小泉首相が15日靖国神社に参拝したことについて、新聞の世論調査が17日発表された。
これらを見ると、小泉首相の今回の参拝について、「評価する」50%(毎日)、「参拝してよかった」51%(東京)、「支持」53%と、いずれも「評価しない」46%(毎日)、「参拝すべきではなかった」42%(東京)、「支持しない」39%(読売)を上回った。
他方で、次期首相の参拝となると、「賛成」42%対「反対」47%(毎日)、「参拝すべきだ」40%対「参拝すべきではない」45%(東京)と、依然として参拝すべきでないという意見が多数を占める。
読売の調査では、「賛成」(どちらかといえば賛成を含む)43%対「反対」(同前)39%と賛成が上回ったが、それでも小泉首相の参拝支持53%に比べると10ポイント少なくなっている。さらに、今回の参拝で「中国や韓国との関係が悪くなることを心配しているか」との問いに、54%が「心配している」(「非常に心配」21%、「多少は心配」33%)と回答しており、参拝賛成が多数だからといって“中国や韓国が何を言おうとどんどん参拝しろ”というような意見ばかりではない。
ところで、小泉首相の参拝を評価・支持する理由をみると、「戦没者を哀悼するのに首相の参拝は欠かせない」54%(毎日、%は「評価する」と答えた人の中での割合)、「首相が戦死者らを慰霊するのは当然」34%(東京、同前)、「首相が戦没者を慰霊、追悼するのは当然だ」35%(読売、同前)という理由と並んで、「中国、韓国などの反発に屈しなかったから」(毎日)、「他国によって影響されるべきではない」57%(東京)、「中国や韓国の反発を受けて参拝をやめるのはおかしい」25%(読売)などの理由も目立つ。
「赤紙」一枚で戦争にかり出され、犠牲となった人びとにたいする追悼は、当然のことだと思う。また、国内外の戦争犠牲者、あるいは戦後置き去りにされ帰国をはたせなかった人たちへの追悼の気持ちも忘れたくない。そこには、当然のことながら、戦争に反対し、あるいは様々な理由で「反戦的・厭戦的」とされて、治安維持法の犠牲となった人びとも含まれる。
しかし、靖国神社は、そうした戦没者を慰霊・追悼しているのではなく、「英霊」の「顕彰」をおこなっている。そして、「あの戦争は正しい戦争だった」とするところに、「英霊顕彰」の本質がある。だから、「首相が戦死者らを慰霊するのは当然だ」という靖国参拝議は、そもそも前提が間違っているといわなくてはならない。遺族のあいだでも、あの戦争そのものを「正しい戦争だった」とする気持ちが一般的だとは言えない。「無謀な戦争に無理やり連れ出されて犠牲になった」という思いも強い。だからこそ、戦没者の追悼・慰霊を求め、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないように」(憲法前文)してほしいと願うのである。しかし、靖国神社のやっていることは、それとは全然異なった方向を向いている。そこにこそ、靖国参拝問題の本質がある。
さてそうした議論を別にすれば、小泉首相がくり返してきた「中国、韓国の反発で中止するのはおかしい」という論理が強引にまかり通ってしまったということだろうか。もとはといえば、小泉首相の参拝自体が中国、韓国の反発を生みだしたのだが、それを意図的にすり替えて、いつの間にか、中国、韓国の反発は与件のようにあつかわれてしまっている。小泉首相の靖国参拝が反中・反韓意識を強め、反中・反韓意識が靖国参拝を「正当化」するという最悪のパターン。問題は、「あの戦争は、自衛のための戦争だった」「アジア解放の正義の戦争だった」とする靖国神社が、戦没者の慰霊・追悼あるいは不戦の誓いを新たにするのにふさわしい施設なのか、というところにあるにもかかわらず、である。新聞では、そうした問題も若干は取り上げられていたが、テレビでは、もっぱら「公約を守るかどうか」とか「中国や韓国の反発は必至」という面ばかりが取り上げられていた。そのことが、こうした感想を生んでいるのではないだろうか。
世論調査は他にも興味深い結果を示している。A級戦犯「分祀」の問題については、賛成62%対反対24%(毎日)、「分祀した方がよい」60%対「分祀しない方がよい」28%(東京)となっており、世論の決着はすでについたといえる。読売は、「分祀」について直接尋ねていないが、「国が戦没者を慰霊、追悼する場所としてふさわしいのはどこか」という質問(5つの選択肢のなかから1つを選ぶ)で、「今の靖国神社」25%に対し、「A級戦犯を分祀した靖国神社」19%、「国が関与する宗教法人でない靖国神社」5.5%、「千鳥ヶ淵戦没者墓苑を拡充・整備した施設」10.6%、「新たに建設する国立の宗教色のない戦没者追悼施設」30.3%など67%が「今の靖国神社」以外と答えている。
いずれにせよ、靖国派にとっては旗色が悪いことは明白である。
首相靖国参拝:評価50%、批判46% 本社全国世論調査
[毎日新聞 2006年8月17日 3時00分]小泉純一郎首相が終戦記念日の15日に靖国神社を参拝したことを受け、毎日新聞は15、16の両日、緊急の全国世論調査(電話)を実施した。参拝を「評価する」との回答は50%で、「評価しない」は46%だった。一方、次期首相の靖国参拝への賛否は、「反対」の47%が「賛成」の42%を上回った。今月に入って明らかになった4月15日の安倍晋三官房長官の参拝も、「評価しない」が「評価する」を上回っており、小泉首相の参拝を特別視する世論の傾向がうかがえた。
首相の「8・15参拝」をめぐっては、7月の前回調査では賛成が36%、反対が54%で、否定派が大きく上回っていた。賛否と評価は単純比較できないものの、実際に首相が参拝したことで、一定割合の人が「受け入れ」に転じたとみられる。
三者択一で聞いた評価理由は(1)「戦没者を哀悼するためには首相の参拝は欠かせない」54%(2)「中国、韓国などの反発に屈しなかった」31%(3)「首相に就任する際の公約を果たした」13%??の順だった。同じく三者択一の評価しない理由は(1)「中国、韓国などへの配慮に欠けている」42%(2)「A級戦犯がまつられた神社への参拝は適切でない」39%(3)「憲法の定める政教分離の原則に反している」15%。
中韓両国に対する首相の強硬姿勢は評価される一方で強い反発も招いた様子が浮かび上がった。
次期首相の参拝は、反対が54%、賛成が33%だった前回調査より差は縮まったが、なお反対が5ポイント多かった。ただ、同じ質問をした1月調査は賛否が47%で同数だったことを考えると、小泉首相の参拝敢行が世論を若干元に戻したとは言えそうだ。安倍氏の参拝に対しては、「評価する」が43%、「評価しない」が47%で、次期首相の参拝への賛否とほぼ同様の傾向となった。【三岡昭博】
首相参拝51%『よかった』 次期首相参拝 44%が『反対』
[東京新聞 8/17朝刊]小泉純一郎首相が終戦記念日の十五日に靖国神社を参拝したことを受け、共同通信社は十五、十六両日、全国緊急電話世論調査を実施した。首相の「8・15」参拝について、「参拝してよかった」との回答が51.5%で半数を超えたが、次期首相の靖国参拝自体に対しては「参拝すべきではない」が44.9%、「参拝すべきだ」が39.6%で否定的回答が上回った。同神社に合祀(ごうし)されている第二次世界大戦のA級戦犯については「分祀(ぶんし)した方がよい」が60.4%に上った。
次期首相の最有力候補である安倍晋三官房長官が四月に靖国神社を参拝したことを認めず、今後参拝しても公表しないとしていることに対しては、「公表する必要がある」が37.8%で、「公表する必要はない」(30.3%)より多かった。
小泉首相の参拝について、「参拝すべきではなかった」は41.8%と肯定派を9.7ポイント下回った。
肯定派が理由に挙げたのは、「参拝は他国によって影響されるべきではないから」が過半数の56.6%で、中国、韓国の参拝批判への反発をうかがわせた。
否定派は逆に「中国や韓国などとの友好関係に影響するから」(55.4%)が最も多かった。
小泉内閣の支持率は、49.2%で、前回七月の調査より2.4ポイント増えた。
首相の靖国参拝、「支持」53%…読売調査
(2006年8月16日20時8分 読売新聞)読売新聞社は、小泉首相が終戦記念日(8月15日)に靖国神社を参拝したことを受け、15、16の両日、緊急全国世論調査(電話方式)を実施した。
首相の参拝を「支持する」は「どちらかといえば」を合わせて53%、「支持しない」は計39%だった。
それぞれの理由を聞いたところ、支持する人では「首相が戦没者を慰霊、追悼するのは当然」が35%で最も多く、「不戦の誓いになる」31%、「中国や韓国の反発でやめるのはおかしい」25%が続いた。
支持しない人では、「中国や韓国との関係が悪化」41%、「A級戦犯が合祀(ごうし)されている」27%、「政教分離の原則に反する」16%の順だった。
小泉首相は今回の参拝について、<1>中国、韓国の反発で中止するのはおかしい<2>A級戦犯ではなく、戦没者の追悼が目的<3>政教分離を定めた憲法20条違反ではなく、「心の問題」――と説明した。これについて、「納得できる」は計59%で、「納得できない」計35%を上回った。
中国、韓国が首相の靖国参拝に強く抗議していることについて、「納得できる」は計33%、「納得できない」が計57%だった。
しかし、中国や韓国との関係悪化を「心配」する人が計54%と過半数を占め、「心配していない」は計41%だった。中国、韓国の反発には違和感があるが、関係悪化を懸念する国民の姿がうかがえた。
一方、次の首相の靖国参拝については、「賛成」が計43%、「反対」が計39%だった。