先日、拙ブログで紹介したフィナンシャル・タイムズ紙の記事が、日本経済新聞電子版に転載されました。
[FT]日の出の勢いだった橋下氏、慰安婦発言で失速:日本経済新聞
[FT]日の出の勢いだった橋下氏、慰安婦発言で失速
[日本経済新聞電子版 2013/5/29 7:00]
(2013年5月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ずけずけとものを言う若い大阪市長・橋下徹氏は、半年前には日本の既存の政治勢力を脅かす勢いだった。同氏が東京に次ぐ重要都市で立ち上げた日本維新の会は、あっという間に国政政党に出世した。
昨年12月の総選挙後にはキングメーカーになるとの見立ても多かった同氏は今、自らの政治生命のために戦っている。形勢が逆転したのは、経済と外交の大国としての日本再生に取り組んでいる安倍晋三首相の下で、野党の弱体化が広がっているためでもある。
橋下氏は27日、日本外国特派員協会の記者会見に臨み、日本が戦争中に利用した「従軍慰安婦」を巡る自身の発言について説明した。従軍慰安婦とは、日本軍の売春施設の非人間的な状況で働いた数万人の女性たちのことで、その多くはだまされて、あるいは無理やり売春に従事させられた。
橋下氏は今月、戦時の兵士に必要であり正当と認めることもできるはけ口を提供したものだという趣旨の、日本軍の行為を擁護しているように見える発言をしたことで怒りを買った。
慰安婦にされた被害者の団体から安倍氏に至るまで――安倍氏自身、被害者たちが受けた虐待に対して日本が負う公的責任の程度に疑問を呈したことがある――ありとあらゆる方面から批判された。■維新の会も野党も支持下がる
維新の会の支持率は急低下している。ある世論調査では、今夏行われる参議院選挙で同党に投票すると答えた人は全回答者の3%にとどまった。昨年12月の衆議院選挙では野党第1党に手が届きそうだった同党にとって、この支持率の急落は屈辱的だ。
橋下氏の挑発的な発言は、自分の主張への支持を再度盛り上げることを狙った意図的な試みだと見る向きが日本国内にはある。今回はそれが度を越してしまい、裏目に出たというわけだ。
橋下氏はテレビ番組の毒舌コメンテーターとして世間の注目を集めた弁護士で、大勢とは逆の立場から意見を述べて人をあっと言わせることの多い珍しい存在としてキャリアを積んできた。彼が思う、非常に厳密な「ポリティカル・コレクトネス(差別や偏見が含まれない言葉遣いをすること、政治的に正しいこと)」への批判を、一般の人々が感じてくれると、橋下氏は読み誤ったのかもしれない。
特定組織に属していない政治学者の本田雅俊氏は、従軍慰安婦発言問題が持ち上がる前から維新の会の支持率は低下していたと指摘する。安倍氏と自民党が経済成長のための積極的な計画を示したことや、国際舞台で「日本は戻ってきた」と宣言することにより、日本人としてのプライドに訴えかける橋下氏のお株を奪ったことなどがその背景にあるという。
「日本を再生することが最大の目標だと安倍首相は言っている」と本田氏。「(維新の会が)やりたいと思っているまさにそのことを首相は今やろうとしている」
ほかの野党も苦しい状況に置かれている。安倍氏が昨年12月に打ち負かした民主党は混乱状態にあり、支持率は約6%と低迷している。有権者の約半数は自民党が最も好ましい政党だと考えており、安倍政権への支持率は70%に達している。このため、自民党が少数派の参議院の選挙では、安倍氏が勝利を収めて政権基盤を強化する公算がかなり強まっている。
橋下氏は27日、自分は戦時中の慰安所を容認したことは1度もなく、単に当時の軍司令官の考えを説明しただけだと述べた。また、その多くが日本の支配下にあった朝鮮半島から募集された慰安婦の利用を「女性の尊厳と人権をじゅうりんする決して許されないもの」と呼んだ。■主張は曲げず
27日の説明は、橋下氏の当初の発言を伝えた日本メディアの報道と矛盾しているように見える。報道によると、橋下氏は、兵士が戦場で経験するストレスと危険を考えると「慰安婦制度が必要なのは誰でも分かる」と述べたとされる。
橋下氏は、沖縄に駐留する米軍兵士は、地元女性に対する性的暴行事件を減らすために沖縄の「風俗産業」を活用すべきだと述べ、さらに信頼を損ねた。
同氏は27日、この発言については謝罪したが、他国の軍も性的虐待を犯したことを考えると、日本だけが慰安婦に関して不当に責められているとする発言など、議論を呼ぶその他の主張は曲げなかった。
橋下氏は、現地の仲介業者に大きく依存していた慰安婦制度について、国の責任に対する行き過ぎた主張から日本を守るために、日本が1993年に元慰安婦に対して行った謝罪を「明確にすべきだ」と発言。賠償を巡る韓国との論争については、国際司法裁判所に判断を委ねることもできると示唆した。
韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は後半の発言を「見苦しく、恥ずべきもの」と呼び、日本に対し、補償に関する直接協議への参加を求めた。