の暴走の裏には投資家の過大な要求があり、国民大衆の年金運用なども含まれる。信用収縮の実体経済への影響にも配慮しつつ、制度設計すべきだ。
 所得と資産格差の是正は、税・財政による再分配機能を強化する政府の役割である。過度な報酬制度でゆがんだ部分があれば、企業の分配政策の是正も課題になる。少子高齢化社会の持続可能な社会保障には受益と負担に折り合いを付け、相互扶助の社会的連帯を回復する必要がある。
 政治と経済の目的は国民生活の安定と向上にある。民主政治と健全な社会を守るために、自由と規律、効率と公正の均衡の回復を目指す時だ。戦争やハイパーインフレの最悪の事態を避ける英知とともに、資本主義の自浄能力が問われている。(渾沌)

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