『資本論』第2部第15章の第4表について考えてみました

『資本論』第2部第15章を精読しています。ここでマルクスは、労働期間と通流期間の長短で資本の回転がどんな影響を受けるかを考察しているのですが、その第3節に出てくる第4表をよくよく眺めていると、変なところがあるのに気がつきました。

第4表では、労働期間4週間、通流期間5週間で回転期間は計9週間と想定されています。だから、第1週の初めに投下される資本Iは、第4週末に労働過程を完了し、第5週初めから通流過程に入り、第9週の終わりには通流を完了し貨幣で還流します。ところが、第4表をよく見ると、その資本Iの2回目の回転が、第9週から始まっています。しかし、第9週末に還流する資本は第10週にならないと、新しい回転を開始できないはず。なのに、第2回転期間は第9週に始まり第17週に完了、第3回転期間は第17週に始まるというように、それぞれ前の回転期間の最終週と次の回転期間の開始週とが重なっています。

これまでの表ではどうだったかというと、第1表でも第2表、第3表でも、第1回転期間の終了週の翌週から第2回転期間が始まっています ((第1表の資本IIは週の途中で回転が始まるのでわかりにくいが、第1回転期間は第13週の前半で終わり、第2回転期間は第13週の後半から始まるので、やはり重なり合ってはいない。))。

ところが、第4表だけ、資本Iは、1回目の回転が第9週の終わりに完了し、そこではじめて還流するにもかかわらず、2回目の回転は第9週の初めから始まるとされ、3回目の回転も、2回目の回転が第17週の終わりにようやく完了するのに、第17週の初めから始まるとされているのです。これはいったいどういうことでしょうか!?!

実は、新日本出版社の『資本論』では、この第4表に訳注が付いていて、次のように書かれています。

 *1〔アドラツキー版、フランス語版、イタリア語版、スペイン語版では、ここに次のような注がつけらられている。「この表をカウツキーは、カウツキー版第二巻で『訂正』し、これをマルクスの『はなはだしい疲労』とエンゲルスの見落としのせいにしている。実のところ彼はこの表を理解しなかったのである。この表は次のように理解すべきである――資本IIの労働期間の終わりには、資本Iの400ポンド・スターリングがまだ流通から還流していない。そのため生産過程に中断が生じるのを避けるため、第9週に100ポンド・スターリングの追加資本IIIが必要であり、これによって新たな労働期間が始まる。第9週の終わりに資本Iの400ポンド・スターリングが流通から還流する。そのうち300ポンド・スターリングは、なおこの資本の第二労働期間の残り(第10〜22週)のために使用されうるが、100ポンド・スターリングは遊離される。この100ポンド・スターリングは資本IIの第二労働期間(第13週)に使用される。そのさいの回転は資本Iと同じように行なわれる。すなわち、資本IIIは生産過程の中断を防ぐ任務をもつだけであり、なんらの自立的な役割も果たさない。この過程をその運動全体のなかで考察すれば、マルクスの言う諸資本の絡み合いが明らかとなる。それによって第9・10〜12週などといった特殊な記述様式も説明される〕

新日本版にはカウツキー版で訂正された表が載っていないので、カウツキーが第4表をどう訂正したのか、その訂正がなぜ間違っているのかわかりませんが、長谷部文雄訳(青木書店版)、向坂訳(岩波文庫)にはアドラツキー版の編集注が訳載されていて、さらにカウツキー版の訂正された第4表も載せられています。

それをみると、カウツキーも、先ほど指摘した点――つまり、前の回転期間の終わりの週と次の回転期間の始まりの週が重なっていることに疑問をもったようで、次の回転期間の開始をそれぞれ1週間ずつ繰り下げた表になっています。

しかし、よくよく考えてみると、カウツキーのように直したとしても、やっぱり第4表はよくわかりません。というのは資本IIIの回転の仕方がどうも変だからです。資本IIIも回転期間は9週間なので、第9週に投下された資本IIIは第17週末になって初めて還流するはずです。にもかかわらず、第4表では、第17週にふたたび投下されており、同じようその再投下された資本IIIは第25週末にようやく還流するはずなのに、第25週初めにすでに再々投下されています。だいたい、資本IIIはこんなふうに独立した回転期間を形成するのかどうかも疑問です(そもそも、労働期間は4週間あり、400の資本投下が必要。だから100だけの資本IIIでは1週間分にしかならず、そのままでは労働期間を完結できない)。

そこで、あらためて回転がどうなるのか、1つひとつ順番に考えてみました。この場合、資本I、資本IIはぞれぞれ400、労働期間は4週間、通流期間は5週間、回転期間は合計9週間です。ただし労働期間より通流期間のほうが長いので、第2労働期間が終わっても資本Iはまだ還流しておらず、そのために追加資本III(100)が必要になります。

第1労働期間(第1〜4週)
資本I(400)は、第1週初めに生産過程に投下され、生産は第4週末まで続く。そのあと流通過程(第5〜9週)に入り、第9週末に還流する。
第2労働期間(第5〜8週)
第5週初めに資本II(400)が投下され、生産は第8週待つまで行なわれ、そのあと流通(第9〜13週)に入り、第13週末に還流する。
第3労働期間(第9〜12週)
まず第9週の初めに追加資本III(100)が投下されて、第3労働期間が開始される。第9週末に資本I(400)が第1回転期間を終えて還流する。そのうち300が第10週初めに投下され、第12週末まで生産が続行される(この400は第17週末に還流する=第3回転期間)。その間、100が遊離したままになる。
第4労働期間(第13〜16週)
第13週初めに、その遊離した100(もとは資本Iの一部)が投下されて、第4労働期間が開始される。第13週末に、資本II(400)が第2回転期間を終えて還流する。そのうち300が第14週初めに投下され、第16週末まで生産が続行される(この400は第21週末に還流する=第4回転期間)。その間、100が遊離したままになる。
第5労働期間(第17〜20週)
第17週初めに、その遊離した100(もとは資本IIの一部)が投下されて、第5労働期間が開始される。第17週末には、第3回転期間を終えた資本400が還流し、そのうち300が第18週初めに投下され、第20週末まで生産が続行される(この400は第25週末に還流する=第5回転期間)。その間、100が遊離したままになる。
第6労働期間(第21〜24週)
第21週初めに、その遊離した資本100が投下されて、第6労働期間が開始される。第21週末には、第4回転期間を終えた資本400が還流し、第22週初めにそのうち300が投下されて、第24週末まで生産が続行される(この400は、第29週末に還流する=第6回転期間)。その間、100が遊離したままとなる。
第7労働期間(第25〜28週)
第25週初めに、その遊離した資本100が投下されて、第7労働期間が開始される。第25週末には、第5回転期間を終えた資本400が還流し、第26週初めにそのうち300が投下されて、第28週末まで生産が続行される(この400は、第33週末に還流する(第7回転期間)。その間、100が遊離したままとなる。

つまり、第17週初めに投下される資本100は資本IIIではなく、第13週末に還流した資本IIの一部だし、資本IIIは、資本Iの一部と合体されて第3回転期間をへて第17週末に還流しますが、それが新たに投下されるのは第21週初めになるのです。この点で、第4表で資本IIIが第17週と第25週に投下されるように書かれているのは、明らかに不正確だと言えます。そして、この点は、カウツキーによる修正によってもなんら訂正されていません。訳注に書かれている、アドラツキー版等の注も、そこまで説き及んではおらず、第4表の誤りを訂正するものとはなっていません。

ま、そうは言っても、もともとこの資本I, II, IIIの相互に絡み合った回転を、どうすればわかりやすく表で示せるかは、とても僕にはわかりませんが。

現行『資本論』では、ヴェルケ版ページ数で280ページから、この第4表の説明が始まっています。ここの文章も、エンゲルスによってかなり書き直された文章になっています。むしろ草稿を見ると、マルクスは、資本III(100ポンド・スターリング)が資本Iの労働過程に入り込むことによって、資本Iの循環期間が1週間だけ短縮される、つまり、資本IIIが労働過程に入り込むことによって、資本Iの労働過程が1週間だけ早く始まる、というふうに説明をしています。この説明のほうが第4表の読み方としては、表に即したものになっているのではないでしょうか(ただし、その説明の仕方は、第1表から第3表までの説明のしかたとは違ってますが)。

ということで、第4表の解読作業はおしまいです。^^;