自民党が、9条「改正」案について、集団的自衛権の行使を憲法の条文に明記するのは見送りつつ、「安全保障基本法」と「国際協力基本法」を制定し、そちらで集団的自衛権の行使や自衛隊海外派兵の仕組みを定めるという方針を決めたようです。
で、「毎日新聞」はそのねらいについて、次のように書いています。
1つには、集団的自衛権は「当然」だから、明記するまでもない、という議論。もう1つは、民主党との間での「調整」に期待をかけるというもの。とくに2つ目の点がポイントかも知れません。
なお、記事中では自民党の主張として、「国連憲章上も認められた国家としての自然権」という書き方がされていますが、これは間違い。個別的自衛権(つまり自国が侵略されたときに自分で自分の国を守るために戦う権利)は国家の「自然権」(国家について「自然権」という言い方をするのは不適切ですが)だという言い方もできますが、集団的自衛権(同盟国A国がZ国によって侵略されたときに、侵略・攻撃を受けていないB国が、自国への侵略と同じと見なしてZ国に反撃する権利)は、条約によって軍事同盟を結んで初めて成立する権利であり、国際法上は国連憲章によって初めて認められることになりました。従って、それはどんな意味においても「自然権」ということはできないというのは、国際法のイロハです。
自民改憲試案:集団的自衛権で民主党との一致点模索(毎日新聞)
自民改憲試案:集団的自衛権で民主党との一致点模索
自民党新憲法起草委員会で最終調整中の憲法9条の改正条文案は、軍隊の保持と国際貢献を明記するだけのシンプルなものとなっている。集団的自衛権の行使を容認しながらあえて明記しないのは「書かなくても当然の権利」との党内意見に基づいており、国際貢献に伴う海外での武力行使についても容認の余地を残した内容だ。憲法上はフリーハンドを与えるものの、安全保障基本法などで制約を設けようという考えで、これにより集団的自衛権行使に慎重な民主党との一致点を探りやすくなる。
集団的自衛権についての政府解釈は「権利は有しているが、憲法上行使することは許されない」というものだ。ただ、自民党内は「国連憲章上も認められた国家としての自然権が認められないのはおかしい」との意見が強く、常に憲法論議の中心に置かれてきた。同党にとって、憲法改正によって集団的自衛権行使容認を打ち出し、「いびつさ」を解消するのが長年のテーマで、起草委の小委員会でも9条改正によって集団的自衛権の行使を書き込み、「解釈論争に終止符を打つべきだ」との意見が根強くある。
一方、民主党は集団的自衛権の行使について、イラク攻撃にみられた米国のユニラテラリズム(単独行動主義)への懸念から、「地球の裏側まで米軍についていかなければならなくなる」と否定的な意見が多い。しかし、同党も集団的自衛権の行使を完全否定しているわけではなく、昨年6月にまとめた憲法改正の中間報告では「制約された自衛権」の容認を打ち出している。同党内にも憲法で細かい制約を設けるのは難しいとの指摘もあり、憲法上は制約を課さず、基本法によって要件を定めるのが現実的だという見方も出ている。
自民党にとって今回の条文案は4月にまとめる起草委試案、11月の新憲法草案に向けた最終案となる見通し。同試案の発表前後に策定する衆参両院の憲法調査会最終報告書は、多数意見を反映させる方針で、「自民案」は大きな影響を与えそうだ。【宮下正己】
[毎日新聞 2005年3月8日 3時00分]
自民改憲試案:集団的自衛権明記せず安保基本法に行使要件(毎日新聞)
自民改憲試案:集団的自衛権明記せず安保基本法に行使要件
自民党新憲法起草委員会(委員長・森喜朗前首相)は7日、4月にまとめる新憲法草案試案の安全保障分野について、憲法9条1項の戦争放棄は堅持し、2項を改正して自衛権の保持と国際貢献を明記することで最終調整に入った。2項改正では「我が国の自衛及び国際の平和と安定に資するため、自衛軍を保持する」との文案が浮上している。容認を打ち出す方針の集団的自衛権行使については9条2項には明記せず、新たに安全保障基本法を策定し、行使する際の要件を定める考えだ。
自民党の9条改正論議では、(1)軍隊の保持(2)同盟国などが武力攻撃を受けた場合、自国が攻撃されていなくても共同して防衛に当たる集団的自衛権の行使(3)国際貢献に伴う武力行使??の3点を容認するかどうかが焦点。起草委の「安全保障に関する小委員会」(福田康夫小委員長)はすでに、軍隊保持と集団的自衛権を容認することで一致しており、どのような条文にするかがポイントになっていた。
集団的自衛権に関しては、憲法で明示すべきだとの声も残っているものの、「主権国家が持つ自然権で、行使できるのが当然」との意見が強く、憲法には明記しない方針となった。自衛隊を軍隊と明確に表記するかについては「こだわるべきではない」との意見もあった。
国際貢献については国際協力基本法を策定、要件を明示することでほぼ合意した。「国際貢献は武力行使を行わないのが基本で、例外的な最後の手段として基本法で定めるべきだ」との意見が出たため、憲法では国際貢献に伴う武力行使容認の余地を残しつつ、明記はしない方向だ。同小委は3月末に報告書をまとめ、森委員長に提出する。【宮下正己、松尾良】<現行の憲法9条>
- 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
- 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
<自民党新憲法起草委員会の文案>
- (現行憲法と同じ)
- 我が国の自衛及び国際の平和と安定に資するため、自衛軍を保持する。
[毎日新聞 2005年3月8日 3時00分]