日本共産党の提案した「戦争法(安保法制)を廃止する国民連合政府」をめぐって、与党、野党、マスコミを交えて議論かまびすしいが、憲法学者の小林節氏が、「日本海新聞」のコラム「一刀両断」で、「政策が違うのに連合政権は…」という議論に、文字通り一刀両断で答えておられる。
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【一刀両断】「国民連合政府」と「政策の違い」
[日本海新聞 2015年10月27日]
小林 節
NHKの日曜討論を見ていたら、日本共産党の小池晃副委員長が、「国民連合政府」の提案について、与野党双方から批判されて孤軍奮闘していた。要するに「基本政策が異なる政党間で連立政権を組織することは無理である」と言われていた。
まず、野党に完全な選挙協力を実行されたら困る与党が批判するのは当然である。しかし、その与党も、新安保法制(私は『戦争法案』と呼ぶ)の議論が始まった頃に、「『平和の党』公明党はどこへ行った?」という批判に対して、(自民と公明は)別の党であるから、政策は違っていて当然である…と、公明党が言い返していた。
だから、複数の政党が集まって一つの政権を組織しようという以上、それぞれに政策が異なること自体は当然の障害ではない。
肝心な点は、それぞれに基本政策の異なる複数の政党があえて連立政権を目指す大義と必要性があるか?だけである。その点で、私は共産党の主張には説得力があると思う。
今回の「戦争法」の制定は、二重に憲法を否定したもので、独裁政権の出現であり、しかも政策としても国が滅びかねないほどの愚策である。まず、現行憲法は「軍隊の不保持と交戦権の否認」を明記している(9条2項)。だから、わが国は海外派兵を禁じられてきた。にもかかわらず法律で海外派兵を決めてしまったことは、単純明白に違憲である。しかも、その審議過程で、与党は徹底して論争から逃げ回った。これは議会制民主主義の否定で、これも単純明白に違憲である。これらを許してしまっては、日本は独裁国家になってしまう。
さらに、米軍支援のための海外派兵は、在外日本人に対する危険と日本の大都市に対する報復テロの危険を高め、わが国に、米国に続く戦費破産をもたらすことになろう。まさに愚策である。
だから、共産党は、前回の総選挙でも与党の総計以上の票を集めた野党が結集して、政権(議会における多数派の立場)を奪還して、まず何よりも「憲法」の機能を回復し、迫りくる危険を除去しよう…という提案をしたのである。私には、これは至極まっとうな提案に見える。
そうして、まず仮死状態にある憲法を蘇生させた上で、現に自・公が日々行っているように、政策を実現できる力を握った上で、政権内で政策論議を重ねて行けばよい。
(慶大名誉教授・弁護士)