横浜事件の再審・横浜地裁は、9日、被告遺族に「免訴」の判決を申し渡しました。
「免訴」とは、検察官の公訴権がないことを理由に犯罪事実があったかどうかの判断そのものをおこなわず、裁判手続きを打ち切るもの。つまり、いったん治安維持法違反の「有罪」とされた犯罪事実が取調官の拷問による嘘の自白にもとづく嘘の「事実」であった、つまり、犯罪事実はなかったという判断を、横浜地裁は下さなかった、のです。
もともとこの再審自体が、「無罪を言い渡すべき新証拠がある」(東京高裁)として始まったもの。裁判官は独立して判決を下すとはいえ、司法としての責任を放棄したもので、残念でなりません。
横浜事件、免訴の再審判決 横浜地裁、拷問の事実に言及(朝日新聞)
横浜事件、免訴の再審判決 横浜地裁、拷問の事実に言及
[asahi.com 2006年02月09日14時21分]戦時下最大の言論弾圧事件「横浜事件」で、治安維持法違反で有罪が確定した元「中央公論」出版部員の故・木村亨さんら5人(全員死亡)に対する再審の判決公判が9日、横浜地裁で開かれ、松尾昭一裁判長は、罪を問う根拠となった同法がすでに廃止されたことなどを理由に、裁判手続きを打ち切る「免訴」を言い渡した。元被告らの名誉回復のために無罪を言い渡すよう求めていた弁護人らは「(約60年前の)有罪判決は特高警察と検察の言いなりの不当判決で、それをただそうとしない免訴判決も不当だ。直ちに控訴する」との声明を出した。
免訴は、刑の廃止や大赦(恩赦の一種)などで裁判を続ける意味がなくなった場合などに、裁判を打ち切って言い渡す形式的判決。事件の内容に踏み込まないため、元被告らにかぶせられた罪が「冤罪だった」と認定されることもなかった。
治安維持法は戦後の45年10月15日に廃止されたうえ、有罪が確定していた元被告5人は同月17日に公布・施行された大赦令で大赦を受けていた。
判決は、メーデーで掲げたプラカードの内容が不敬罪に当たるかをめぐる48年5月の最高裁判決に沿い、裁判所が起訴事実について審理できるのは、検事がその事件を起訴できる状態にあることが条件だ、と指摘した。
その上で、治安維持法が廃止されたことや大赦を受けたことが、旧刑事訴訟法の規定で免訴となる事由にあたるとし、今回は「有罪無罪の裁判をすることは許されない」ケースだと判断した。
弁護側は、無実の罪を着せられた人の救済という再審の理念に照らし、「審理をすれば無罪と判断できる場合に、形式的判断を優先させて免訴とするのは、元被告らの法律的利益を奪う」と主張してきた。
しかし判決は「刑事補償法は免訴でも無罪と同じような補償を認めている」と指摘。「免訴でも無実の罪に問われ無念の死を遂げた被告らから名誉回復や刑事補償の法的利益を奪うことにはならない」と指摘した。
再審を決めた東京高裁の抗告審決定は、元被告らの自白は拷問によるものだったと認定、「無罪を言い渡すべき新証拠がある」と判断していた。
再審判決で松尾裁判長は「免訴になる事由がなければ、抗告審決定の内容に沿った判決が言い渡されることになると思われる」としながらも、「免訴事由がある場合と同列には論じられない」と結論づけた。
一方で、今回の再審公判に臨んだ姿勢について「弁護人らの主張に謙虚に耳を傾け、意見を十分に吟味した」と強調。再審開始決定の前に他界した元被告らについては「再審裁判を受けることができなかったのは誠に残念だ」と述べた。
朝日新聞で、奥平康弘氏は「『法律上の規定に従ってこうなる』というだけの結論なら、はじめから分かっていたはず」「この事件に限っては、法律論ではどうなるのかという議論を超え、『法の正義の実現』にのっとって判断し、『元被告は無罪である』との結論を言い渡すことができたと思う」「今後も闘い続ける遺族・弁護団はこの法律論を乗り越えていかなくてはいけない。亡くなった人の人権回復をどう実現させるかが課題だ」とのコメントを寄せられています。
日本は、アジア諸国から侵略戦争への反省が問われているだけでなく、国内においても、戦争中の人権弾圧にたいし謝罪も補償もおこなわれていません。あらためて、国として、侵略戦争と人権弾圧の歴史にどう向き合うのかが問われていると思います。
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