米軍再編のねらい

今日の日経6面の、米国防科学技術委員長ウィリアム・シュナイダー氏へのインタビュー(「米軍再編の狙いは」)は、米軍再編の狙いがどこにあるか、分かりやすく指摘しています。要旨を紹介すれば――

  • 冷戦終結に伴い、潜在的な脅威は、(ロシアなど)西ではなく、東(アジア)に存在するという認識の変化が背景にある。それは、近代化を進める中国軍とイスラム原理主義だ。
  • 米軍再編を促す軍事技術的な方向性は「軍事史例技術革命」(ブロードバンドを含めた商業ネットワークを活用し、迅速、かつ大容量のデータ通信網を前提とした軍事指令系統の構築)である。日本への米陸軍第1軍団司令部移転も、この「軍事指令技術革命」実現の一環であり、自衛隊との連携強化をめざしている
  • 指揮命令系統の相互運用性の向上が米軍再編の目玉であり、それを求める相手は、イギリス、オーストラリア、日本など信頼のおける同盟国に限られる。
  • 在沖縄海兵隊は、アジア太平洋地域で唯一の即応戦力だから、抜本的な削減は想定していない。

ということで、米軍再編が、ただ単に米軍の中だけの再編でなく、自衛隊との連携強化――しかも指揮命令系統の連携強化をめざすものだということが率直に明らかにされています。自衛隊が米軍の指揮系統のもとに一体化される、その危険性に、もっとメディアは目を向けるべきでしょう。

米軍再編の狙いは
指令系統のIT化す維新――米国防科学技術委員長シュナイダー氏に聞く
中国軍近代化に対応/沖縄兵力の大幅減ない

 米国防科学技術委員会のウイリアム・シュナイダー委員長は日本経済新聞と会見し、米軍再編の狙いには近代化を進める中国軍への対応があると言明した。再編と連動する軍事技術革命としては前線と作戦本部を大容量回線などでつなぐ「司令系統のリアルタイム化がある」と指摘。米軍司令部の日本移転を求める背景には、この分野で日米協力を進める狙いがあると強調した。

 ――再編の狙いは?
 「冷戦終結に伴い、潜在的な脅威は(ロシアなど)西ではなく、東(アジア)に存在するという認識の変化が背景にある。アジア太平洋での潜在的脅威への対応が念頭にあり、それは近代化を進める中国軍とアジアのイスラム原理主義だ」
 「ブッシュ政権を取り巻く現状は、第二次大戦後のアイゼンハワー政権時の状況と似ている。同政権は世界大戦を戦い抜く米軍構成から、核兵器を主体として旧ソ連との冷戦を勝ち抜く構成へと変革を成し遂げた。現政権も国際テロ組織などを相手とする『非対称性戦争』の時代を見据え、固い決意で米軍再編を進めなければならない」
 ――米国防総省は米陸軍第一軍団司令部(米ワシントン州)のキャンプ座間(神奈川県)移転を日本に打診している。
 「米軍再編を促す軍事技術革新の方向性として我々が主に考えているのは戦車、航空機ではなくコマンド・コントロールなどコミュニケーション・システムだ。具体的にはブロードバンドを含め大容量の商業ネットワークなどを活用し、迅速、かつ大容量のデータ通信網を前提とした軍事司令系統の構築を目指す」
 「(日本への司令部移転も)『軍事司令技術革命』を実現させる一環であり、自衛隊との司令系統の連携強化を目指している。二十一世紀の近代戦争では、敵勢力による『サイバー攻撃』によって自軍の司令系統が壊滅的な打撃を受ける恐れもある。それを防ぐ意味でも日本は米国と協力する方が得策だと思う」
 ――司令系統の相互運用性(インターオペラビリティー)向上が米軍再編の目玉ということか。
 「そうだ。それを求める相手を我々は英、豪、日など信頼のおける同盟国に限っている」
 ――米軍再編に伴い、沖縄米軍の駐留削減を求める声も日本にはある。
 「在沖縄海兵隊をアジア太平洋地域で危機に即応できる唯一の戦力と認識している。だから(再編の過程で)若干の微調整はあるが抜本的削減などは想定していない」
 ――北東アジアには北朝鮮の核問題もあるが。
 「北朝鮮は小型核弾頭を開発している可能性が高いと思う。これを大陸間弾道ミサイル『テポドン』に搭載する技術も開発している恐れがある。核実験に踏み切る可能性もあるだろう」

記者の目:日米の意識の溝埋める努力必要

 ラムズフェルド米国防長官の諮問機関である国防科学技術委員会は三十二人の有識者で構成する。長官が推進する米軍再編は、ブッシュ政権の発足時からシュナイダー委員長ら「参謀」が水面下で練り上げていたコンセプトの具体像だ。軍事技術の急速な進歩と、米国を取り巻く安全保障環境の変化をにらんだ長期戦略で、政権発足後に発生した米同時テロやアフガニスタン、イラク攻撃などを受けて泥縄的にまとめたものではない。
 これに対し、日本側は米軍司令部の受け入れは日米安保条約の極東条項に反するとの見方が外務省で根強いほか、米軍再編を契機に在沖縄米軍の海外移転を求める声などが入り乱れている。委員長らが追い求める「理想像」とはかけ離れており、日米協議でどこまでその溝を埋められるかが、日米同盟の将来を占う材料ともなりそうだ。 (編集委員 春原剛)
[日経新聞 2004年11月27日付朝刊]

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