麻生首相の所信表明演説

麻生首相が国会で所信表明演説。

民主党に逆質問をしたり、いろいろ話題を呼んでいますが、そのなかでも一番呆れたのは、その冒頭。

麻生首相の所信表明演説(朝日新聞)
麻生首相:所信表明 「選挙演説」色濃く 民主の「弱点」挑発(毎日新聞)

これまで、「かしこくも、御名御璽をいただき」などと演説した首相はいません。アナクロ以外の何ものでもありません。(-_-;)

 わたくし麻生太郎、この度、国権の最高機関による指名、かしこくも、御名御璽(ぎょめいぎょじ)をいただき、第92代内閣総理大臣に就任いたしました。
  わたしの前に、58人の総理が列しておいでです。118年になんなんとする、憲政の大河があります。新総理の任命を、憲法上の手続きにのっとって続けてきた、統治の伝統があり、日本人の、苦難と幸福、哀(かな)しみと喜び、あたかもあざなえる縄の如(ごと)き、連綿たる集積があるのであります。
 その末端に連なる今この時、わたしは、担わんとする責任の重さに、うたた厳粛たらざるを得ません。

(「朝日新聞」2008年9月29日付夕刊から)

日本国憲法では、天皇が内閣総理大臣を任命することになっていますが、それは「国会の指名に基いて」おこなうもので、天皇の任命はあくまで形式的な手続きにすぎません。

しかも、麻生氏はとんでもないゴマカシをしています。

麻生氏は「わたしの前に、58人の総理が列しておいで」「118年になんなんとする、憲政の大河があります」と言っていますが、しかし、58人の首相のうち32人は明治憲法(「大日本帝国憲法」)のもとで任命された人物、つまり、天皇が主権者として任命した内閣総理大臣です。その地位は天皇の信任によって支えられ、彼らは天皇に対してのみ責任を負った存在でした。

つまり同じ内閣総理大臣と言っても、主権在民の現憲法(「日本国憲法」)のもとで、主権者を代表する国会によって指名され、国会にたいしてのみ責任を負い、そのことをとおして主権者たる国民からその地位を認められた現在の内閣総理大臣とは、まったく性格が違うのです。それをわざと混同させて、天皇に任命されたことをことさら畏まってみせているのです。戦前の体制こそ理想的な日本の国の姿だとする“靖国派”、日本会議国会議員懇談会元会長・特別顧問の麻生氏ならではの所業というべきです。

さらに、麻生氏は姑息なゴマカシもやっています。

58人の首相というのは、初代内閣総理大臣といわれる伊藤博文から数えてのことですが、実は、第1次伊藤博文内閣の成立は1885年12月22日で、大日本帝国憲法が施行された1890年11月29日より前の話。「憲法上の手続きにのっとって」任命されたのは第3代の山県有朋から。伊藤博文と次の黒田清隆は、憲法などとは無関係に、明治天皇によって任命されたもの。

麻生氏は、それを「統治の伝統」「連綿たる集積」などといって、結局、みんな一緒くたにしているのです。このことは、結局、麻生氏にとって「憲法上の手続きにのっとって」いるかどうかなんてどうでもよい、天皇から任命されたということが重要なんだ、ということを示しています。

「御名御璽」という書式も、日本国憲法が定めたものではありません。日本国憲法に何の定めもないことをよいことに、勝手に天皇が主権者であった戦前以来の書式を踏襲しているだけです。

麻生氏が一個人として天皇制の前に這いつくばるのは勝手ですが、国民主権の制度のもとで選ばれた内閣総理大臣として、天皇に拝跪するのは、まったくもって主権者国民にとっては迷惑な話です。

麻生首相:所信表明 「選挙演説」色濃く 民主の「弱点」挑発

[毎日新聞 2008年9月29日 東京夕刊]

(前略)

◇かしこくも御名御璽をいただき… 天皇敬愛の祖父しのび

 かしこくも、御名御璽(ぎょめいぎょじ)をいただき――。麻生太郎首相は29日の所信表明演説の冒頭で、自らが首相に任命されたことを、天皇の署名・公印を指す公的な呼び名である御名御璽を用いて表現する。首相の祖父、吉田茂元首相は昭和天皇を敬愛していたことで知られ、首相の思いがにじむ演説となった。
 御名御璽は法令の公布文や、首相や最高裁長官を任命する際の辞令書などに記される。
 2代続けて首相が任期途中で自ら政権を投げ出したことで、自民党の首相への国民の信頼は揺らいでいる。歴代の多くの首相が単に「内閣総理大臣に任命され」と表現してきたくだりを、あえて「秘書官が手の入れようのない『麻生語』で、文学的な趣味」(首相周辺)で表現したのは、首相の責任の重さを強調し、自らの気を引き締めるためとみられる。

「天皇敬愛の祖父しのび」とか「みずからの気を引き締めるため」などというのは、的外れもいいところ。毎日新聞よ、あまりに政治性がなさすぎるぜ…。

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