2004年度にネビュラ賞をとったエリザベス・ムーン『くらやみの速さはどれくらい』(ハヤカワ文庫)をようやく読み終えました。ずいぶんと前に買って、ずいぶんと前に3分の2ほど読んだのですが、そのままになっていました。
自閉症のルウを主人公とする小説で、ダニエル・キースの『アルジャーノンに花束を』を思わせるくだりもあって、非常に面白い作品です。
舞台は自閉症が治療可能となった未来社会。ルウより下の世代になると、胎児のうちから治療がおこなわれるようになったため、いわばルウたちが自閉症患者の最後の世代。それでもルウはコンピュータをつかった早期支援システムのおかげで、製薬企業に就職して自立して生活している。
小説のなかでは、ルウの目から語られる部分と、ルウの知らない、ルウ以外の人たちの会話や動きを書いた部分とが、活字の書体も違えて、分けて書かれていますが、僕にとって面白かったのは、ルウの目線で書かれている部分。もちろん小説なので、自閉症の人たちが本当にこんなふうに感じているとは言えないのかもしれませんが、しかし、自閉症の人が周囲をどのように見て、感じているかをある意リアルに想像させてくれます。
ただ、小説としては、ルウをめぐる事件が片づき始めたあたりから、話がばたばたと大団円に向かって進みだし、結果的には予想どおりの結末にいたるのが、ちょっと残念でした。
【書誌情報】
著者:エリザベス・ムーン/訳者:小尾美佐/書名:くらやみの速さはどれくらい/出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF1693)/発行:2008年12月/定価:本体1,000円+税