日本経済新聞の有料会員限定記事に、こんな面白い記事が載っていました。そのなかに、アベノミクスによる株高で、個人オーナー株主の株資産がどれぐらい増えたのかという一覧表が出ていました。
株高で資産増100億円超 個人株主38人の顔ぶれ:日本経済新聞
公表されている持ち株数をもとに、2012年11月14日の株価と2013年4月11日の株価とを比較して、どれだけ保有株の時価総額が増えたかを計算したというのです。それによれば――
ソフトバンクの孫正義氏が4673億円、ユニクロの柳井正史が4104億円(他に、柳井一海氏853億円、柳井康治氏853億円、柳井照代氏414億円)、楽天の三木谷浩史氏が743億円(他に三木谷晴子氏516億円)、松井千鶴子さんが349億円(しかし、旦那の松井道夫・松井証券社長は出てこない)、京セラの稲盛和夫氏が114億円などなど、有名な方々の名前がずらりと並んでいます。
株高で資産増100億円超 個人株主38人の顔ぶれ
[日本経済新聞電子版 2013/4/15 21:15]
証券部 藤原隆人
安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」相場で資産増大の恩恵を受けた個人は誰か――。アベノミクス相場が始まってからの個人株主の資産増減を試算したところ、資産を100億円以上増やした人が38人にのぼることが明らかになった。金額を増やしたのは企業経営者でもある個人オーナー株主が大半で、株式市場では、資産価格の上昇を背景にした投資や消費を通じた相場の押し上げ期待が高まっている。
日経会社情報2013年春号の大株主情報の保有株数に基づいて、アベノミクス相場が始まる直前の2012年11月14日時点と2013年4月11日時点の株価をかけて、それぞれの時価総額を算出。差額を計算して保有株の資産の増減を試算した。増加額はトップがソフトバンクの孫正義社長で4673億円、2位がファーストリテイリングの柳井正会長兼社長で4104億円。この2人は別格として、楽天の三木谷浩史社長は個人名義では743億円だが、資産管理会社の保有分も含めると実質は1000億円を超える増加額になったもようだ。このほか、キーエンスのオーナーの滝崎武光会長やイトーヨーカドー創業者の伊藤雅俊氏などは個人株式の「長者番付」でおなじみの名経営者・オーナーだけに上位に顔を出しても驚きは少ないかもしれない。
着目されるのは、リーマン危機以降、元気がなかった不動産関連やベンチャー企業の株主が上位に顔を並べている点だ。不動産流動化のレーサムの田中剛社長は459億円、戸建て・マンション分譲のアーネストワンの西河洋一社長も247億円増やしたほか、戸建て分譲の飯田産業の森和彦会長も225億円、保有株の時価を増やした。デフレ脱却期待からレーサムはアベノミクス相場後に11日までに株価が6.5倍、アネストワンは86%、飯田産業はほぼ3倍に上昇した恩恵を受けた。
ベンチャー企業の経営者・株主の社長の顔も目立つ。アベノミクス相場が始まってから新規株式公開(IPO)した企業では、スマホ向けゲームのコロプラの馬場功淳社長が397億円(便宜上、上場前は資産価値をゼロとして計算)、ミドリムシを活用した健康食品などを製造販売するユーグレナの出雲充社長が108億円。上場経営者は資産を増やすことを主眼に上場するわけではないが、IPOにより結果的にそれまでの経営努力が報われた格好だ。アベノミクス相場の前に上場していたベンチャー企業の経営者も、料理レシピ投稿・検索サイトのクックパッドの創業者の佐野陽光氏のほか、メガソーラー(大規模太陽光発電所)向けの架台が好調な日創プロニティの石田利幸社長は昨年11月時点ではわずか5億円の資産価値だったのが、一気に110億円も資産価値を増やした。純投資としては最大の個人株主として知られる、竹田和平氏も表には出てこないが資産価値を29億円増やした。
不動産分野の経営者が元気になることは、内需拡大とデフレ脱却に向けたカギの一つ。創意工夫で社会に革新を起こしたベンチャー企業の発展も日本の成長戦略に欠かせない。「起業家オーナーの資産価値が上昇すればリスク許容度も高まり、個人、会社を通じて成長に向けた新たな投資や消費の拡大が期待できる」(SBI証券の鈴木英之投資調査部長)。株式市場では、起業家マインドの高まりを通じた投資拡大、資産家ならではの高額消費を通じてマネーが日本中で好循環することに期待が集まる。
過去を振り返っても、株価が上昇してオーナー経営者の資産価格が高まった時には、社会に意義のある新規事業やM&Aが活発になっていた。ソフトバンクの成長の軌跡をみても、低価格な家庭向けインターネットの常時接続サービスを始めたのは2000年のIT相場の直後だ。英ボーダフォンの日本法人を買収して携帯事業に参入したのは小泉郵政改革相場で株高になっていた2006年だ。
デフレ脱却と経済成長を目指すアベノミクスは、株高に伴う資産価格上昇に始まったが、株式相場が織り込んだ経済成長が実体経済に反映されてくるのはこれからだ。アベノミクス相場を息の長いものにするためには、こうした個人オーナー株主が企業経営者としても、個人消費者としても積極的になってもらうことが期待されそうだ。