本日付の日本経済新聞「大機小機」は「企業は若者への投資を」。
若者を正社員として採用して育成していくには、「企業は大きな負担を強いられる」が、「企業の将来を背負うのは、こうした若者である。若者への投資を怠る企業は、将来に大きなリスクを抱えることになる」と指摘。
【大機小機】企業は若者への投資を
[日本経済新聞 2012/05/02]
5月1日は文部科学省「学校基本調査」の基準日となる。卒業生の就職動向や新入生の状況などがこの時点の数値で把握され公表される。
ことし卒業の大学生の就職状況は依然、氷河期を脱したとはいい難い。多くの企業が引き続き正規採用を絞ろうとしているからである。
企業の採用姿勢は、デフレ経済に突入した1990年代後半から大きく変わった。派遣社員などの非正規社員を増やす方向に急速に転換したのだ。
注目すべきは、2007年までの景気回復期にもこの傾向が変わらなかったことだ。総務省の統計によると、11年には雇用者の非正規比率が初めて35%を超えた。
非正規比率を上げようとすれば、企業は新規採用時点で正規社員を抑える。この結果、若年層の非正規比率が高くなる。これは2つの点で大きな問題をはらんでいる。
第1は、学卒時に不安定な雇用状態に置かれると、その後の復活が難しい、といわれていることだ。若者の一生の経済生活に影響するのはもちろん、貧困層の拡大にもつながる可能性が大きいのだ。
第2は、日本企業の競争力に関連する。正社員を抑えすぎると、企業の蓄積された知識・技術やノウハウの継承が困難になるのではないか。
先日、「QC(品質管理)サークル」が50歳を迎えた、という記事を本紙で読んだ。日本製品が品質のよさで世界を席巻したといわれた80年代に、日本的経営の神髄とみられたのが、現場で発生した問題の解決策を担当グループの議論で見つけ出すQCサークル活動である。
これは、正規社員として規則的な配置転換で幅広い技能を習得してきた従業員の集団があって初めて可能なのだ。社員の非正規化が進むとこの優れたシステムの維持が困難になろう。
非正規比率上昇の大きな理由は、日本経済の期待成長率の低下、新興国企業の台頭などで企業が先行きの業績に自信が持てなくなったからであろう。この点については最近、実証的に明らかにされている(太田聰一「若年者就業の経済学」)。
たしかに、若者を正規社員として採用して育成していくためには、企業は大きな負担を強いられる。しかし、企業の将来を背負うのは、こうした若者である。若者への投資を怠る企業は、将来に大きなリスクを抱えることになるだろう。(一直)