「東京新聞」が「民主党診断」を連載。
連載2回目の「政策の現実性」云々はまあよくある話だけれども、連載1回目の地方議員の増加とそれによる足腰強化がすすんでいるとの分析は注目される。ただし地方政治でいえば、民主党は多くの県で与党の一員。そこにこそ、民主党の一番の矛盾があると思うのだが…。
民主党診断 担えるか政権<上> 体力 二大政党化へ足腰強化(東京新聞)
民主党診断 担えるか政権<中> 積極立案も理想論の声(東京新聞)
民主党診断 担えるか政権<上> 体力 二大政党化へ足腰強化
[東京新聞 2007年8月17日朝刊]7月の参院選で起きた与野党逆転によって、「民主党政権」が現実味を帯びてきた。民主党は政権を安心して任せられるだけの力量を身につけた政党に育っているのか。3つの角度から点検する。
民主党は2003年の衆院選以来、過去4回の国政選挙では、比例代表の得票が2,000万票以上という「高値安定」を続けている。
7月の参院選比例代表では2,326万票と、1,654万票だった自民党を大きく上回った。郵政民営化が争点となり、惨敗した05年衆院選でも、比例代表は2,104万票。快勝した04年参院選の2,114万票に近い票を得た。むしろ、自民党の方が増減幅が大きく、「風頼み」の面がある。
民主党の藤井裕久・元代表代行はこの傾向を「国民が政権交代可能な二大政党制を求めている結果だ」と分析する。民主党は政権を担える党だと認知し、後押しする固定的な支持層ができてきたというわけだ。
組織としての「足腰」も強くなってきた。
民主党籍を持つ地方議員は、05年は1,818人、翌06年は1,900人と伸びてきた。今年の統一地方選で375人の道府県議が当選するなどした結果、五月末現在で2,033人と2,000人の大台に乗った。「市町村合併によって議員定数が減る中での立派な数字」(党組織委員会)だ。
地方議員の増減は国政選挙に直結する。地方議員は国政選挙の際、候補者にだれに会ったらいいか、どこで街頭演説をすればいいかを指南する水先案内人だからだ。
党の代表選に1票を投じることができる全国の党員・サポーターは、今年5月時点で約20万人。昨年より約4万4,000人減らしたものの、今年は代表選がないことを考えると「異例の多さ」(同)という。民主党は地域に根を下ろしつつある。
ただ、「まだ自民党の基礎体力には及ばない」(小沢一郎代表の側近)のも事実だ。
今年の統一地方選で当選した自民党の道府県議は1,212人。前回統一地方選が行われた03年から100人近く減らしたとはいえ、民主党の3倍以上だ。06年の自民党総裁選時点で投票権を持っていた党員は約106万人だった。
収入の差も大きい。中央と地方分を合わせた05年の政党別収入(共同通信社集計)は、自民党が698億円だったのに対し、民主党は252億円と3分の1超だ。
政策立案部門のスタッフ数は自民党と大差ないが、政権党の自民党は官僚組織を知恵袋として使える利点がある。
地力は確かについてきた。しかし、なお大きい自民党との「体力差」をどう埋めていくのか。
藤井氏は「中央では政策で勝負し、有権者の期待にこたえることでさらに支持を伸ばしていく。地方では『小沢塾』のような政治講座を続け、(国政選挙の)候補者を育てて支援者を増やしていく。じっくりやることだ」と、地道な努力を続けていくしかないと語る。
民主党診断 担えるか政権<中> 積極立案も理想論の声
[東京新聞 2007年8月19日朝刊]教員の能力向上のための教職員免許改革法案、若者の職業安定を図るための特別措置法案、イラクに派遣した自衛隊の撤収法案?。
今年の通常国会で、民主党が衆院に提出した法案は28本を数えた。共同で九本を提出した自民、公明両党の約3倍だ。与党と野党の立場の違いを割り引いても、積極姿勢が際立つ。
過去をさかのぼっても、民主党が提出した議員立法の多さは歴然としている。それも特定の分野に偏らず、教育、社会保障、外交、行政改革など幅広い分野にわたる。
作成に官僚の手はほとんど借りない。それぞれの政策分野に詳しい所属議員が中心になって練り上げ、党内論議を経て、最終的に「次の内閣」の閣議にかけるという手順を踏みながら、質を高めていく。
ある党関係者は「ただ政府・与党に反対するだけの昔の野党とは違う。政策面では、いつ政権交代しても大丈夫」と胸を張る。確かに、政府提出法案を吟味するだけでなく、自ら法案を作成していく能力の高さは、55年体制下の野党とは比較にならない。党幹部は口癖のように政権担当能力をアピールしている。
半面、民主党の政策が「野党だから構わないと、格好だけつけている」(自民党の閣僚経験者)と批判されるのも事実だ。実現性に目をつぶり、国民受けする政策を無責任に打ち出しているという主張だ。民主党内からも「理想論に傾いている」という声は聞こえる。
よく指摘されるのが、民主党が7月の参院選で掲げたマニフェスト。5%の消費税率を引き上げずに全額を年金財源に充て、現行の給付水準を確保すると約束した点だ。2005年の衆院選では消費税率を3%引き上げて年金財源を賄う、と訴えていただけに、与党から「非現実的なポピュリズム(人気取り)」と攻撃された。
マニフェストには、農家への所得補償制度、1人月額2万6,000円の「子ども手当」支給なども盛り込まれた。これらに必要な財源15.3兆円は行政のムダを削ることでねん出するとしたが、「バラマキ批判」は終始ついて回った。参院選は大勝したものの、次期衆院選に向けては「政権政党としての政策をはっきり示す必要がある」(ベテラン)という声は党内にもある。
民主党は護憲派と改憲派が混在する党内事情から、憲法九条改正の是非について明確な意見集約をしていない。参院選では「憲法より生活」との主張を押し通したが、これも政権を担当するなら避けて通れない課題だ。
外交面も同様。小沢氏はテロ対策特別措置法延長反対を明言し、イラクからの空自撤収も求めている。正論との評価がある一方、政権を目指すのに米国との関係を考えなくていいのか、と党内には異論も多い。
「民主党もこれから大変だ。参院で多数を持っているわけだから責任を持たなければいけない」
「『野党だから右でも左でも構わない』という言い訳は一切通用しなくなる」
自民党からは、やっかみ半分にこんな声があがっている。
【追記】
(下)が載ったので、貼り付けておきます。
民主党診断 担えるか政権<下> 組織 『小沢党化』の懸念 今も(東京新聞)
民主党診断 担えるか政権<下> 組織 『小沢党化』の懸念 今も
[東京新聞 2007年8月20日 紙面から]新生党、新進党、自由党?。小沢一郎民主党代表が一九九三年に自民党を離党して以降、立ち上げては消滅させてきた政党だ。おかげで「壊し屋」の異名をとった小沢氏が二〇〇三年、政権交代の最後の望みを託し、自由党をそっくり合流させたのが民主党だ。
小沢氏の側近議員は「民主党も小沢氏の個人商店ではなくなった。質的な転換を果たした」と強調する。
確かに、民主党は規約上、党務は役員会と常任幹事会、政策は「次の内閣」で党の意思を決定する。
規約にはないが、小沢氏、菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長の三人による「トロイカ懇談(三役懇)」も週に一度のペースで開かれ、重要方針は合議制で決定してきた。小沢氏は選挙に専念し、党務は「菅さん、鳩山さんに任せている」と繰り返す。
七月の参院選後、衆参両執行部の連携をスムーズにする狙いから、小沢氏はこの三役懇に輿石東参院議員会長を加えて「四役懇」にした。
仮に小沢氏が何かの事情で代表を辞めた場合でも、「後継者は粛々と決まる。民主党が空中分解するようなことはない」(党関係者)という。
ただ、実際のところ、重大な決定は小沢氏の意向が最大限尊重される。それが参院選大勝で、「小沢代表が一人で決める傾向」(同)は加速しそうな気配だ。
小沢氏はテロ対策特別措置法の延長反対を早々と明言した。しかし、政府・与党も民主党の意向をくんだ修正に柔軟姿勢を見せているため、民主党には党内議論を求める意見も多い。
また、「脱・労組依存」を掲げた前任者の前原誠司氏とは逆に、小沢氏は最大の支持組織である連合との関係を重視する。今年に入ってからは参院選に向け、連合幹部と一緒に改選一人区を回った。地方は党組織が脆弱(ぜいじゃく)なため、連合の組織力に頼ったわけだが、これは「連合の実質的な県連化」と、民主党内では受け止められた。
特定の団体への依存から抜けだし、幅広い支持を基盤にする国民政党に成長できるかどうかが、民主党の課題。小沢路線はそれに逆行する危うさをはらむ。
参院選大勝によって、求心力を一層高めた小沢氏。しかし、小沢氏が一握りの幹部とで党の方針を決めていくことには「中堅以上の人がしらけ、若い人たちはびくびくおろおろするのは、党の力を結集するためには、よくない」(ベテラン議員)といった声が上がる。
民主党の活力は活発な議論にある、とよく指摘される。かつて、小沢氏につきまとった「側近政治」というイメージ。民主党の「小沢党化」への懸念は、完全にはぬぐえていない。(この企画は高山晶一、篠ケ瀬祐司、清水俊介が担当しました)