意外と優雅なF式生活?! 倉谷うらら『フジツボ』

倉谷うらら『フジツボ 魅惑の足まねき』(岩波科学ライブラリー)

岩波科学ライブラリーの最新刊の1つ。倉谷うらら『フジツボ 魅惑の足まねき』

フジツボと言われると、みなさんはどんなイメージをもたれるでしょうか? 本書でも紹介されていますが、「ビッシリ、ベッタリ、気持ち悪い」などなど。ところが、これがフジツボ研究者に言わせると、「可愛い、チャーミング、繊細、わくわくする、蠱惑的」等々。著者は、フジツボに敬愛をこめて、これをFと呼んでいます。

で、そのフジツボ、分類学的にはいったい何の仲間なのか?

貝と思っている人が多いかも知れませんが、実は、カニやエビと同じ甲殻類の1つ。植物のつるのような脚をもつところから、蔓脚類(まんきゃくるい)と呼ばれるそうです。で、大別すると、例の、岩肌などにベッタリ張り付いている無柄目と、エボシガイのような柄のある有柄類の2種類。実に5億3000万年前のカンブリア紀から進化してきた生物なのだそうです。

おもしろいと思ったのは、進化論で有名なあのダーウィンが、若いときに進化論の着想を得てから、実際に進化論を発表し、『種の起源』を書くまでの間に、実はずうっとフジツボの研究を続け、『フジツボ総説』という全4巻の大著を著わしていたこと。すでに、この本のなかで、フジツボの進化に即して、有柄類から無柄類へ、化石でしか残っていない種類から現生種へと分類されているそうです。

フジツボは、甲殻類なので、煮込むと、カニやエビのような味がするそうです。日本でも、ミネフジツボという大型種が食用に供されているけれども、殻つきでキロ3000円という高級食材。チリでは、ピコロコと呼ばれるでっかいフジツボが市場で山積みになって売られているそうな。

ちなみに、チリの人民連合政権をささえた詩人パブロ・ネルーダも、このピコロコの詩を残していて、本書でも紹介されています。しかし、はたして著者は、人民連合政権や軍部がそれをくつがえしたクーデター(映画「サンチャゴに雨が降る」にもなった)のことをご存じなのかどうか、それは分かりませんが。(^^;)

日本では、フジツボの「都市伝説」というのが広まっているそうです。岩場でフジツボで足を切った人が、しばらくすると激痛が走るようになり、病院で調べたら、体の中にフジツボが…、というもの。本当にそんなことがあるのか? と、取材を受けたフジツボ研究者も多いらしいのですが、著者は、国際学会などの機会に、わざわざ海外の研究者に、そうした話を聞いたことがあるかどうかと尋ねて回ったそうです。その結果、こうした「都市伝説」があるのは日本だけ。それだけ、日本では「気味悪い」ものの代表にされている、ということなのかもしれません。

しかし、日本でも、江戸時代の「草本学」の図鑑などには、フジツボのきれいな絵が残されていて、決して昔から嫌われていたわけではなさそう。もともと「藤壷」と書かれていたせいか、『源氏物語』との連想があって、源氏物語54帖のタイトルを、いろいろなフジツボにあてはめた絵も残っているそうです。

ということで、フジツボを愛してやまない著者によって、フジツボ・アクセサリーの作り方まで紹介されている一冊。美しいフジツボの写真や挿絵が満載で、これを読めば、この夏、磯に出かける楽しみが倍増することは間違いありません。(^^;)

【書誌情報】
著者:倉谷うらら/書名:フジツボ 魅惑の足まねき/出版社:岩波書店(岩波科学ライブラリー159)/発行:2009年6月/定価:本体1500円+税/ISBN 978-4-00-007499-5

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