「決められない政治」のオンパレード

15日の民主党と自民・公明党の「合意」をうけて、各紙がいっせいに社説を掲げたが、「朝日」「毎日」「読売」が判で押したように「決められない政治」からの脱却だといって、礼賛している。

全国紙はいつから大政翼賛会になったのか?

社説:修正協議で3党合意―政治を進める転機に:朝日新聞デジタル
社説:民自公修正合意 「決める政治」を評価する:毎日新聞
社説:一体改革協議 修正合意へもう一段歩み寄れ : 読売新聞

まず、「朝日新聞」の社説。「『決められない政治』を脱する契機となることを願う」と言い、さらに国民への増税押しつけの合意を「政権交代がもたらした計算外の『成果』」とも言っている。

【社説】修正協議で3党合意―政治を進める転機に

[朝日新聞 2012年6月16日(土)付]

 多大な痛みを伴うが、避けられない改革だ。
 社会保障と税の一体改革をめぐる修正協議で、民主、自民、公明の3党が合意した。
 多くの政策課題が積み残しになった。民主党内の手続きも予断を許さない。それでも、この合意が「決められない政治」を脱する契機となることを願う
 高齢化の進展に伴い、年金や医療、介護の費用が膨らむ。
 低賃金の非正社員や、頼れる身寄りもなく子育てをする人が増えて、支援を求めている。
 財源が要る。それを借金に頼り、子や孫の世代に払わせるのは、あまりにも不誠実だ。
 なぜ「決められない政治」に陥ったのか。それは、政治家が厳しい現実と向き合うことから逃げてきたことが大きい。
 経済が右肩上がりで伸び、税収が自動的に増えた時代はとうに終わった。
 だが、選挙で選ばれる政治家は有権者に負担を求めるのが苦手だ。財源のあてもなく、あれもこれもやると公約するから実現できない。だれかが苦い現実を説くと、必ず甘い幻想を振りまく反対勢力が現れ、前へ進むことができない。
 「ねじれ国会」のもと、その弊害は目を覆うばかりだ。
 それだけに、国民に苦い「増税」を含む改革に合意した意味は大きい
 それは、政権交代がもたらした計算外の「成果」かもしれない。ばら色の公約を掲げて政権についた民主党だが、財源を見いだせず多くの公約をかなえられなかった。
 自民党に続き、民主党も政権運営の厳しさを学んだ2年9カ月だった。
 合意は、両党の隔たりが実は小さいことも教えている。
 独自色を出そうにも、財政の制約のなかでは、現実にとりうる選択肢は限られる。だから修正協議の主な争点は、法案そのものではなく、新年金制度など民主党の公約の扱いだった。
 2大政党が一致点を探り、実現していく例は増えるだろう。
 ただ、それには一長一短がある。政治が動くのはいいが、今度はその方向が問われる。
 たとえば自民党は、3年で15兆円を道路網の整備などにあてる国土強靱(きょうじん)化法案を提出している。時代の変化を見据えず、公共事業頼みに逆戻りするような主張をどう扱うのか。民主党も問われることになる。
 それでも、争うばかりの政治は卒業しなければならない。
 民主党執行部が、反対派にひるまず一体改革に党内の了承を取り付ける。それが出発点だ。

次は「毎日新聞」。「『決める政治』の一歩」「歴史に恥じぬ合意」という持ち上げぶりだ。

【社説】民自公修正合意 「決める政治」を評価する

[毎日新聞 2012年06月16日 02時30分]

 2大政党の党首が主導し、政治は崖っぷちで踏みとどまった。税と社会保障の一体改革関連法案の修正協議で民主、自民、公明3党が合意した。焦点の社会保障分野は民主党が公約した最低保障年金制度創設などの棚上げで歩み寄った。
 民主党政権の発足以来、初めてとすら言える「決める政治」の一歩であり、歴史に恥じぬ合意として率直に評価したい。だが、民主党内の対立は分裂含みで激しさを増しており、今国会成立というゴールまではなお、不安要因を抱えている。
 野田佳彦首相は党内のかたくなな反対勢力と決別し、ひるまず衆院での採決にのぞむべきだ。より広範な国民理解を実現するため、参院での審議などを通じ与野党は制度設計の議論を続けねばならない。

党分裂おそれず採決を

 民主党にとって譲歩に譲歩を重ねてようやくつかんだ、満身創痍(そうい)の合意である。とはいえ、首相が政治生命を懸けた消費増税で主要3党の共通基盤を築いた意味には極めて重いものがある。
 民主、自民両党とも複雑な内部事情を抱えつつ合意にたどりついたのは、日本が抱える財政危機の深刻さの裏返しだ。国と地方の債務残高が1000兆円規模に達する中で、増加する社会保障費への対応を迫られるという異常な状態だ。「決められない政治」からの脱却を目指し、混乱を回避することで既存政党が最低限の責任を果たしたといえよう。
 一方で、多くの課題を先送りしての決着であることも事実だ。さきの衆院選公約で民主党が掲げた最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止は財政の状況や見通しを踏まえて有識者会議で議論し結論を得るとされ、棚上げされた。新たな年金制度の実施に必要な財源や、現行医療制度を廃止した後の枠組みで民主党は説得力あるプランを示せなかった。大幅譲歩はやむを得まい。
 自民党は年金、医療で現行制度を基本とする「社会保障制度改革基本法案」の受け入れを求め、民主党に公約撤回を迫った。決裂も一時は危ぶまれたが、谷垣禎一自民党総裁は対案の修正で矛を収めた。
 野田内閣の足元をみて民主党をカサにかかって攻め立てただけに、自民党内にも不満が残る決着の仕方かもしれない。だが、年金、医療制度の不信や今日の危機的な財政状況を招いた責任の多くは自民党にあることを忘れてはならない。民主党の分裂や揺さぶりに血道をあげるばかりでは、逆に国民の反発を生んだに違いない。
 課題を残したのは、消費税率を2段階で10%まで引き上げる税制改革の制度設計も同様である。低所得者対策として、臨時に現金を出す簡素な給付措置では合意した。最も効果的な対策である軽減税率の導入は検討対象とされたが、実質的な結論は先送りされた。
 各種世論調査で消費増税への理解がなお浸透していない事実を軽視してはならない。公明党は今回の協議で8%からの軽減税率の導入を主張した。参院の法案審議などの場面を通じ、国民理解をより広げるためにも議論の継続を求めたい。
 当面の焦点となるのは、民主党の党内手続きである。3党が賛成すれば衆院通過は動かぬ情勢とはいえ、首相が衆院採決に向け、どれだけ多数を掌握できるかが問われる。

より理解を得る税制に

 修正協議で大幅譲歩を強いられた反発が「中間派」と呼ばれる勢力にも渦巻いている。看板政策の棚上げに不満が出ることはむしろ自然だ。なぜ、この合意に至ったかを首相や執行部が説明し、協力を求めるしかあるまい。
 一方で、理解しがたいのは政府・与党が大綱で決めたはずの方針に公然と反旗を翻し、反対運動を展開している小沢一郎民主党元代表らの動きだ。修正協議での大幅譲歩を念頭に「自殺行為」「国民に対するぼうとく、背信行為」と批判するが、本質はあくなき権力闘争である。
 東日本大震災で被災地の復旧を迫られるさなかに民主党内の亀裂をさらした昨年6月の内閣不信任決議騒動と同様、小沢元代表を軸とする内紛は負の要因以外の何物でもない。もはや、同じ政党に水と油の勢力が居続けることは限界を来している。
 首相が会期末となる21日までに採決に踏みきることは当然だ。加えて、造反議員に対しては除名を含め断固たる処分でのぞむべきだ。
 首相は近く谷垣総裁との党首会談を行うとみられる。衆院での法案採決はもちろん、自民党が要求する早期の衆院解散と一体改革法案の処理をどう絡め、法案成立に必要な会期延長の幅をどうするかなどはなお、見通せていない。
 衆院議員の任期満了まで1年余となり、総選挙は次第に迫っている。社会保障の将来像は新設される会議に委ねられた。だが各党が責任ある案を練り、合意の前に国民の審判を仰ぐのもひとつの方法だろう。
 その意味でも、違憲状態が放置されている衆院「1票の格差」を是正する最低限の措置を与野党は一日も早く講じる責任がある。せっかく歩み始めた「決める政治」を壊してはならない

「読売」は、13日の段階で、「合意」へもう一歩踏み込むことを求め、「それが『決められない政治』から脱却する道である」と唱えた。

【社説】一体改革協議 修正合意へもう一段歩み寄れ

[2012年6月13日01時02分 読売新聞]

 民主、自民、公明3党による社会保障・税一体改革関連法案の修正協議が大きく動き始めた。
 結論を出す期限が15日に迫っている。3党ともさらに歩み寄って、修正合意をまとめてもらいたい。
 消費税率については、自民党が政府案通り、2段階で10%へ引き上げることを受け入れた。
 低所得者対策は、民主党が現金給付で対応するとしたのに対し、自公両党は、食料品などの軽減税率も必要だと主張してきた。
 今のところ、8%に引き上げる段階で現金給付を行い、10%で軽減税率を検討する方向だ。
 だが、生活必需品の税率を軽減することは、最も分かりやすく、効果的な対策となる。
 読売新聞の世論調査でも、75%の人が軽減税率を導入すべきだとしている。導入を先送りするのは大いに疑問だ。今から段取りをつけておくべきではないか。
 社会保障政策では、民主党が政権公約(マニフェスト)に掲げた「新年金制度の創設」と「後期高齢者医療制度の廃止」の取り扱いが焦点になっている。
 いずれも、有識者らによる「社会保障制度改革国民会議」を設置して議論を委ねる案が有力だ。現実的な政策でないことは明らかだが、民主党が撤回を拒む以上、まず合意することを優先し、一時棚上げするのは妥当である。
 政府が法案として提出している子育て支援策と現行年金制度の改善策には、乗り越えられないほどの対立点はない。
 子育て支援策は、政府・民主党が、幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園」構想を取り下げて、自公政権でスタートした「認定こども園」制度を拡充していくことで折り合えよう。
 3党は、パートへの厚生年金適用拡大や厚生・共済年金の一元化などでも、ほぼ一致している。
 対立が残るのは、低年金・無年金者の救済策だ。民主党は、所得の低い高齢者への年金加算を主張し、自民党は生活保護で対応すべきだとしている。公明党は民主党の考え方に近い。
 これも、年金制度と生活保護の両者の性格を兼ね備えた新政策とする方向で知恵を出し合えば、一致できるはずだ。
 民自公3党が信頼関係を深め、修正協議で一体改革を実現できれば、意義は大きい。今回先送りした課題のほか、様々な懸案で合意形成することも可能になろう。
 それが「決められない政治」から脱却する道である。

そして16日にはこんな社説をかかげた。

【社説】一体改革合意 首相は民主党内説得に全力を

[2012年6月16日01時17分 読売新聞]

 長年の懸案である社会保障と税の一体改革の実現に向けて、大きな前進と、歓迎したい。
 民主、自民、公明3党が、一体改革関連法案の修正協議で合意した。当初の予定通り、今国会会期末の21日までの法案の衆院通過を目指す。
 社会保障分野に関する各党の主張に隔たりがあり、交渉は難航したが、各党が譲り合い、合意を形成したことは高く評価できる。これを「決められる政治」に転じる貴重な一歩としてもらいたい。
 野田首相は、自民党の対案を基本に合意をまとめるよう民主党の交渉当事者に指示し、年金制度や子育て支援策で大幅に野党に歩み寄る決断をした。
 自民党も、これに呼応し、自民案の「丸のみ」という要求を取り下げて譲歩した。野党ながら、自民党が果たした役割は大きい。
 焦点だった最低保障年金の創設と後期高齢者医療制度の廃止については、民主党の政権公約(マニフェスト)の撤回にこだわらず、一時棚上げして、「社会保障制度改革国民会議」で結論を出すことで折り合った。
 自民党が撤回に固執すれば、民主党の増税反対派に加え、中間派も反発して党分裂含みになり、採決が困難になる恐れがあった。
 民主党の公約撤回に強くこだわっていた公明党も、3党合意に自党の主張が一定程度反映されたことを評価し、最終的に合意に加わった。この意義は大きい。
 一体改革は、どの党が政権を取っても取り組まざるを得ない中長期的な重要課題である。できるだけ多くの党が賛成して、法案を成立させることが望ましい。
 社会保障改革の結論が先送りされたことを、単純に「増税先行」と批判するのは間違いである。
 増税の実施は再来年4月だ。1週間の修正協議で強引に結論を出すのと比べて、1年間かけて国民会議で議論し、より良い政策をまとめることは悪くない。
 今後は、民主党が今回の合意内容を了承して採決に臨めるかどうかが、最大の焦点となる。
 小沢一郎元代表らは、「増税より前にやるべきことがある」との相変わらず無責任な論法で、増税反対勢力の多数派工作を展開し、野田首相を揺さぶっている。
 民自公3党が合意したのに、政権党の足並みが乱れ、採決ができないような事態は許されない。
 一体改革の成否がかかる正念場だ。首相は、党内の反対を最小限に抑えるため、まさに政治生命を懸けて党内を説得すべきだ。

消費税増税が「決められない」一番の理由は、国民世論の反対の強さ。それを無視して、さらに国会審議もそっちのけで、3党で「合意」を結んで押し通そうとするのは、民主主義の破壊行為以外のなにものでもない。それを「決められる政治」への第一歩であるかのように礼賛するのは、メディアの自殺行為というほかない。

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