東京電力専門家チームが2007年に津波の影響を分析していた!!

ロイターが、福島原発事故に関連して、興味深い「特別リポート」を掲載。2007年に、東京電力の原発専門家チームが、実は、福島原発をモデルにして津波の発生と原発への影響を分析していたと指摘している。

特別リポート:地に落ちた安全神話―福島原発危機はなぜ起きたか:Reuters

特別リポート:地に落ちた安全神話―福島原発危機はなぜ起きたか

[Reuters 2011年 03月 30日 11:23 JST]

布施 太郎

 [東京 30日 ロイター] 巨大地震と大津波で被災した東京電力・福島第1原子力発電所から深刻な放射能汚染が広がっている。「想定外だった」と政府・東電が繰り返す未曽有の大惨事。
 ロイターが入手した資料によると、事故の直接の原因となった大津波の可能性について、実は東電内部で数年前に調査が行われていた。なぜ福島原発は制御不能の状態に陥ったのか。その背後には、最悪のシナリオを避け、「安全神話」を演出してきた政府と電力会社の姿が浮かび上がってくる。
 底知れない広がりを見せる福島第1原発からの放射能汚染。敷地内で原子炉から外部に漏れたと思われるプルトニウムが検出される一方、1、2号機のタービン建屋の外に放射性物質が流出していることも明らかになった。核物質を封じ込めるために備えた安全策は機能不全に陥っている。経済産業省原子力安全・保安院の担当者は29日未明の会見で「非常に憂える事態だ」と危機感をあらわにした。

<埋もれた4年前のリポート、福島原発モデルに巨大津波を分析>

 「津波の影響を検討するうえで、施設と地震の想定を超える現象を評価することには大きな意味がある」。こんな書き出しで始まる一通の報告書がある。東京電力の原発専門家チームが、同社の福島原発施設をモデルにして日本における津波発生と原発への影響を分析、2007年7月、米フロリダ州マイアミの国際会議で発表した英文のリポートだ。
 この調査の契機になったのは、2004年のスマトラ沖地震。インドネシアとタイを襲った地震津波の被害は、日本の原発関係者の間に大きな警鐘となって広がった。
 とりわけ、大きな懸念があったのは東電の福島第1原発だ。40年前に建設された同施設は太平洋に面した地震地帯に立地しており、その地域は過去400年に4回(1896年、1793年、1677年、1611年)、マグニチュード8あるいはそれ以上と思われる巨大地震にさらされている。
 こうした歴史的なデータも踏まえて、東電の専門家チームが今後50年以内に起こりうる事象を分析。その報告には次のような可能性を示すグラフが含まれている。
 ――福島原発は1〜2メートルの津波に見舞われる可能性が高い。
 ――9メートル以上の高い波がおよそ1パーセントかそれ以下の確率で押し寄せる可能性がある。
 ――13メートル以上の大津波、つまり3月11日の東日本大震災で発生した津波と同じ規模の大災害は0.1パーセントかそれ以下の確率で起こりうる。
 そして、同グラフは高さ15メートルを超す大津波が発生する可能性も示唆。リポートでは「津波の高さが設計の想定を超える可能性が依然としてありうる(we still have the possibilities that the tsunami height exceeds the determined design)」と指摘している。
 今回の大震災の発生を「想定外」としてきた東電の公式見解。同リポートの内容は、少なくとも2007年の時点で、同社の原発専門家チームが、福島原発に災害想定を超えた大津波が押し寄せる事態を長期的な可能性として認識していたことを示している。
 この詳細な分析と予見は、実際の防災対策にどこまで反映されたのか。ロイターの質問に対し、東電の武藤栄副社長は「(福島第1原発は)過去の最大の津波に対して余裕をもっている設計にしていた」とは説明。それを超えるような津波がありうるという指摘については、「学会の中で定まった知見はまだない」との認識を示すにとどまった。

<従来の事故想定は機能せず>

 大震災発生から5日経った3月16日。上原春男・佐賀大学前学長は、政府から一本の電話を受けた。「すぐに上京してほしい」。声の主は細野豪志・首相補佐官。東京電力の福島第1原発で発生した原子炉事故を受け、政府と東電が立ち上げた事故対策統合本部への協力を依頼する緊急電話だった。
 着の身着のままで佐賀空港から羽田空港に飛んだ上原氏は、統合本部のある同社東京本店に足を踏み入れ、思わず目を疑った。節電で照明を落とし、休日であるかのように薄暗い館内。その中を眉間にしわを寄せた同社社員や経済産業省原子力安全・保安院の職員たちがせわしなく行き来する。かつて彼らが見せたことのない悲壮な表情を目にして、上原氏はすぐさま事態の異様さを直感したという。
 上原氏の専門はエネルギー工学で、発電システムのプラントなどにも詳しい。6号機まである福島原発の原子炉のうち、3号機の復水器の設計に携わった。その知見を借りたい、というのが細野補佐官からの依頼だった。
 上原氏がかつて手掛けた3号機はすでに水素爆発を起こしていた。外部電源を失っているため、消防のポンプ車が海水をくみ上げ原子炉格納容器内に注入するという、なりふり構わぬ対応が続いていた。社内に危機管理のノウハウを持つはずの東電が、外部の専門家に救いを求める。それは従来の事故想定が機能しない段階まで事態が悪化していることを物語っていた。
 「危機対応も含めて安全管理のプロがそろっていたら、こんな状態にならなかったはずだ」と上原氏は悔やむ。

<遅れる判断、海水注入>

 原子力発電の世界に「アクシデント・マネジメント(過酷事故対策)」という言葉がある。「コンテンジェンシ―・プラン(危機対応計画)」と言い換えてもいい。1979年の米国スリーマイルアイランド原子力発電所事故を踏まえ、欧米などで導入が進み、日本でも1992年に原子力安全委員会が整備を勧告した。「原発では設計や建設段階、運転管理などすべての段階で安全を確保しているが、そうした安全上の想定を超え、さらに大きな事故が起こった場合に備えての対策」(電力会社広報)だ。
 ここでいう大事故とは「シビアアクシデント(過酷事故)」、つまり原子炉内の燃料に大きな損傷が発生するなど、現在の原発の安全設計では前提にしていない緊急事態を意味する。その起こりえないはずのシビアアクシデントが発生しても、被害を抑える措置ができるように原子炉や冷却装置などのハードウエアを整備する。同時に、そうしたシステムをどう運用して対応すべきか、ソフト面の行動規範も定めている。
 安全対策を二重、三重に講じて完璧を期したはずのその対策は、しかし、福島原発事故では機能しなかった。それは何故か。
 東京電力によると、アクシデント・マネジメントには、原子炉の暴走を抑えるために必要な措置として、注水機能や、電源供給機能の強化が盛り込まれている。ところが、地震後の大津波で、非常用ディーゼル発電機も含めたすべての電源が失われ、注水ができなくなった。この非常事態を前提とした具体的な対応策が、東電のアクシデント・マネジメントには存在しなかった。
 事故発生後の失策の一つは、1号機に対する海水注入の決断の遅れだ、と複数の専門家は見る。1号機の冷却装置の注水が不能になったのは11日午後4時36分。消防のポンプ車で真水を注入していたが、その真水の供給も途絶え、原子炉格納容器の水位は低下。冷却機能を急速に失って、翌12日午後3時半に1号機は水素爆発を起こした。
 現場にいた原子力部門の責任者、武藤栄副社長は「それ以前に海水注入の検討を始めていた」と話すが、実際に注入を開始した時刻は午後8時20分になっていた。
 海水注入の遅れが水素爆発を誘発し、それが現場の放射線環境の悪化を招く。作業員の活動は困難になり、対応がさらに後手に回る。初動を誤り、スパイラル的に状況が悪化していく悪循環の中で、福島原発は大惨事に発展した。
 武藤副社長は「想定外の津波が起こった。アクシデント・マネジメントは様々なことが起きた時に応用手段を取れるようにすることで、今回は最大限の努力を払った」と繰り返す。

<政府もコントロール機能が欠如>

 「東京電力も政府も、アクシデント・マネジメントが不十分だった」。原子力工学が専門で、地球環境産業技術研究機構の山地憲治・研究所長はこう指摘する。「シビアアクシデントが起こった時にどのように対処するのか。技術的な対応だけではなく、発生した時に誰がトップに立って指揮し、どういう体制で動くのかなどについて訓練や準備が大幅に不足していた」と分析する。
 政府にさえ、緊急時対応をコントロールする機能が欠如していた。アクシデント・マネジメントという表現自体は日本の法律には明記されていないが、同じ事態を想定しているのが原子力災害特別措置法だ。原子炉に大きな問題が生じた場合、政府が電力会社に必要な指示を出すことができると規定している。
 だが、政府からは適切な指示が出ていたのか。「自らの考えで海水注入の判断を行った」(武藤栄副社長)というのが東電の説明だ。政府関係者らによると、水素爆発後、政府は東電に対して非公式に海水注入を「指示」したものの、それはあくまで東電の責任において行うとの暗黙の前提があった。
 「政府は海水注入の判断を東京電力に任せず、政府の責任でやらせるべきだった」と山地所長は主張する。海水を注入すれば、塩分で機器が使えなくなり、「廃炉」にせざるをえない。山地所長によると、福島原発の設備を新たに作り直すとすれば、費用は1兆円程度になるという。東電の経営にとっては重大な決断だが、「すでに事態は個別企業の問題という枠を超え、国や社会に対して大きな危険が及ぶ状況に変わっていた。原災法に基づいて、政府が海水注入の意思決定を行い、早く指示を出すべきだった」というのが山地所長の意見だ。
 そもそも、政府の対応を決める原災法自体が、原子炉が制御不能になる事態を想定していない。菅直人首相は11日、同法に従って原子力非常事態宣言を出した。「原災法のもともとの狙いは、原発事故の際の地域住民の避難や屋内退避をどのように行うのかという点にある。制御不能になった原子炉そのものをどうやって止めるのかは主眼に入っていない」と経産省のある幹部は明かす。「誰もリアリティを持って、法律を作らなかった」(同)のである。

<問われる原子力安全・保安院の対応力>

 政府の事故対応と状況の分析については、経産省原子力安全・保安院が最前線の責任を担っている。だが、今回の事故は、その役割と遂行機能についても疑問を投げかけた。
 今回の事故では東電や関連会社の従業員が発電所に踏みとどまって危機処理にあたる一方で、地震発生時に集まった同院検査官は15日には現場を離脱し、1週間後に舞い戻るなど、その対応のあいまいさが指摘される場面もあった。
 「安全性に問題があり、人間が暮らすには不便が多かった」と、保安院の西山英彦審議官は弁明する。しかし、ある経産省幹部は「保安院は大規模な原発事故に対応する訓練もしていなければ、それに基づいて危機処理にあたる能力も十分にあるわけではない」と打ち明ける。
 同院は2001年の省庁再編により、旧科学技術庁と旧経産省の安全規制部門を統合、新設された。約800人で組織され、原発の安全審査や定期検査、防災対策などを担う。全国に立地されている原子力発電所に近接する場所に、オフサイトセンターと呼ばれる「原子力保安検査官事務所」を構え、検査官が発電所に毎日出向き、運転状況などをチェックしている。
 ある電力会社の技術系担当者は、検査官の働きについて「定期検査などは非常に厳しい。機器の寸法を図る測定器の精度までチェックするなど、検査は念が入っている」と説明する。しかし、民間の原子力専門家の中には「原子炉運転の仕組みなどは、保安院の検査官は電力会社に教えてもらうこともしばしば。検査と言っても、形だけのチェックをしているにすぎない」などの厳しい指摘も少なくない。

<安全基準への過信、リスクを軽視>

 震災発生後、日本政府や東電から流れる情報に対し、海外各国は過敏ともいえる反応を見せた。福島原発からの放射線漏れを懸念した米国政府は、日本に住む米国民に対して、日本政府の指示を上回る避難指示を出し、同原発から80キロ以上の距離に移動するよう促した。仏政府は自国民に日本からの脱出を助けるため、航空便を手配。さらに多くの大使館や外資系企業が職員や社員の日本脱出や東京以西への避難を進めている。
 海外には、日本が原発に対して高い安全基準を課してきたという認識がある一方、その有効性に対する日本の過信を疑問視する見方も少なくない。
 ウィキリークスが公開した文書によると、国際原子力機関(IAEA)の本部があるウィーンの米国大使館は2009年12月、ワシントンに対して、1本の公文書を送った。そこには、通産省(現経産省)出身で同機関の事務次長(原子力安全・核セキュリティ担当)を務めていた谷口富裕氏について、「特に日本の安全対策に対決するという点においては、彼は非力なマネージャーであり提唱者だった(Taniguchi has been a weak manager and advocate, particularly with respect to confronting Japan’s own safety practices.)」と記されており、同氏の取り組みに満足していない米国の見方を示唆している。
 IAEAは昨年、「世界への警鐘」として、2007年の新潟県中越沖地震についての報告書を発表。そのなかで、これまでの原発の放射線漏れ対策は、主として装置の不具合や作業員のミスなど原発内部のリスク要因に目を向けていた、と指摘。さらに同地震の例を引きながら、「最大の脅威は原発の壁の外にあるだろう」として、地震や津波、火山噴火、洪水などの激烈な自然災害の発生を想定し、一段と備えを強化するよう求めた。
 その警告は、今回の福島原発の惨事において、どこまで生かされたのか。放射線被ばくの危険にさらされながら決死の注水や電源回復などにあたる現場の作業員の行動については、国内のみならず海外からも称賛の声が届いている。しかし、翻せば、それは危機への備えが十分にされていなかった日本の現実、と海外の目には映る。
 「私たちがいま目にしている英雄的な行動が何を意味するか、原発が直面している現実を改めて考え直すべきだ」と、世界各地で環境や安全対策の強化を提言している「憂慮する科学者同盟」(The Union of Concerned Scientists)のメンバーで、原発設計の専門家でもあるエド・ライマン氏は語る。
 「彼ら(政府と東電)は地震、津波、原発の緊急時に備えていたかもしれない。しかし、これら三つの災害が大規模に発生する事態を十分に想定していたとは考えにくい」と、もう一人のメンバーで電力事業のエキスパートであるエレン・バンコ氏も従来の日本の原発対応に疑問を投げかける。

<もたれ合う政府と業界、金融危機の構図と二重写し>

 原発推進という利害のもとで、密接な関係を築いてきた経産省・保安院と電力会社。ともに原発の危険シナリオを厭(いと)い、「安全神話」に共存する形で、その関係は続いてきた。だが、監督官庁と業界の密接な関係は、ともすれば緊張感なき「もたれ合い」となり、相互のチェック機能は失われていく。その構図は1990年代の「金融危機」と二重写しのようでもある。
 かつて、旧大蔵省銀行局は、銀行の健全性を審査する検査官も含めて銀行と馴れ合い関係に浸り、バブル崩壊で不良債権が積み上がった銀行の危機的な状況は見過ごされた。背景にあったのは、銀行は決して破綻しないという「銀行不倒神話」だ。95年の兵庫銀行の破綻を契機に、金融危機は加速していくことになるが、大蔵省は銀行局の破綻処理スキームの構築などで後手に回った結果、金融危機を拡大させていくことになった。最終的に大蔵省は解体され、金融庁の発足につながっていく。
 国策として原子力推進を進める経済産業省に、安全規制を担う保安院が設けられている現状では、強力なチェック機能は期待しにくい。保安院が「原発推進のお墨付き与えるだけの機関」(電力アナリスト)と言われる理由はここにある。
 原子力安全委員会の班目春樹委員長は22日、参院予算委員会で「規制行政を抜本的に見直さなければならない」と述べた上で謝罪した。民主党も昨年の総選挙のマニフェストのもとになる政策集で「独立性の高い原子力安全規制委員会を創設する」とうたっており、現在の規制体制の抜本見直しは避けられない。推進と規制の分離が課題となり、保安院を経産省から切り離した上で、内閣府の原子力安全委員会と統合する案が現実味を帯びそうだ。

<競争原理働かぬ電力会社、ガバナンスの不在招く>

 民間企業でありながら、地域独占を許されて電力供給を担う東電。特権的ともいえる同社のビジネス環境が、同社のガバナンス確立を遅らせる要因になってきた、との指摘は根強い。
 東京電力に緊急融資2兆円――。原発事故を受けて急速に信用が悪化している東電に対し、主力銀行の三井住友銀行など大手7行が今月中に巨額融資を実行するニュースは、市場関係者も驚かせた。ある銀行アナリストは「経営再建問題に揺れた日本航空に対しては融資を出し渋ったのに、今回は随分と気前がいい話だ」と話す。
 格付け会社のムーディーズ・ジャパンは東京電力の格付けを「Aa2」から2段階下の「A1」に引き下げた。A1は全21段階のうち、上から5番目だ。社債市場では、国債と東電の社債のスプレッドが従来の0・1%程度から1〜2%に拡大。原発事故の成り行き次第では、さらに広がる可能性もある。
 東電が各大手行に融資の依頼に回り始めたのは、福島第1原発で爆発が立て続けに起きていた震災翌週のことだ。東電役員が「3月中に実行してほしい。おたくは上限いくらまで出せますか」と伝えにきた、とある大手行幹部は言う。しかも、当初提示してきた条件は格安のLIBORプラス10ベーシスポイント。経営危機に直面するリスクの高い借り手には、とても許されない好条件だ。「さすが殿様会社。自分の置かれている状況がどんなに悪化しているのか分かっていないようだ」と、同幹部はあきれ返った。
 原発処理の行方次第では、東電は債務超過も懸念される深刻な局面にある。そのリスクを負ってでも各行が融資に踏み切ろうというのは、「東電不倒神話」があるからだ。「独占事業を営んでいる東電は潰れないし、政府も潰さない。貸した金は返ってくる」と別の大手行幹部は言い切る。
 全国9電力体制の下、料金自由化も進まない電力市場では、業界各社間の競争原理が働かず、「経営規律を厳しくして企業体質を強める」という普通の民間企業なら当たり前の課題も放置されがちだ。
 一つの例が、東電の役員構成だ。同社には代表取締役が8人おり、勝俣恒久会長、清水正孝社長の他に6人の副社長も全員代表権を持つ。他の日本企業では滅多にお目に掛かれない布陣だ。ある電力アナリストは「組織が縦割りで融合していないことの表れ。経営判断も遅くなる」と分析する。
 企業として取るべき行動の不備は、地震後の対応でもはっきりと表れた。今回の事故後、清水社長は地震発生2日後に記者会見を行っただけで、あとはまったく公の場所に現れていない。
 同社広報は「事故の陣頭指揮を取っている」と説明したが、一時、過労で統合本部から離れていたことも明らかになった。統合本部に入っている政府関係者は「リーダーシップを発揮しているようには見えない」と打ち明ける。清水社長は資材部門出身で、「原発事故の処理ができると思えない」(電力会社関係者)との指摘もある。こうした対応に、経産省からも「電力自由化の動きが進まず競争がないため、経営規律が働いていない」(幹部)との声が上がっている。

<エネルギー政策の構造改革に口火も>

 今回の原発危機は、東電や電力会社の企業体質に大きな転換を迫るだけでなく、日本のエネルギー政策自体の構造改革に口火をつける可能性もある。政府の中には今回の事故をきっかけに、抜本的なエネルギー政策の見直しに取り組むべきとの声も出始めた。
 最大の課題は、原発の安全神話が崩れた今、今後の日本の電力エネルギーをどのように確保するのかという点だ。日本の電力供給に占める原発の割合はすでに約3割に達している。その一方で東電の供給力不足解消の見通しは立っていない。
 このままの状態が続けば、企業の生産回復を阻害する構造的な要因になり続ける可能性もある。電気事業法には電力会社による電力の供給義務が盛り込まれているが、「資源エネルギー庁と東電は法律に違反しない範囲でどのように計画停電を行うかに、すべての力を注ぎこんでしまっている」(政府関係者)という。
 もう一つの焦点は電力自由化だ。国策である原発推進を二人三脚で進めてきた電力会社と経産省だが、電力自由化では対立を続けてきた。2000年初頭に経産省が水面下で進めようとしていた発電と送電を分離する抜本的な自由化案は、東電を中心とした電力会社の抵抗に会い、あえなくお蔵入りとなっている。
 原発のリスク負担を今後も民間企業に押し付けるのか。現在の全国9電力体制を維持し続けるのか。これまで避け続けてきたこうした難題に政府は緊急の回答を迫られている。
 東電は原発事故に伴う損失で経営自体が困難になることが予想されるが、その先には電力産業自体の構造改革とエネルギー政策の転換という歴史的な変化が待ち受けているかもしれない。
(取材協力:Kevin Krolicki, Scott DiSavino 編集:北松克朗)

原発事故や政府の対応では、あれこれ言いたいこともあるけれど、いまはともかく最悪の事態だけはなんとしても避けてもらいたい。ただそれだけ。

東日本大震災:累積放射線量、年間限度超5カ所に 福島県内、浪江で新たに1地点:毎日新聞
【放射能漏れ】福島原発の北西30キロ、1日の年間被ばく線量超を検出 文科省:MSN産経ニュース
福島第1原発:放射線の蓄積、注視必要 累積被ばく問題も:毎日新聞

東日本大震災:累積放射線量、年間限度超5カ所に 福島県内、浪江で新たに1地点

[毎日新聞 2011年3月29日 東京朝刊]

 文部科学省は28日、福島第1原子力発電所から北西約30キロの福島県浪江町で新たに1地点の累積放射線量が人工被ばく年間限度(1ミリシーベルト)を超える1.073ミリシーベルトに達したと発表した。福島県内で年間限度を超えた地点は5カ所となった。23?27日の約95時間の累積放射線量を積算した。
 既に年間限度を超えている浪江町の国道399号沿いは4.813ミリシーベルト、同町の他の2地点は2.460ミリシーベルトと2.237ミリシーベルト、北西約32キロの飯舘村は2.95ミリシーベルトになった。1時間当たりの平均線量は減少傾向にある。【篠原成行】

時間の経過とともに、1時間当たりの平均線量が減っていくのは、当たり前。たとえば、放射性ヨウ素の半減期は約8日だから、後から後から放射性物質が飛来するのでなければ、8日たてば放射線量は半分になる。しかし、後から後から放射性物質が環境に放出されていれば、話はそう簡単にはいかない。また、セシウムは半減期が30年と長いから、一度環境中に放出されると、問題は長期化する。

福島原発の北西30キロ、1日の年間被ばく線量超を検出 文科省

  
[MSN産経ニュース 2011.3.25 13:03]

 文部科学省は25日、東京電力福島第1原発の約30キロ北西の地点で、約24時間の積算放射線量を調査し、一般人の年間被ばく線量限度1ミリシーベルト(=千マイクロシーベルト)を超える1.4ミリシーベルトを計測したと発表した。
 文科省は23日、原発から約25〜30キロの福島県内6地点で線量計を設置し測定を開始。このうち1カ所で1.4ミリシーベルトを計測したほか、ほか5カ所でも約21〜25時間経過後に0.10〜0.86ミリシーベルトを計測した。
 文科省は積算放射線量の調査を続けるとともに、測定地点を増設する方針。

福島第1原発:放射線の蓄積、注視必要 累積被ばく問題も

[毎日新聞 2011年3月22日 19時42分(最終更新 3月22日 22時58分)]

 東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発からの放射性物質の漏えいにより、福島県内を中心に大気中の放射線量が高い状態が続いている。福島県や文部科学省の測定値を毎日新聞が積算したところ、同原発の北西約65キロの福島市では14〜21日の間に、日本人が1年間に浴びる自然放射線量(平均1500マイクロシーベルト)を上回る1770.7マイクロシーベルトに達した。政府は「直ちに健康には影響しない」としているが、原発事故の収束が遅れれば、「新たな手立てが必要」との指摘もある。【須田桃子、下桐実雅子、神保圭作】

 積算は、文科省や福島県が公表している1時間当たりの放射線量を足し合わせ、14日午前9時?21日午後5時の累積放射線量を推計した。24時間、屋外にいることを推計の前提としている。
 その結果、福島市以外では、原発の南約50キロの福島県いわき市で299.7マイクロシーベルトに達したのをはじめ、宇都宮市34.1マイクロシーベルト、水戸市33.2マイクロシーベルト(同市のみ15〜21日)と、複数の場所で、日本人が浴びる1週間分の自然放射線量の平均値(約29マイクロシーベルト)を上回った。
 このほかの地点では、前橋市17.4マイクロシーベルト▽さいたま市15.1マイクロシーベルト▽長野市11.8マイクロシーベルト▽東京都新宿区10.8マイクロシーベルト▽神奈川県茅ケ崎市10.2マイクロシーベルト。仙台市では観測点の電源が壊れデータがない。
 文科省によると、平常時の福島県での自然放射線量は1週間当たり最大約12マイクロシーベルトで、今回福島市で観測された値のほとんどは原発事故の影響とみられる。
 一般人の年間被ばく限度は「自然放射線以外に1000マイクロシーベルト」で、もし毎日24時間屋外にいれば、約1週間で年間許容量を上回っていることになる。
 福島市での累積放射線量(1770.7マイクロシーベルト)について、前川和彦・東京大名誉教授(救急医学)は「日本人が1年間に受ける自然放射線量に相当する量だ。ただし連日連夜、屋外で過ごすことは非現実的」と指摘する。
 福島市の数値が突出している理由を、同県の担当者は「これまでのデータでは、風は(原発のある双葉町を中心に)時計回りに吹いているが、放出された放射性物質が福島市上空に来た際、雨や雪と一緒に地上に落ちてきたためではないか」と分析する。その上で「無用な外出は避けてほしいが、水や食料の確保のため外出するのは問題ない。雨や雪に直接触れないよう工夫してほしい」と話す。
 福島県によると、福島市で観測される1時間当たりの放射線量も22日にはピーク時(15日)の3分の1以下になるなど、減少傾向にある。前川名誉教授は「この環境汚染がどこまで続くのかは、(原発の)事態をいかに早く収束させるかにかかっている」と力説する。
 被ばく医療に詳しく、福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーも務める山下俊一・長崎大教授は、福島市の累積放射線量について「直ちに健康に影響を与える値ではないが、もし今後もこの値が長く続いたり悪化するようであれば好ましくなく、政府が新たな手立てを検討すべきだ」と話す。
 一方、放射性物質を吸い込むことで起こる「内部被ばく」に詳しい矢ケ崎(やがさき)克馬・琉球大名誉教授(物性物理学)は「政府の『直ちに健康に影響しない』という発言は、その後の影響がまるでないように言っており問題だ。放射性の微粒子が体に入ると、体にとどまるため継続して被ばくを受ける。吸い込みを防ぐためにはマスクをする以外にない。野菜などの食品も水でよく洗ってから食べて」と話す。

◇自然放射線

 国連の報告によると、人は普通に暮らしている状態でも、大気中に含まれるラドンの吸入や、食物、宇宙線などによって年間約2400マイクロシーベルト(世界平均)の放射線を受ける。日本はラドンなど気体の放射性物質が少ないため、年約1500マイクロシーベルトと低い。ブラジルやイランでは地域によっては年間1万マイクロシーベルトに達している。

「連日24時間屋外で過ごすという想定は非現実的」というが、屋内で浴びる放射線量をゼロとしても、半日屋外で過ごせば2週間、6時間屋外で過ごせば4週間、3時間屋外で過ごすだけでも8週間で、自然放射線の年間被曝量を超えてしまうわけで、けっして「非現実的」な想定ではない。

文部科学省の福島原発周辺での空間放射線量の測定結果は、こちら↓で発表されているが、30日現在では、30km以遠の地点でも積算で6ミリシーベルトを超えたところが存在している。

文部科学省のモニタリングカーを用いた福島第1発電所及び第2発電所周辺の空間線量率等の測定結果:文部科学省

なお、福島原発事故の見通しについては、原子力安全委員会が「年単位」で考える必要があると指摘している。

冷却作業、年単位で=2、3号機、圧力容器破損か?原子力安全委見通し:時事通信
原子力安全委、福島第1原発事故「予断許さない状況」:日本経済新聞

冷却作業、年単位で=2、3号機、圧力容器破損か―原子力安全委見通し

[時事通信 2011/03/29-23:51]

 国の原子力安全委員会は29日の記者会見で、福島第1原発の原子炉や使用済み核燃料プールの冷却作業について「(必要な期間は)年オーダーと考えている」との見方を明らかにした。
 会見した代谷誠治委員は「核燃料の熱は運転を止めた瞬間に(運転時の)数パーセントに落ち、1〜2週間で1%に落ち、そこからはなかなか落ちない」と説明。原子炉の冷却に使った水を海水と熱交換して循環させる系統の復旧が必要だとした。
 しかし、海水をくみ上げるポンプも故障し、発注だけでも数カ月かかるが、循環系統は1、2年で復旧させなくてはいけないと説明。破損した部分から漏れた汚染水を処理するために、池やプールのような貯蔵施設を準備する必要もあるとした。
 一方、2号機と3号機の原子炉圧力容器について、「圧力が上がらないということはどこかから漏れていると思うのが自然だ」と述べ、損傷の可能性を示唆した。

原子力安全委、福島第1原発事故「予断許さない状況」

[日本経済新聞 2011/3/30 19:15]

 原子力安全委員会の代谷誠治委員は30日夕の記者会見で、東京電力の勝俣恒久会長が福島第1原子力発電所の事故について「一応の安定」と発言したことに対して「事故はまだ収束していないと思うのが普通であり、予断を許さない状況だ」と語った。
 冷却装置の復旧に関しては、非常に高い放射線量の中での作業であることなどを指摘し、「普通のところよりはるかに時間がかかる」との認識を示した。廃炉までの期間についても、放射能汚染の範囲が拡大していることなどから「時間がかかる」と説明した。
 1号機から3号機までの状況については、一部で原子炉圧力容器と格納容器が破損しているとの見方を示した。

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