『エコノミスト』(毎日新聞社)3月22日号が、「あなたは知っていますか? 娘、息子の悲惨な職場」という特集を組んでいます。非正社員(パート・アルバイト、派遣や契約社員など)が全労働力人口の約3割(29.1%、2004年「労働力調査」による)を占めるようになった現在の、非正社員の働き方の実態を22ページにわたって詳しく紹介しています。
派遣は、1999年に「原則自由化」され、2004年3月からは派遣期間が1年から3年に延長され、「26業務」については期間制限が亡くなり、製造現場への派遣も可能になりました。しかし実態は、平均時給は1704円(94年、全国平均)から1430円(2004年)に下がっています(NPO派遣労働ネットワーク調べ)。時給1430円というと高いようにみえますが、これは交通費込みの額。さらに、1日4000円などという仕事も少なくなく、派遣期間も(派遣期間が3年に延長されたにもかかわらず)、1カ月、2カ月、3カ月という細切れ契約が増えているといいます。
結局、そうなる理由は、一方で、労働市場の「自由化」をすすめながら、他方で、正社員と非正社員の均等待遇の義務づけなど、雇用環境の保護が先延ばし(というか棚上げ)にされてきたから。「労働市場をゆがめた責任の一端は国の労働政策にある」(稲葉康生・毎日新聞論説委員)。「規制の緩和が臨時雇用に偏ってしまっている可能性はないか。……雇用に関する法体系そのものが全体としてバランスを失い、二重構造的性格を強めていないかと懸念される」(樋口美雄・慶応大教授)。
経営側も、正社員と非正社員の均等待遇の義務化には強く反対しています。「日本経団連の見解でも、『構成処遇の考え方は企業の人事処遇管理に甚大な影響を及ぼすもので、これを一律に法律で規制しようとすることには絶対反対』『行政指導による介入は極力慎むべき』と、強い口調で断定している。非正社員の正社員への転換などでは、『こうした制度を設けるか否かは企業の自由』と談じている」(茂呂成夫・連合総合生活開発研究所主任研究員)
雇用条件の保護を置き去りにして、労働市場の「自由化」だけがすすめば、労働条件が悪化させられるのは火を見るより明らか。
経営側は、たぶん、多様な「働き方」は世界の趨勢だと言うのでしょうが、世界の趨勢は、「働き方」の多様化と同時に、雇用条件の「保護」、均等待遇の保障です。
この特集でも、労働者派遣の「先進国」であるフランスの状況が紹介されています。沖縄国際大学講師の大山盛義氏によれば、フランスの派遣労働者は約47万人(2003年)で、労働人口の約1.7%。意外に少ないのにびっくり。しかも、81年に誕生したミッテラン政権時代に労働法が大幅に改正され、労働契約は「無期契約が原則」、「有期契約である派遣労働などは不安定雇用形態であるゆえ例外的に法認されたもの」との位置づけをはっきりさせたといいます。そして、派遣労働者と、派遣先の被代替労働者(つまり、派遣労働者によって置き換えられる労働者)との「均等待遇」や、派遣労働者の「雇用保障」をめざして、たとえば、派遣終了後、派遣元が総報酬額の一定割合(現在は10%)を「不安定雇用手当」として派遣労働者に支払うこととし、ただし、派遣元が新たな派遣先を労働者に紹介した場合や派遣労働者が派遣先に無期契約で雇用された場合にはこの手当は支払わなくてよい、といった仕組みをつくっているそうです。
「フランスでは、国は法律によって派遣労働は不安定雇用であると位置づけ、雇用保障や均等待遇など派遣労働者の法的保護のために諸制度を整備している」(大山氏)。それにたいしてニッポンは…、ということです。他にも、業務請負――とくに「違法請負」の実態なども紹介されており、なかなか力の入った特集になっています。