いろいろな資本論

海外の古本サイトで、『資本論』をあさっていると、実に、いろいろな『資本論』に出くわします。

マルクス、エンゲルスが直接携わって出版された『資本論』には、ご存知のように、次のものがあります。ドイツ語各版は、すべてマイスナー社から出版。

1867年   第1部ドイツ語初版
1872〜73年 第1部ドイツ語第2版
1872〜75年 第1部フランス語版(マルクスが仏訳文を点検)
1883年   マルクス没
1883年   第1部ドイツ語第3版(エンゲルス編集)
1885年   第2部ドイツ語初版(エンゲルス編集)
1887年   第1部英語版(エンゲルス監訳)
1890年   第1部第4版(エンゲルス編集)
1893年   第2部ドイツ語第2版(エンゲルス編集)
1894年   第3部ドイツ語初版(エンゲルス編集)
1895年   エンゲルス没

フランス語版は、1872年から75年にかけて分冊形式で、パリのモーリス・ラシャトール社から出版。準備中であったドイツ語第2版の原稿が定本で、ジョセフ・ロアが翻訳しましたが、マルクスは、その翻訳に満足できず、全面的に翻訳し直しています。

英語版は、扉の表記によれば、「ドイツ語第3版からの翻訳」で、訳者はサミュエル・ムーア、エドワード・エーヴェリングの2人。エンゲルスは「編集」となっています。

エンゲルス没後のドイツ語版としては、次のようなものが有名です。

カウツキー版

 初版1914年、第2版1919年。出版社はディーツ社(シュトゥットガルト)。定本はドイツ語第2版で、これに編集・校訂を加える形で出版されています(おそらくマイスナー社の版権との関係だと思われる)。また、「民衆版」(Volksausgabe)として、マルクスが、ドイツ語以外で行なった引用部分がドイツ語に翻訳されています(この形式は、その後、現在のヴェルケ版にも継承されている)。戦前の日本で、広く定本とされたもの。

インスティテュート版

 モスクワのマルクス・レーニン主義研究所による編集。長谷部文雄訳(青木書店)の定本。

ヴェルケ版またはディーツ版

 現在、ドイツ語でもっとも流布している版。旧東ドイツの社会主義統一党マルクス・レーニン主義研究所の編集で、『マルクス・エンゲルス著作集〔ヴェルケ〕』 ((日本では『マルクス・エンゲルス全集』という名前で大月書店から翻訳・出版されていますが、原タイトルは「著作集」。))の一部として出版されているほか、単行本としても発刊されています。出版社はディーツ社(ベルリン)。大月書店版『資本論』(全集、単行本、国民文庫)の定本。

しかし、古本サイトを検索していると、このほかにも、まだまだいろんな『資本論』にぶつかります。現物を確認できないので、確定的なことは分かりませんが、いろいろな古書店が公表している古書情報をあれこれ比較してみると、次のような版本があったことが分かります。

ベネディクト・カウツキーによる編集版

 古書店の書誌情報としては、Im Zusammenhang ausgewählt und eingeleitet von Benedikt Kautskyと書かれているので、簡約版なのかも知れません。ベネディクト・カウツキーはカール・カウツキーの息子です。出版社は、ライプツィヒのアルフレッド・クレーナー(Alfred Kröner)社。確認できる一番古い発行は1929年ですが、その後も何回か増刷されているようです。戦後も、シュトゥットガルトの同じくアルフレッド・クレーナー社から発行されています。戦前の版は398ページと356ページの二冊本。戦後の版は755ページで、ポケット版(Taschenausgabe)書かれているものもあります。1962年から64年にかけて、シュトゥットガルトのコッタ(Cotta)社からも再版されていますが、こちらは第1部957ページとなっています。

ユリアン・ボルヒャルト監修「通俗版」

  Gemeinverständliche Ausgabe. Besorgt von Julian Borchardt.(通俗版、ユジアン・ボルヒャルト監修)とあります。出版社はベルリンの E. Laub'sche Verlagsbuchhandlung。出版年は1920年、1922年、1931年などいくつかあるので、おそらく何度か増刷されたのでしょう。総ページ数は336ページなので、かなりの縮約版のようです。

カール・コルシュの序文付き Kiepenheuer 社版

 Ungekürzte Ausgabe nach der zweiten Auflage von 1872 mit einem Geleitwort von Karl Korsch aus dem Jahre 1932. 「1872年第2版にもとづく非短縮版。カール・コルシュによる序文付き」として、1932年に、ベルリンの Kiepenheuer 社から発行されたものです。総ページ数は768ページ。実は、1970年代に、コルシュの序文付きのペーパーバック版が、フランクフルトの Ullstein Verlag 社から出ています。その定本でしょうか? また、現在 Anaconda 社から出ている資本論も、これを再版したことになっているようです。

ADGB版

 1977年に西独の労働組合(ADGB Allgemeinen Deutschen Gewerkschaftsbundes)の出版部?が出したもの。やはり、第2版にもとづく非短縮版とされており、総ページも768ページなので、上の Kiepenheuer 社版と同じものかも知れません。同様なものは、1952年にも、ベルリンのドイツ労働組合総同盟出版部?(Verlagsgesellschaft der DGB)から出ているようです(これも総ページ768ページ)。

Verlag für Literatur und Politik版

 「文学と政治のための出版社、ウィーン、ベルリン、1932年」(Verlag für Literatur und Politik, Wien Berlin, 1932)とあります。総ページ数は965ページ。Alle Bände besorgt vom Marx-Engels-Lenin-Institut と書いたものがあるので、これがインスティチュート版なのでしょうか?

ほかにもまだまだいろんな資本論がありそうです。(^_^)

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