今週出張したときに、行き帰りの電車の中で、細谷千博『シベリア出兵の史的研究』を読みました。
細谷千博氏は、わが母校の名誉教授。僕が学生のころはまだ現役で授業されてました。本書の親本は1955年刊、今回、岩波現代文庫に収録されました。
昔読んだときはもっと難しく、中身があるように思っていたのですが、今回読み返してみて、意外にあっさりと読み終えることができたのにちょっと驚きました。
日本の国内の「自主的出兵論」(本野一郎外相)vs.「協調的出兵論」という通説的対立構図にたいして、後者の中に、「協調的出兵論」(山県有朋、寺内正毅など)対「協調的出兵論」(原敬、牧野伸顕ら)の違いを明らかにして、「協調的出兵論」はアメリカの出兵反対の態度から戦略的見解の差異が生まれただけで、本来「出兵論」である、それにたいし、「協調的出兵論」は本来的に「日本外交の対米協調性」を代表していた、とするものです。そこに、ウィルソン米大統領をめぐる、国務長官ランシングvs.最高顧問ハウスの対立を重ねながら、論じられています。
細谷氏の結論は、本来的「協調的出兵論」、つまり原敬や牧野伸顕らの立場を、もっぱら出兵の次期と方法、「いつ、いかにして」という戦略的判断の違いにすぎないという見方にたいする反論、ということになります。このあたりは、対米英開戦に至る経過の中での「宮廷グループ」の動きをどうみるかということに繋がる問題ですが、結論からいえば、細谷氏の立場は、「協調的出兵論」にたいする手放しの評価ということになっている感じです。
むしろ、細谷氏が指摘している陸軍の「二元外交」、陸軍と海軍の対立と戦果争い、そして結局は、原敬や牧野伸顕らも、シベリア・沿海州地域を含め、アジア地域における日本の権益というものを当然の前提にしていることが明らかになっているあたりが、面白かったです。欧米列強が撤兵した後も、日本軍はシベリア占領を続ける訳で、そこまで見通した分析をのぞみたかったと思うのは僕だけでしょうか。
【書誌データ】著者:細谷千博/書名:シベリア出兵の史的研究/出版社:岩波書店/ISBN:4-00-600137-1/定価:本体1200円+税