東日本大地震のとき、新宿の超高層ビルが振幅1メートル以上で、 13分間も揺れ続けたそうです。
1メートルというと、ちょうど事務机の横幅ぐらい。それぐらいを揺れ続けるのだから、固定されていない本棚などがあったら、大変な事態になっていたかも知れません。建物自体は構造的にもっても、そのなかで仕事をしている人間たちは、本棚や机といっしょにシャッフルされてしまったのでは、ひとたまりもありません。あ〜 くわばら、くわばら…
3・11大地震時の新宿高層ビル 大きく、ゆっくり13分揺れ続ける:J-CASTニュース
震災で東京都庁が損傷、超高層に「想定外」はないか:日本経済新聞
3・11大地震時の新宿高層ビル 大きく、ゆっくり13分揺れ続ける
[J-CASTニュース 2011/4/20 19:52]
3月11日14時46分。三陸沖を震源地とするM9.0の大地震が起きたとき、東京新宿にある高層ビルは約13分間、揺れ続けていたことがわかった。
「33Fビルの揺れがおさまらない」「これ、ビルの高層階だから、こんなに揺れるの?」「35階めちゃ揺れるんだけど」54階では3秒間に108センチ横揺れ
地震発生直後、ツイッターにはこのような書き込みが殺到した。とくに高層ビルの上階にいた人たちが「まだ揺れている」という書き込みをその後も続けていた。また、動画サイト「YouTube」には、新宿のビルがぐらぐらと横に揺れる様子を映した映像がアップされている。男性が「大丈夫あれ?」「地上(の揺れ)はおさまったのに、(高層ビルの)上は(まだ続いている)ね」と叫ぶ声が聞こえてくる。
気象庁は2011年3月25日、震度計で観測した各地の揺れを発表しているが、震度5強を観測した東京千代田区大手町(気象庁)では、約130秒にわたって揺れが続いた。しかし、高層ビルではこれよりも長い間、揺れていたようだ。
新宿センタービル(新宿区西新宿)に本社のある大手総合建設会社、大成建設が、このビルでの揺れを調べたところ、長周期地震動に見舞われ、13分間にわたって揺れていたことがわかった。
地震発生から約2分後に建物が揺れはじめ、6分後のピーク時には最上階(54階)で3秒間に108センチも横揺れした。同ビルには制震装置(震動を吸収する装置)があったため、揺れの2割は吸収できたという。もっとも、ビルによっても状況は異なる。同社の広報は「制震装置のないビルはもう少し長く揺れていたかもしれない。免震装置(揺れを逃す装置)を持つビルではほとんど揺れなかった可能性もある」と指摘する。
地震には、1秒以下の短い周期を持つ「短周期地震動」と数秒から数十秒の長い周期で揺れる「長周期地震動」がある。また、建物にも固有の振動周期があり、長周期地震動による揺れは高層ビルの揺れと共振しやすい特徴があるという。そのせいで、高層ビルの上階では大きく、ゆっくりとした、まるで船に揺られているかのような揺れが長時間続いたと考えられる。長周期地震動の影響を受けやすい建物は約1100棟
長周期地震動の対策については、日本建築学会が地震発生前の3月4日、報告会を実施、その取り組みをまとめたばかりだった。報告では、東海、東南海、南海地震の3連動を想定した場合の超高層建物の揺れは、当初設計時に想定した地震動よりも相当長い時間大きく揺れる可能性が高いが、超高層建物群が崩壊することはほとんどない、としている。もっとも、揺れの度合は構造や設計時期などで建物ごとに異なるし、屋内にある家具や什器の移動や転倒が起きる可能性はある。
今後の対策への提言では、既存の超高層建物について耐震診断を行い、被害が予想される場合は耐震補強を実施したり、高層建物の揺れを測る観測機器(加速度計)を屋内設置したりすることなどを挙げている。報告によると、長周期地震動の影響を受けやすい建物(高さ70〜100メートル以上)は全国に約1100棟あるが、大きな構造被害が生じる建物は限定されるということだ。ある関係者は「長周期地震動は今回だけが特別というものではないが、これを機に古いビルなどでは対応を考える動きが出るかもしれない」と言う。
震災で東京都庁が損傷、超高層に「想定外」はないか
[ケンプラッツ 2011年4月18日掲載]
都市部で増え続ける超高層ビルにとって、東日本大震災は初めて経験する大地震となった。震度5強を観測した東京都心部では、震源から遠くまで地震動が伝わり、ゆっくりと揺れる「長周期地震動」が長時間続いた。都庁舎など非構造部材が損傷したビルは複数あり、安全性の徹底検証が急がれる。
「天井材落下のため、立ち入り禁止」。東京・新宿にある都庁舎の1階正面玄関。無人となった通路の片隅に、アルミ製ルーバーがうず高く片付けられていた。
東日本大震災の発生時、都庁第1本庁舎(地上48階、高さ243m)、第2本庁舎(地上34階、高さ163m)にあるエレベーター全75基が揺れを感知して緊急停止した。東京都財務局建築保全部の草野智文・庁舎整備課長は「人的被害はなかった。構造く体に損傷はなく、業務に支障はない」と話すが、巨大地震は庁舎のあちこちに爪痕を残していた。■スプリンクラー損傷で天井落下
第2本庁舎33階にある職員用体育室。吊り下がる天井はスプリンクラーヘッドの周囲がこすれて穴が開いていた。一部の天井パネルは落下し、破片が床に散乱している。草野課長は「スプリンクラーが損傷して漏水し、重みで天井材が落下したようだ」と語る。
■防火戸の外れも
庁舎ではこのほか、設備の損傷、壁パネルの脱落、防火戸の外れなどの被害もあった。
東京都は2008年度に専門家による調査委員会を設置し、長周期地震動が庁舎に及ぼす影響を分析していた。その矢先の出来事だった。国土交通省が10年12月にまとめた長周期地震動の対策試案をにらみつつ、補強工事に乗り出すかどうかをこれから決める予定だ。■「震度5強での実力の検証を」
東日本大震災では、都心の超高層ビルの重大な構造被害は報告されていない。だが、複数のビルで非構造部材や設備が損傷、家具が転倒した。目立った被害がないビルでも、余震が起こるたびにギシッギシッと音を立ててきしんだ。船酔いのような感覚に襲われた利用者は、口々に不安を訴えた。
超高層ビルの揺れる姿は肉眼でも確認できるほどで、その映像は「YouTube」などの動画投稿サイトに次々とアップされた。大きくゆっくりとした特徴的な揺れは、長周期地震動によるものとみられる。
超高層ビルは耐震安全性が高いと言われている。中低層の建物に比べると、間違いなく安全だろう。しかし、不安材料がないかというと、そうではない。東京大学地震研究所の古村孝志教授はこう警鐘を鳴らす。「今回の地震で超高層ビルの影響が小さかったとしても、安心はできない。将来、想定される東海、東南海、南海地震に十分な注意が必要だ」
日本建築学会も2011年3月4日に発表した長周期地震動に関する研究成果で、次のように指摘している。「東海、東南海、南海地震が連動して発生しても超高層ビルが倒壊する恐れはない。だが、梁(はり)の端部がちぎれたり、変形が残って傾いたりする可能性はある」
報告では、今後の課題として、次のような5項目を挙げた。
- 東海・東南海・南海の三連動地震やこれによる地震動の予測は地震学にとっても研究途上の課題である。三連動地震による超高層建物の揺れと被害の実相については、強震観測・地盤調査データの蓄積や地震動予測の進歩に合わせて、今後より詳細な検討を進める必要がある。
- 同一の地震断層を仮定しても、予測される長周期地震動の大きさ(振幅)、揺れの周期(卓越周期)、揺れの続く時間(継続時間)などの特性は、研究者や研究機関によって少なからずばらついている。より信頼性の高い長周期地震動予測法の確立を目指さなければならない。
- 長周期地震動を受けると、超高層建物の構造く体を構成する鉄骨部材や鉄筋コンクリート部材は大きな塑性変形を多数回繰り返し受けるが、このような条件下での部材や構造く体の損傷評価に関わる実験的・解析的知見を充実させる必要がある。
- ある地震が生じた後に時差をもって次の地震がやってくるシナリオに対して、最初の地震を受けた後に超高層建物が保持している健全度の評価も今後の課題である。
- 長周期地震動を受ける超高層建物では、大きな振幅の揺れ(2〜4m)が数分間にわたって続くが、それが建物使用者や居住者に与える心理的不安や生理への影響に対して、信頼すべきデータは皆無に等しい。人間の生理・心理と建物の揺れの関係を定量化するための研究を開始しなければならない。
つまり、連動する巨大地震や、相次ぐ余震、誘発地震による建築物への影響については分かっていないことが多く、現行では「想定外」ということだ。建物の揺れが人々の心理・生理に与える影響については、完全に未知の領域だ。
研究成果をまとめた日本建築学会の構造委員会で委員長を務める京都大学防災研究所の中島正愛教授はこう強調する。「まずは、震度5強での超高層ビルの実力を注意深く検証する必要がある」
国土交通省は、超高層ビルの安全検証方法に関する検討を進めている。東日本大震災で観測したデータに基づいて超高層ビルの応答を分析し、反映すべき項目を整理する方針だ。
超高層ビルは、都市に欠かせない社会インフラだ。単に建物の安全性を確保するだけでは済まない。東日本大震災では、エレベーターが緊急停止したことで、多くの利用者が階段での上り下りを余儀なくされた。福島第一原発事故による電力供給不足への対応策の検討も急がれる。可能性があることはいつか必ず起こるという視点から、災害時の想定シナリオを描いて課題を洗い出し、対策を練っておくべきだ。(日経アーキテクチュア 佐々木大輔)
揺れてるビルの動画はこちらから。