本日の東京新聞の夕刊「思うままに」で、梅原猛さんが、NHKのドラマ「坂の上の雲」について書かれている。日露戦争の見方などはまったく異なっているが、しかし、氏が、次のように述べておられるのは、なるほどと思った。
……ドラマの中で屍を踏み越えて進む将兵たちの姿は目を開けて見ていられなかった。そこには戦争の残虐性が映し出されたが、日露戦争は日本国家の命運をかけた戦いであり、幾多の作戦ミスがあったとしても勝利に終わったので、そこで犠牲になった将兵はまだしも救われるであろう。
しかし太平洋戦争では、二〇三高地の戦い以上に残虐で何万という日本兵が皆殺しにあった戦いも多く、戦中派の一員として私はこのドラマの中で犠牲になった将兵に、太平洋戦争で犠牲になった私と同時代の先輩や友人たちを重ね合わせざるを得なかった。
さらに、氏は、「このドラマは司馬遼太郎の原作以上に、日露戦争の勝利が決して必然ではなく多くの僥倖が重なった結果であることを明らかにした」とのべる。これは、「坂の上の雲」をめぐるこれまでの議論の中であまり指摘されなかった点だろう。それはともかく、氏の議論はそこから、「失敗は成功の母」なら「成功は失敗の母」でもあるという話に進む。
しかし日露戦争に勝った日本の国民は、その勝利を深刻日本に先天的に備わった実力ゆえであると考えた。自国に対する誤った認識が、軍事力においても経済力においても自国をはるかにしのぐアメリカ及びイギリスに対する宣戦布告の間接的原因になったのであろう。
……
「失敗は成功の母」という言葉があるが、逆に成功は失敗の母であったのである。日露戦争の勝利により天狗になった日本は無謀きわまる戦争をして、国土が焦土と化すような大敗戦を経験しなければならなかった。
「自国に対する誤った認識」は、日本国民のというより、日本政府および軍部の問題だろうと思うが、しかし、日露戦争での勝利が、たとえば海軍の巨砲大艦主義、艦隊決戦主義の伝統となったことなどを考えると、氏の指摘は当たっていると思う。
最後に氏は、「成功は失敗の母」という教訓は過去の問題ではなく、現在の問題でもあるとする。戦後、日本が経済成長に成功したのは、はたして実力なのか、僥倖なのか。そこを見定めるところから、現在の経済危機に対する対処を考えるべきだというのだ。考え方のまったく違う梅原氏であるが、なるほど、これも一つの見方なのかも知れないと思った。