福島第1原発の現状は、なお深刻な事態が続いている。それについて、1日、日本原子力学界の元会長や原子力安全委員会の元委員長らが連名で「緊急建言」を発表した。事故直後の東京電力の情報隠しも明らかになった。
原発事故、国内の経験総動員を…専門家らが提言:読売新聞
東日本大震災:福島第1原発事故 1号機、初日夜から圧力容器内の水位低下:毎日新聞
日本学術会議も、4日付で第2次提言「福島第一原子力発電所事故後の放射線量調査の必要性について」を、5日には第3次提言「東日本大震災被災者支援・被災地域復興のために」を明らかにした。
第2次提言は、福島第1原発から半径30km圏内の放射線量の系統的なモニタリング体制の構築を求めている。第3次提言は、被災者の救援と被災地の復興のためになにが必要か、どんな対策をとるべきかをまとまった形で提案している。そのなかで、福島第1原発事故にかんしては、被災者の救援と被害の補償を求めるとともに、「科学的判断に基づく政治な責任をもった情報発信と行動基準の提示」「国際的に信頼される情報発信の必要性」「原子力発電所の総点検」「放射性廃棄物の安全な処理体制の確立」を提起し、それらを実現するために「事故の克服のために科学者の総結集と行程の提示」を求めている。
ともかく、周辺住民や農民、漁業関係者にとっては、信頼のできる一元的統一的なモニタリング体制の確立、学術会議の提言にあるとおり「科学的判断に基づく政治的な責任をもった情報発信と行動基準の提示」が緊急に求められるし、原発事故への対処として、文字通り日本の科学・技術を総結集するための体制を構築してほしい。
原発事故、国内の経験総動員を…専門家らが提言
[2011年4月2日01時42分 読売新聞]
福島第一原子力発電所の事故を受け、日本の原子力研究を担ってきた専門家が1日、「状況はかなり深刻で、広範な放射能汚染の可能性を排除できない。国内の知識・経験を総動員する必要がある」として、原子力災害対策特別措置法に基づいて、国と自治体、産業界、研究機関が一体となって緊急事態に対処することを求める提言を発表した。
田中俊一・元日本原子力学会長をはじめ、松浦祥次郎・元原子力安全委員長、石野栞(しおり)・東京大名誉教授ら16人。
同原発1-3号機について田中氏らは「燃料の一部が溶けて、原子炉圧力容器下部にたまっている。現在の応急的な冷却では、圧力容器の壁を熱で溶かし、突き破ってしまう」と警告。また、3基の原子炉内に残る燃料は、チェルノブイリ原発事故をはるかに上回る放射能があり、それをすべて封じ込める必要があると指摘した。
一方、松浦氏は「原子力工学を最初に専攻した世代として、利益が大きいと思って、原子力利用を推進してきた。(今回のような事故について)考えを突き詰め、問題解決の方法を考えなかった」と陳謝した。
この緊急提言の全文はこちらから↓。
Peace Philosophy Centre: 福島原発事故についての緊急建言
福島原発事故についての緊急建言
はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。
私達は、事故の発生当初から速やかな事故の終息を願いつつ、事故の推移を固唾を呑んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、今日に至るも事故を終息させる見通しが得られていない状況である。既に、各原子炉や使用済燃料プールの燃料の多くは、破損あるいは溶融し、燃料内の膨大な放射性物質は、圧力容器や格納容器内に拡散・分布し、その一部は環境に放出され、現在も放出され続けている。
特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器内で生成された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。
こうした深刻な事態を回避するためには、一刻も早く電源と冷却システムを回復させ、原子炉や使用済燃料プールを継続して冷却する機能を回復させることが唯一の方法である。現場は、このために必死の努力を継続しているものと承知しているが、極めて高い放射線量による過酷な環境が障害になって、復旧作業が遅れ、現場作業者の被ばく線量の増加をもたらしている。
こうした中で、度重なる水素爆発、使用済燃料プールの水位低下、相次ぐ火災、作業者の被ばく事故、極めて高い放射能レベルのもつ冷却水の大量の漏洩、放射能分析データの誤りなど、次々と様々な障害が起り、本格的な冷却システムの回復の見通しが立たない状況にある。
一方、環境に広く放出された放射能は、現時点で一般住民の健康に影響が及ぶレベルではないとは云え、既に国民生活や社会活動に大きな不安と影響を与えている。さらに、事故の終息については全く見通しがないとはいえ、住民避難に対する対策は極めて重要な課題であり、復帰も含めた放射線・放射能対策の検討も急ぐ必要がある。
福島原発事故は極めて深刻な状況にある。更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測され、一東京電力だけの事故でなく、既に国家的な事件というべき事態に直面している。
当面なすべきことは、原子炉及び使用済核燃料プール内の燃料の冷却状況を安定させ、内部に蓄積されている大量の放射能を閉じ込めることであり、また、サイト内に漏出した放射能塵や高レベルの放射能水が環境に放散することを極力抑えることである。これを達成することは極めて困難な仕事であるが、これを達成できなければ事故の終息は覚束ない。
さらに、原子炉内の核燃料、放射能の後始末は、極めて困難で、かつ極めて長期の取組みとなることから、当面の危機を乗り越えた後は、継続的な放射能の漏洩を防ぐための密閉管理が必要となる。ただし、この場合でも、原子炉内からは放射線分解によって水素ガスが出続けるので、万が一にも水素爆発を起こさない手立てが必要である。
事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り、長期的に危機を増大させないためには、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、関係省庁に加えて、日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、産業界、大学等を結集し、我が国がもつ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的な取組みが必須である。
私達は、国を挙げた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである。平成23年3月30日
青木 芳朗 元原子力安全委員
石野 栞 東京大学名誉教授
木村 逸郎 京都大学名誉教授
齋藤 伸三 元原子力委員長代理、元日本原子力学会会長
佐藤 一男 元原子力安全委員長
柴田 徳思 学術会議連携会員、基礎医学委員会 総合工学委員会合同放射線の利用に伴う課題検討分科会委員長
住田 健二 元原子力安全委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
関本 博 東京工業大学名誉教授
田中 俊一 前原子力委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
長瀧 重信 元放射線影響研究所理事長
永宮 正治 学術会議会員、日本物理学会会長
成合 英樹 元日本原子力学会会長、前原子力安全基盤機構理事長
広瀬 崇子 前原子力委員、学術会議会員
松浦祥次郎 元原子力安全委員長
松原 純子 元原子力安全委員会委員長代理
諸葛 宗男 東京大学公共政策大学院特任教授
東日本大震災:福島第1原発事故 1号機、初日夜から圧力容器内の水位低下
[毎日新聞 2011年4月8日 東京夕刊]
◇燃料棒露出寸前
東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発の1号機で、原子炉圧力容器内の水位が被災直後の3月11日夜の時点で燃料棒が露出する寸前まで減っていたことが8日分かった。1号機では翌12日午後、炉心溶融による水素爆発が発生。東電は爆発の18時間前には炉心溶融の兆候をつかんでいたと見られるが、結果として対応が遅れ、爆発による放射性物質の放出という最悪の事態を招いた。
東電が8日午前、初めて公表した水位データで判明した。データは地震直後の3月11日午後時半から13日午前7時半までの、1〜3号機の圧力容器内の水位や圧力の数値。
圧力容器内の燃料棒(長さ4メートル)は通常、完全に水没しており、水位は燃料棒の頭頂部から4メートル以上ある。ところが公表されたデータによると、11日午後9時半の時点で1号機の水位は燃料棒の頭頂部からわずか45センチまで減少していた。2号機は午後10時現在で3.4メートル、3号機は約4.5メートルだった。
1号機の水位はその後1.3メートルまで回復したが、再び急低下。12日午前8時36分には水位が燃料棒の先端と同じ高さまで下がり、燃料棒の露出が始まった。水素爆発が起きる直前の同日午後3時28分の水位はマイナス1.7メートルで、燃料棒の半分近くが水面上に露出している状態だった。東電によると、1号機の燃料棒は現在、最大70%が損傷しているとみられる。東電が1号機の圧力容器内に冷却のための海水を注入し始めたのは12日午後8時20分だった。
東電は「国には随時報告しており、隠す意図はなかった」と説明している。【江口一】
日本学術会議の提言は以下の通り。いずれもPDFファイルが開きます。
- 第2次緊急提言「福島第一原子力発電所事故後の放射線量調査の必要性について」(2011年4月4日)
- 第3次緊急提言「東日本大震災被災者支援・被災地域復興のために」(2011年4月5日)
朝日新聞が、このような↓記事を載せていた。まだ9割以上が閉じ込められているといって喜ぶべきか、これからもっと大量の放射性物質が放出される危険性があるととるべきか。
放射能の大半、なお原子炉内に 漏出は1割以下か
[asahi.com 2011年4月9日15時0分]
東京電力福島第一原発の1〜3号機の建屋外へこれまでに漏れた放射能の量は、原子炉内にあった総量の1割に満たない可能性が高い。格納容器が壊れて内部に残る放射能が放出されると、さらに広範囲で汚染が深刻になる恐れがある。専門家は、炉心に冷却水を循環させる継続冷却システムの確立を最優先にすべきだと訴えている。
原発の炉心には、核分裂反応に伴って生まれた膨大な量の放射能が存在する。米原子力規制委員会(NRC)の標準的な試算方法に1〜3号機のデータを当てはめて朝日新聞が算出したところ、1〜3号機には緊急停止した時点で、放射性ヨウ素が各130万〜230万テラベクレル(テラは1兆倍)、放射性セシウムが13万〜22万テラベクレルあったと推定できた。放射能はこのほか、1〜4号機の使用済み燃料の中にもある。チェルノブイリ原発の事故時の炉心内蔵量は推定でヨウ素が320万テラベクレル、セシウムが28万テラベクレルだったとされる。
外部への放出量はどうか。
原子力安全委員会が汚染の拡散予測に使ったヨウ素の大気への推定放出量は、3月12日から24日までに3万?11万テラベクレルだった。一方、1〜3号機の建屋外にあるたて坑と坑道にたまった汚染水に含まれる放射能の総量は、東電の公表データをもとに計算すると、ヨウ素で4万テラベクレル程度、セシウムで1万2千テラベクレル程度となった。
建屋の外に漏れ出た放射能は、ほかに、その後の大気放出分や海への流出分などがあるが、多めに見積もっても内蔵量よりずっと少ない。外部に出にくいストロンチウムやプルトニウムなどの核種は、まだほとんど炉内にあるとみられる。
元原子力安全委員長の松浦祥次郎さんは「内蔵量の推定はさほど外れていない。放射能の大半はまだ内部に残っている。放射能の総量はチェルノブイリの数倍にもなる。格納容器が壊れるなどして大量放出される事態は絶対に避けなければならない。冷却水を循環させる継続冷却システムの回復が最優先だ」と話す。
危機を脱するには炉内を100度以下で安定させる「冷温停止」にする必要がある。だが、注水や放水による現在の冷却では過熱を防ぐので精いっぱい、と多くの専門家がみている。(安田朋起)
考えるだけで息が詰まりそうな毎日。しかし、この事態と私たちは向き合わなければならないのだ。