評価書に厳しい沖縄の世論

沖縄・普天間米軍基地の移設問題で、沖縄防衛局の無理やり提出した環境影響評価(アセスメント)の評価書。内容が明らかになるにつれて、そのデタラメぶりに、さらに怒りの声が高まっている。

沖縄の地元2紙は「結論ありき」(沖縄タイムス)、「アセスの名に値しない」(琉球新報)ときわめて厳しい。

社説:[「普天間」評価書]「結論ありき」の内容だ:沖縄タイムス
社悦:評価書全文 アセスの名に値しない 非科学的記述の連続だ:琉球新報

たとえば、オスプレイの飛行にともなう低周波騒音について、基準を超える地域があることを認めながら「必ずしも影響が出るとは限らない」と断定している。

オスプレイ低周波音、基準値超と予測:沖縄タイムス
評価書全文判明 オスプレイで悪化顕著、低周波音や騒音影響:琉球新報

オスプレイ低周波音、基準値超と予測

[沖縄タイムス 2012年1月9日 09時25分(10時間58分前に更新)]

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)で、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ飛行時の低周波音予測発生レベルが、全10地点の一部周波数帯で心理的または物的影響を与えるとされる基準を超えていることが8日分かった。名護市安部では20ヘルツと25ヘルツ帯で心理的、物的影響の基準をともに超えており、健康被害などが生じる可能性が出ている。
 沖縄防衛局が県に提出したアセス評価書の記載から判明した。ただ同局は評価書中で「移動する航空機の飛行に伴うもの」のため「必ずしも影響が出るとは限らない」と判定。総合的に「低周波音の環境に与える影響は最小限にとどまっている」としている。
 物的影響とは低周波音により家具ががたがた揺れるなどすることで、これは安部のほか同市辺野古、宜野座村松田など集落を含む全地点の16?25ヘルツ帯で超えると予測された。不眠や圧迫感などが生じ得るとされる心理的影響は、防衛省が独自に設定した基準を超えたのは安部だけだったが、環境省の定めた参照値はそれ以外の9地点でも一部周波数で超える値があった。
 またオスプレイのホバリング時にも辺野古など一部で物的影響の基準値を超える予測となった。エンジンテスト時にはどの地点も影響が出る水準以下との予測だった。
 安部については昨年末、低周波音のうち「G特性」について、頭痛などが生じるとされる水準(100デシベル)を超えていることを防衛省側が公表したが、他の部分は明らかでなかった。
 低周波音については、工場など固定施設から生じるものには環境省による参照値(指針)があるが航空機には明確な基準はない。昨年10月にはヘリによる低周波音と精神的被害の因果関係を認めた普天間爆音訴訟判決が確定している。

評価書全文判明 オスプレイで悪化顕著、低周波音や騒音影響

[琉球新報 2012年1月8日]

 防衛省沖縄防衛局が県に提出した、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の評価書の全容が7日、判明した。初めて明記された普天間飛行場代替基地への垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ配備に関し、睡眠障害など健康被害が指摘されるヘリコプター特有の低周波音について、名護市安部集落で心理、生理的影響を受ける可能性が生じる値を予測した。国立沖縄工業高等専門学校など10調査地点で、建物の振動など物的影響を受ける可能性の値も予測している。うるささ指数(W値)に関して準備書段階で示した14調査地点全てで上回る値を見込み、オスプレイが放つ騒音による生活環境悪化の見通しが顕著になっている。琉球新報社は7日までに評価書全文を入手した。
 航空機の運航に伴い発生する騒音について、キャンプ・シュワブ内と名護市豊原沿岸域の一部で環境基準値のW値70を上回るとしたが「W値70以上の地域に集落はない」と強調した。
 一方、飛行経路は「周辺地域上空を基本的に回避する方向」との表現で住宅地上空の飛行を明確には否定せず、米軍の「運用上の所要等」で航空機が飛行場に離着陸する際の楕円(だえん)形の場周経路を外れる場合もあるとした。北部訓練場内の東村高江のヘリパッドなど、別の基地に移動する際の飛行経路は盛り込まれておらず、実際に集落地域に与える騒音の影響が予測を上回る可能性もある。
 評価書の前段階である準備書への知事意見に対する見解が示されたが、知事意見の懸念や疑念に答えていない箇所が20を超えた。
 代替基地の航空機運航に伴い電波障害が悪化する見込みも明らかになった。名護市と宜野座村での調査で現状でも地上デジタル放送のテレビ電波に障害があり、米軍機の飛行でさらに悪化する可能性を予測した。環境低減措置で「実行可能な範囲で最大限の回避が図られる」とした。
 代替施設の存在で海藻類が計68・3ヘクタール、海草藻場(被度5%以上)が計78・1ヘクタール消失するとしている。準備書ではその影響回避・低減策として、周辺地域にある海草藻場の生息範囲を拡大するとしていた。知事意見は対策の実効性を疑問視し、内容見直しと再評価を求めたが、防衛局は「実行可能な範囲内で最大限の回避・低減が図られている」と見直さなかった。
 防衛局は6日までに、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書」3分冊と要約書、資料編、参考資料(2009年度?10年度調査)、評価書追加分とその要約書を県へ提出した。

<用語>環境影響評価書
 大規模な建設事業について事業者が環境に及ぼす影響を調査・予測・評価し、都道府県に提出する最終の手続き。県知事は評価書提出を受け、意見書を返送する。意見書の期限は埋め立て事業については法に基づく90日以内、飛行場事業については都道府県条例に基づく45日以内。事業者は意見書を踏まえ、評価書を修正してアセス手続きは終了する。

さらに、評価書の前段階の準備書にたいして出された県民の意見にたいしては、木で鼻をくくったような官僚答弁がずらりと並んでいる。

防衛局、誠意なき回答:沖縄タイムス

防衛局、誠意なき回答

[沖縄タイムス 2012年1月9日 09時31分(11時間2分前に更新)]

住民意見に対して同じ見解が並ぶ評価書

 評価書の前段階となる準備書に対し、住民から寄せられた意見は5317通に上り、このうち概要942通とそれに対する沖縄防衛局の見解が、評価書に掲載された。通り一遍の説明であらためて浮かび上がるのは、住民に背を向け、移設ありきの日米合意に突き進もうとする政府の姿だ。
 住民意見では、騒音や事故、生態系などへの影響のほか、調査方法自体への批判や懸念が並ぶ。
 建設反対の県議会決議などを挙げ、名護市辺野古への基地移設の合理性を問う意見に対し、防衛局の見解として目立つのは、「日米安全保障協議委員会共同発表に従い、普天間飛行場代替施設建設事業を実施」し、「同事業を進めるに当たっては、環境影響評価法等に基づき適切に行っていきます」との文言。
 その木で鼻をくくったような表現は「準備書以外に関するものの意見」で、特に顕著になる。
 「税金を、自然を破壊し地域住民の生活を脅かす代替施設の建設に投資すべきでない」「不測の事態やトラブルが発生したとき、地域住民は守られるのか。周辺地域も含めその保証はあるのか」。地元の人間なら誰でも抱くような、素朴で切実な50件の意見に対し、同じ記述を繰り返し、誠意が感じられない。
 また、建設予定地に近いカヌチャリゾートについては「本事業による影響は少ない」と結論づけたが、評価書では、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ配備と飛行経路の変更によって、騒音が拡大する可能性が明らかになっている。
 航空機の墜落事故などへの対策が取られていないことを指摘する声には「住民生活への影響を最小限に抑えるよう、今後、米側と調整する」などと「逃げの回答」に終始し、「運用は米軍任せ」という現実を反映する。

もし政府が沖縄の同意を得たいのであれば、県民の意見に一つ一つていねいに答えていくべきだと思うのだが、結局、民主党政権は、それよりもともなく評価書の年内提出を優先したわけで、これこそ文字どおりの「拙速」にほかならない。

ということで、ぜひ沖縄地元紙の社説を皆さんに読んでいただきたい。

社説:[「普天間」評価書]「結論ありき」の内容だ

[沖縄タイムス 2012年1月9日 09時08分(11時間2分前に更新)]

 辺野古移設ありきである。
 沖縄防衛局が県に出した米軍普天間飛行場の辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の評価書の内容が明らかになった。結論を一言でいえば「周辺に及ぼす影響はやむを得ず出るものの、環境保全上、特段の支障はない」ということだ。
 評価書は方法書、準備書に続く環境アセス手続きの最終段階である。垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備が評価書で初めて明記され、それに伴い飛行ルートが従来の台形からレーストラック形の長円形に変更された。
 オスプレイ配備は米側から再三、明言されていたにもかかわらず、政府は知らぬ存ぜぬの姿勢で隠蔽(いんぺい)した。評価書の段階で盛り込むのは住民が意見を表明する機会を奪うための悪質な後出しだ。
 環境アセスの精神は、事業者が生活や環境に与える影響を低減するためにどれだけ努力を尽くしたかを説明することである。オスプレイを最終段階になって持ち出すのは、その精神に逆行するものだ。
 名護市安部ではピーク時の騒音レベルが離陸時に大型輸送ヘリCH53と比べ最大20デシベル上回る。宜野座村の企業立地予定地でも10デシベル程度高くなっている。データが米軍提供であるのも釈然としない。ヘリ特有の低周波音は心身に与える健康被害が指摘されるが、低周波音の影響も出るとしながら飛行回数が少なく「特段の支障はない」と結論づけている。米国ではオスプレイ配備だけで環境アセスが義務付けられる。二重基準と言わざるを得ない。
 国の天然記念物ジュゴンについては「工事最盛期には生息域の一部において影響レベルを上回る可能性が考えられる」と言及しているが、結論は埋め立てても直接的な影響はない、である。常識的に見ても到底納得できない。
 準備書段階での知事意見に対し、沖縄防衛局は評価書で飛行経路など「米軍の運用」を連発し予測は困難としているのは問題だ。米軍の運用とは何か。これも一言でいえば米軍のやりたいようにできるということだ。例えば、普天間飛行場と嘉手納基地に適用されている騒音防止協定をみればはっきりする。
 午後10時?午前6時の深夜・未明でも、米軍の運用上の理由で飛行できる。協定はあってなきがごとしである。辺野古でも、例外であるべき集落上空飛行が常態化することが容易に想像できる。
 仲井真弘多知事は、評価書について「県外移設の方針は変わっていない。それを念頭において処理をやっていくという考えだ」と述べた。
 一連の環境アセスをめぐっては、作戦運用に口を挟めない米軍基地の移設に国内法を適用した矛盾が噴き出した。国内法に従って自衛隊基地を造るのであれば、オスプレイ隠蔽をはじめとするだまし討ちのような後出しの情報開示はあり得ないはずである。
 事業者には本来、移設先を含め修正の余地があるはずだが、防衛局にその考えはさらさらない。米国に手足をしばられ、環境アセスは完全に形骸化してしまった。

社説:評価書全文 アセスの名に値しない 非科学的記述の連続だ

[琉球新報 2012年1月9日]

 科学を装いながら、およそこれほど非科学的な政府文書を目にしたことがない。米軍普天間飛行場の辺野古移設に向けた防衛省の環境影響評価(アセスメント)の評価書のことである。
 まず建設するという結論が先にあり、その結論に合わせ、都合の良い記述を並べる。日本のアセスは「アワス(合わす)メント」とやゆされて久しいが、これほどその形容がふさわしい例も珍しい。
 はぐらかし、すり替えを繰り返し、環境への影響をひた隠しにする文書はアセスの名に値しない。

■近代以前

 「はぐらかし」の最たる例はオスプレイ配備の件だろう。県はたびたび、代替施設にオスプレイを配備するのではないかと問い合わせてきたが、政府は「米側に照会したが、何ら具体的な予定はない」と繰り返していた。
 だが1996年の段階で米側は配備を通告し、同年の日米特別行動委最終報告の草案にも明記していた。だが防衛庁(当時)の高見沢将林氏がその文言の削除を米側に要請した。過去15年、日本政府は隠蔽(いんぺい)してきたのだ。
 アセスが始まってからも、方法書、準備書と、政府は隠蔽を続けた。住民意見の提出は準備書段階が最後になる。オスプレイについて住民は永久に意見を述べる機会を失ったのだ。
 これで民主主義国と言えるのか。近代以前の権力者の、「よらしむべし、知らしむべからず」の態度そのままではないか。
 一時しのぎの例は他にも枚挙にいとまがない。飛行経路も、集落に接近しないと見せ掛けるため、政府は台形に飛ぶと説明してきた。「飛行機が台形に飛べるはずがない」という米側の指摘も隠し続け、この評価書でようやく楕円(だえん)形に飛ぶと明らかにした。
 ジュゴンへの悪影響を避けるためとして評価書は「海面への照射を避ける」「経路や速度で配慮を求める」マニュアルを米軍に示すとも述べている。
 だが日米地位協定は、米軍による基地の排他的管理権を規定する。基地の使い方は米軍が決め、改めさせる権限は日本側にはないのだ。
 どんなマニュアルを作ったところで、地位協定を改定しない限り、米軍に守る義務はない。これで悪影響を回避できないのは、防衛省自身が知っているはずだ。
 評価書にはすり替えの例も多い。ウミガメは辺野古で上陸跡、産卵跡が多数見つかっているにもかかわらず、対岸の安部・嘉陽にも跡が多いことを根拠に「飛行場予定域はウミガメ類の主要な上陸箇所ではない」と記す。

■噴飯物

 ジュゴンも、辺野古沖(大浦湾西側)で食跡が見つかったにもかかわらず、嘉陽沖に食跡が多いという理屈で「辺野古利用可能性は小さい」と記す。嘉陽に多いことを、辺野古の環境の価値が小さいかのようにすり替えている。非科学的記述というほかない。
 あきれるのは工事用船舶に関する記述だ。ジュゴンやウミガメとの衝突を避けるため「見張りを励行する」とある。船首に見張りを立てるから、ウミガメとぶつからないと言っているのだ。噴飯物とはこのことだ。こんなことを大まじめに書いて、防衛省は恥ずかしくないのだろうか。
 本来、環境影響評価は定量的に記すべきである。つまり、代替施設建設でジュゴンの生息可能性やウミガメの上陸の可能性が何%減るのか、記述すべきなのだ。
 だが今回の評価書は「生息環境の変化はほとんどない」「影響は小さい」といった主観的表現を多用する。定量的に記述できるほどの科学的根拠がないからだろう。
 この国の環境行政は機能しているのか。合理的に検討すれば、事業の取りやめ、「ゼロ・オプション」こそが妥当としか思えない。
 政府が合理的でないなら、県がその立場に立つべきだろう。評価書の非科学性を徹底して指摘してほしい。

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