フィナンシャルタイムズ紙がふたたび安倍首相の歴史修正主義を批判

日本経済新聞電子版に、フィナンシャル・タイムズ紙(5月24日付)の安倍首相の歴史修正主義批判の記事が訳載されていました。

[FT]歴史を修正しても日本は復活させられない:日本経済新聞

[FT]歴史を修正しても日本は復活させられない

[日本経済新聞 2013/5/27 7:00]

(2013年5月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ニュースの見出しは、日本が戻ってきたと叫んでいる。安倍晋三首相は、10年以上も舞台脇で控えていた日本を舞台の中央へと押し戻した。5月第4週の混乱を別にすると、株式市場は高騰に沸いてきた。消費者はお金を使っており、経済成長は上向いているように見える。海外では、日本が注目の的になっている。
 この流れの反転について言うべきことは3つある。最初の2つは主に前向きなこと、3つ目は著しくネガティブなことだ。
 安倍氏が来月の主要8カ国(G8)首脳会議に姿を現す時、他国の首脳はまず間違いなく、同氏のことを知ろうとするだろう。安倍氏の前任者たちに当たる近年の日本の首相については、同じことが言えなかった。
 首相官邸の出入り口は、高速の回転ドアだった。2006年以降、12年に安倍氏が選挙で勝利を収めるまでに、年数と同じ数だけ首相がいた。世界各国の首脳は、次の大きな会合までには姿を消していることをほぼ確信しながら日本の首相と握手した。米国のバラク・オバマ大統領は特に、こうしたはかない出会いに費やされる時間の無駄にいら立ったと言われている。

■国益を守るために強い経済が不可欠

 もちろん、安倍氏もこの回転ドアを通った首相の1人だ。06年から07年にかけて機能不全の政権を率いた。だが、安倍氏の政治的展望は今、今世紀初めの小泉純一郎首相時代以降のどの首相よりも明るい。
 与党・自民党は7月に参議院選挙を戦うが、世論調査が何らかの目安になるのだとすれば、同党は安定多数の確保に向かっている。不測の事態がなければ、安倍氏はこれで、17年の次の衆議院選挙まで続投が見込めることになる。
 当面続投する可能性の高い首相がいるという単純な事実は、日本に国際問題における存在感を与える。これまで痛ましいほど欠けていたものだ。日本の復活は、自己主張を強める中国があおる緊迫した東アジア情勢の変化と時を同じくして起きた。もし安倍氏が1つのメッセージを発しているのだとすれば、国外で日本の国益を守るためには、国内における経済的な強さが不可欠だということだ。
 安倍氏は自身の政治的資本を使うつもりでいる。首相は自党の意見に反し、環太平洋経済連携協定(TPP)を創設する米国主導の貿易交渉に日本を参加させたいと思っている。この取り組みは、自民党と農業保護主義との強い結び付きを前に行き詰まる可能性もあるが、安倍氏は、貿易協定というものが経済的であるのと同じくらい地政学的な枠組みであることを理解している。日本の首相としては久しぶりに、戦略的な利益を国内の内輪もめより優先させる人物なのだ。
 安倍氏が取った最も大胆な対策は、国内経済に関するものだった。これが筆者が挙げる2つ目の前向きな要素だ。
 安倍氏は大規模な財政刺激策と日銀のトップ交代をはじめとして、日本を停滞から脱却させるための3本柱の計画に乗り出した。前代未聞の金融刺激策、政府支出の拡大、そして約束されている構造改革が世界第3の経済大国に息を吹き込むことができなければ、何をもってしても不可能だろう。

■大国として日本をよみがえらせる決意

 リスクはたくさんある。23日の株価急落は、アベノミクスも市場心理の変化と無縁でいられないことを示した。日本の近隣諸国の間には、円相場の下落に対する大きな不安がある。国内経済に弾みをつけるための正当な行動と近隣窮乏化的な通貨切り下げは紙一重だ。最近は、世界中の中央銀行が未踏の領域で活動しているが、日銀の黒田東彦総裁はまさに独りぼっちだ。
 失われた20年を経て、停滞パターンを打破するためには何かしなければならなかった。消費者の信頼感と支出の回復に続き、輸出と投資の回復が見られる可能性は十分ある。また、日本がはまり込んでいた悪循環にかわる好循環が生まれる可能性さえある。
 だが、安倍氏の念頭にあるのは経済だけではない。首相のエネルギーは、プレーヤーとしての日本の地位を取り戻す、より具体的には、地域において侮れない大国として復活させるという大きな決意から来ている。この日本国首相は中国にいいように振り回されるつもりはない。それを言えば、日本にとって不可欠な同盟国である米国に翻弄される気もない。
 安倍氏は既に国防費を増額しており、集団的防衛に参加できる軍隊を創設するために憲法を改正する意向だ。
 我々はここで大きなネガティブな要因に突き当たる。

■過去の書き換えで得るものはない

 愛国主義と国民精神に訴える安倍氏の取り組みは、危険な歴史修正主義の色を帯びている。前世紀前半の朝鮮半島と中国における日本の残忍行為について問われた時、首相は言葉をぼかした。安倍内閣のベテラン閣僚は、十数人のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社を参拝する。また、戦時中に占領軍の兵士のための売春婦として朝鮮の女性を隷属させたことに対する日本の責任には疑問符が付けられた。全体的に見ると、ここに漂うのは、謝罪することにうんざりした日本のムードだ。
 すぐに現れた影響は、韓国との関係を悪化させ、米国を警戒させたこと、そして、地域の緊張を高めているのは中国の拡張主義ではなく日本の国家主義だと主張する中国に武器を与えてしまうことだった。東シナ海の海上でのにらみ合いが続く中、米国政府が恐れているのは、安倍氏が日米安全保障条約を、日本が身を守りながら中国に一発食らわせることができる盾のように扱っていることだ。
 日本にはいら立つ理由がある。中国の侵入は、日本の施政下にある尖閣諸島(中国名・釣魚島)を巡る領有権紛争をエスカレートさせた。しかし、この問題に対する解決策は、臆面もない日本の国家主義を復活させることではない。
 安倍氏は東アジア全域で昔の対立関係と憎悪の残り火をあおっている。首相が日本の強さを取り戻したいのであれば、経済を復活させることによってそうすべきだ。過去を書き換える取り組みによって得られるものは何もなく、失うものは大きい。
By Philip Stephens

フィナンシャルタイムズ紙の元記事はこちら↓。

Shinzo Abe will not revive Japan by rewriting history – FT.com

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