今日、文部科学省による「全国学力テスト」が実施された。全国の自治体のなかで、愛知県犬山市はテストに不参加。その理由は、「競争によって学力向上を図ろうとする考え方は、豊かな人間関係のなかで人格形成と学力の保障に努めてきた犬山の教育理念と相いれない」というもの。本当にそのとおりです。
43年ぶりの全国学力テスト実施 愛知・犬山の小中校だけは通常授業(東京新聞)
[解説]全国学力テスト 不参加の学校なぜ(読売新聞)
43年ぶりの全国学力テスト実施 愛知・犬山の小中校だけは通常授業
[東京新聞 2007年4月24日 13時48分]全国学力テストが一斉実施された24日、中部地方の公立の各小中学校でも、児童や生徒たちが真剣な表情で試験に臨む姿が見られた。中でも来春の高校受験を控えた中学3年生は「成績に関係ないと先生に言われているから気楽」と話す生徒がいる一方、「ちょっと不安」と学校間競争をあおらないか心配する声も。一方、全国で唯一、同テストに参加しないことを決めた愛知県犬山市では、この日を授業参観日とする学校もあり、普段通りの授業を行った。
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三重県鈴鹿市の市立神戸中学校では、241人がテストに臨んだ。テスト前、女子生徒の1人は「まったく緊張しない。普段通り」と平然とした様子。「全国で自分の学力の位置づけが大まかに分かるのは、ちょっと不安」と話す生徒も。
この日、同県内で参加したのは計598の国公立と私立の小中学校。鳥羽市の小学校2校と伊勢市の中学校1校は修学旅行と重なり、鳥羽の小学校は26日、伊勢の中学校は5月2日に振り替えて行う。3校のデータは全国的な統計や分析に反映されないが「旅行日程は前から決まっており仕方がない」と県教育委員会は話す。
滋賀県彦根市では、中学3年生の女子生徒(14)が「関心は薄い」と一言。「先生から目的や内容の説明はなく『テストがある』とだけ聞いた」と話した。別の女子生徒(14)は「学力向上に生かしたいけれど、結果が半年後では遅い」と疑問の表情。「地域や学校で優劣がつくと、変な意識が生まれそう」とも。
岐阜県各務原市内の小学6年生女子(11)は「通信教育などで実力テストのようなものを受けているので、自分のレベルが全国的にどのくらいなのか興味がある」と話し、「春休み前には勉強しなくちゃと思っていたが、先生から何も言われないので、今はそれほどの関心はない」と話していた。
名古屋市中区の丸の内中学校。3年生68人はテスト慣れしているせいか、緊張もなく会話を交わす光景も。
愛知県では犬山市を除く公立の小中学校1381校のうち、学校行事で実施を延期した1中学校を除く1380校でテストが行われた。
一方、同県私学振興室によると、県内の私立23校のうち12校でテストを実施。名古屋市千種区の椙山女学園大付属小学校は通常通りの授業。中村太貴生校長は「学力を調べるなら一斉ではなく標本調査で十分。教育に競争原理が持ち込まれるのはまっぴらごめん」と話した。◇
犬山市では市内14の小中学校で通常通りの授業が行われた。
このうち犬山北小学校の6年生は、午前8時50分から、25?27人の少人数学級4クラスで国語、算数、道徳などの授業を受けた。児童も教師も普段と変わらない様子だった。
毎日を「学校公開日」とし、保護者や地域の人らが自由に子どもたちの活動を見ることができる同校は、この日をあえて授業参観日とし保護者に来校を呼び掛けた。
加地健校長は「学校管理権を持つ市教育委員会の不参加の決定に賛成、反対を意思表示する立場にない」とした上で「学校現場は子どもが主人公であるのに対し、今回のテストは文部科学省が主人公。これまでの教育の成果を検証するのは大切だが、その仕組みが教育現場に影響を与えない方法で実施することが望ましい」と話した。
一方、急性大動脈解離で12日から入院中の田中志典市長は「受けたい、受けさせたいという市民の期待に沿えず残念。だが、これほど真剣に教育について議論した教委は他になかったであろうと、素直に認めたいと思う」とコメントを出した。
[解説]全国学力テスト 不参加の学校なぜ
[2007年4月21日 読売新聞]全員参加を前提とした今回のテスト。国立は全校参加するが、公立では、1909の教育委員会のうち、愛知県犬山市教委だけが、独自の判断で不参加となった。3万校を超える公立小中学校の中で、犬山市の14校だけが参加しないことになる。
競争の過熱 懸念
犬山市教委は不参加の理由として第一に、競争が好ましくない点を挙げる。市教委は自ら編集した「全国学力テスト、参加しません。」(明石書店)で「競争によって学力向上を図ろうとする考え方は、豊かな人間関係のなかで人格形成と学力の保障に努めてきた犬山の教育理念と相いれない」などと記している。
ただ、昨年12月に当選した新市長が教委に対して参加を求めるなどしており、市全体が一枚岩であるわけではない。この問題は、現行の教育委員会制度や地方自治の在り方を問いかける問題にもなっている。
私立の参加も6割余にとどまる。テストの成績による比較に利点を感じない学校も多いためだ。4月実施、9月公表というスケジュールでは、結果が生かし切れないと不満の声もある。
日教組による大規模な反対行動はなさそうだが、競争の過熱を心配する声は小さくはない。採点、集計などの業務が民間委託されることもあって、個人情報保護の点からの懸念の声も上がっている。このため、解答用紙に個人名を記さなくてもいいような措置が取られた。◆プライバシー保護も課題
学力と同時に学習状況も調査されるが、予備調査の段階で「児童が回答しにくい」「プライバシーへの配慮が必要」といった声が文科省に寄せられた。
その結果、予備調査にあった「家の人から大切にされていると思うか」「先生から認められていると思うか」「家に何冊本があるか」などの質問項目が削除になった。学力と生活実態との関係は重要な要素だが、プライバシーとのバランスが欠かせない点も、今の時代を反映している。
さらに、全国的な傾向を把握するという点で「統計学的には抽出調査で十分。テストのための勉強をするようになれば、全員調査の方がむしろ不正確」という声も根強い。
この点について文科省は「一定水準以上の学力をくまなく維持できているかを見るには学校ごとの現状把握が重要だ」(高口努・学力調査室長)としている。
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