仕事帰り、駅前の書店に見つけました。広島の原爆ドームの上に広がる明るい青空。しかし、そこには2つの大きな飛行機の機影が…。そして、「あの戦争を伝えたい」という文字。
東京新聞に2005年3月から年末まで、「新聞記者が受け継ぐ戦争」というサブタイトルで連載された企画です。連載中も、なんどもうんうんひきこまれた記事があったことを思い出しました。
取材したのは、東京新聞社会部の30代、40代の記者17人。「戦争を知らない」世代である記者たちは、「取材経験、人生経験、感性、知識は人それぞれで、戦争に対する思いも一様ではない。その記者一人一人と企画担当デスクによる記憶を受け継ぐ作業の集大成」だという(はじめに)。東京大空襲、キリスト教徒弾圧、沖縄戦、原爆投下、回天特攻、加害と向き合う・中国編、同韓国編、満州棄民など、「できる限り取材相手の記憶の現場を歩く」という企画のテーマは多岐にわたります。それを生き延びた人たちの体験や“思い”が、記事から伝わってきます。
といっても、当の社会部長さんだって僕よりわずか3つ年輩なだけ。もちろん、直接の戦争体験や戦後の焼け跡体験があるわけではありません。ではどうするか? 社会部内で真剣に話し合われた様子が伝わってきます。
どうすれば戦争への道を歩まないですむのか、つぎの世代に戦争のことを伝えることができるのか。社会部内で話し合った結果、等身大の戦争を伝えることこそがその答えの一つになる、との考えに行き着いた。等身大の戦争を伝えれば、一人一人の命の重さもリアリティーを持って伝えることができる。それなら自分とは関係のない過去の退屈な話にならないのではないか、と。
あとがきによれば、連載中に3人の方が亡くなられたそうです。「あの戦争を受け継ぐために残された時間は思う以上に少ないという非情な事実を、あらためて突きつけられた思いがする」という言葉が、僕にも重く感じられました。
まだ中味を全部読んだわけではありません。新聞連載だったので「どこからでも読み始めることができる」(はじめに)という言葉どおり、思いつくままにあちこちぱらぱらと読んでいるだけです。こういう中味だけに、明るい絵柄の表紙に、「あの戦争を伝えたい」し伝えられるという、東京新聞社会部のみなさんの強い思いを感じました。
それにしても、東京新聞、がんばってますね。
【書誌情報】書名:あの戦争を伝えたい/編者:東京新聞社会部/出版社:岩波書店/出版年:2006年3月/定価:本体1600円+税/ISBN4-00-022033-0