昨日の日経新聞の書評欄でも取り上げられていましたが、アメリカの“ワーキング・プア”(働きながら貧困から抜け出せない低賃金労働者のこと)の生活を実体験した著者のルポです。
本書の著者は1941年生まれ。したがって、このルポのために、フロリダその他で働いたときは、すでに60歳を目前にしていたことになります(原著出版社2001年)。そんな女性が経歴を隠してレストランのウェイトレス、家庭清掃業者の掃除婦、それにウォルマートの店員として働き、その給料だけでまったく見知らぬ都市でアパートかモーテルかトレーラーハウスかを借りて自活する。そんな挑戦を試みた訳だけれど、実際にはそれがなかなか大変。アパートを借りようと思ったら、1カ月分の家賃と1カ月分の敷金を準備しなければならず、その金のない人たちは、結局は高くつくのが分かっていても、週貸しのモーテルやトレーラーハウスを借りざるをえません。そして、仕事に採用されようと思ったら、まずは企業のおこなう心理テストを受け(会社の命令に従順かどうかを調べる)、さらにドラッグを使用していないかどうか尿検査も受けなければならず、そうしてようやく採用されたと思ったら、店長や管理人に徹底的に管理される。そして時給7ドルで長時間、肉体的にもきつい仕事をして、ようやく手にした賃金はといえば、家賃を払えばぎりぎりしか残らない程度で、健康保険に入れず、病気や怪我で休めば即次の日食べる食料に事欠くという生活。そういう最底辺層の低賃金労働者、いわゆる“ワーキング・プア”の実態を、リアルに描いています。
著者は、そんな体験から、こうした最底辺層の労働者は、経済的に貧しい立場に置かれているだけでなく、抑圧的な職場環境でつねに上からの圧力の元に置かれ、自尊心を失い、本当に自分は低級な人間だと思いこむような状況に精神的にもおいこまれていく、と強調しています。日本でも、先日のNHKスペシャルいらい“ワーキング・プア”の存在が注目されるようになりましたが、ちゃんと働いているのに、働いてえた賃金だけではまともな生活ができない。こんな異常事態が広がっているのです。日本の“ワーキングプア”について、本書に負けないような迫真のルポが登場することを望んでやみません。
「私たち自身が、ほかの人の低賃金労働に『依存している』ことを、恥じる心を持つべきなのだ」(終章、290ページ)という著者の言葉がずっしりこたえます。
ちなみに題名のニッケルは1セント貨、ダイムドは10セント貨のこと。転じて、1セントや10セントのお金で細々と苦労せざるをえないような貧困層を表しているそうです。原著は2001年に出版されると、たちまちベストセラーとなり、今日までに100万部を超えるミリオンセラーになったそうです。
【書誌情報】著者:バーバラ・エーレンライク/役者:曽田和子/書名:ニッケル・アンド・ダイムド――アメリカ下流社会の現実/出版社:東洋経済新報社/出版年:2006年8月刊/定価:本体1800円+税/ISBN4-49222273-1
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これも、もっと現場で働く人の声が聞きたい気がします・・・。
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