アメリカの金融安定化法案は下院でも可決され、とりあえず無事成立。
しかし、その直後にニューヨーク株価は157ドルの下落。資本注入を見送り、「使い勝手が悪い」ということで、実効性が危惧されているようだ。
米の金融救済法が成立 最大75兆円の公的資金投入へ(朝日新聞)
米国:金融安定化法成立 危機収束、なお不透明 修正で「使い勝手悪く」(毎日新聞)
NY株157ドル安、金融安定化法成立後に急落 景気悪化を懸念(NIKKEI NET)
米の金融救済法が成立 最大75兆円の公的資金投入へ
[asahi.com 2008年10月4日10時58分]
【ワシントン=西崎香】米議会下院は3日、最大7千億ドル(約75兆円)の不良資産買い取り制度などを柱にした「緊急経済安定化法案」(金融救済法案)を賛成263―反対171で可決した。ブッシュ大統領は同日署名し、成立させた。米国発の金融恐慌を食い止める狙いだが、金融危機の収束にはなお時間がかかりそうだ。
ブッシュ大統領は「経済の脅威となっている信用危機(貸し渋り)を和らげる決め手となる。最終的な税金負担は、(最大7千億ドルの公的資金の)当初投入額より、はるかに少なくなるだろう」との声明を発表。中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長も「信用市場の混乱を和らげるため、あらん限りの力を発揮する」と全面協力の姿勢を打ち出した。
法案は、相次ぐ金融破綻(はたん)で混乱した市場を鎮める緊急対策として打ち出されたが、先月29日の下院で国民負担増を警戒する強い反対にあい、23票差で否決されていた。再審議の可決をめざし、ブッシュ政権と議会指導部は総額1100億ドル(約12兆円)の減税などを追加。景気対策の色彩を強めた結果、それぞれ民主党から32人、共和党から26人の計58人が賛成に回った。同じ法案はすでに上院が1日に可決させている。
法案は、最大7千億ドルを投じ、金融機関から住宅ローンや関連の金融商品などを政府が買い取る計画。企業救済では過去最大となる。経営不安の原因になっている不良資産を政府が肩代わりし、身軽にして業績の回復と市場の安定化をめざす。
安易な救済との印象を薄め、国民負担増を食い止めるために(1)救済する企業から株式を得る権利をもらい、株価が上がった時に売って利益を得る(2)救済する企業の経営陣の報酬を抑える(3)住宅ローンの焦げ付きを防ぐため、政府が保証する低金利ローンへの借り換えを加速させる、なども盛り込んだ。
さらに、バラマキに近い大型減税も実施する。住宅課税の負担を軽くして、児童控除も拡充。これまで実施を見送っていたさまざまな企業向けの優遇税制も打ち出した。
政府が銀行預金を保証する限度額も約28年ぶりに、来年末まで現行10万ドル(約1050万円)から25万ドル(約2600万円)に引き上げる。財務省が連邦預金保険公社(FDIC)に無制限の融資をできるようにするなど、金融機関が負担してきた原則を緩め、公的資金による保護を強める。
さらに、証券取引委員会(SEC)が金融資産などの価値急落を帳簿に反映させる「時価会計」を一時的に停止でき、損失計上を先送りできるようにする。
大盤振る舞いの追加策で「景気減速で疲弊している勤労世帯の税金で、ウォール(金融)街の失敗を尻ぬぐいする」との反発を抑える狙いだが、米国民が大きな負担を背負う可能性がある。
米国:金融安定化法成立 危機収束、なお不透明 修正で「使い勝手悪く」
[毎日新聞 2008年10月4日 東京夕刊]
【ワシントン斉藤信宏】米国の金融安定化法が3日成立したことを受け、米金融当局は金融危機収束に向けた動きを本格化させる。ただ、最大7000億ドル(約75兆円)という巨額の公的資金を投じる枠組みは決まったが、買い取る不良資産の価格設定など具体的な中身を詰めるのはこれからだ。金融危機の影響は実体経済にも波及しており、米政府の狙い通りに新法が機能し、金融危機の克服や世界経済の安定化につなげられるかは未知数だ。
ブッシュ米大統領は金融安定化法案の下院可決を受けた声明で「しばらくは深刻な状況が続く」と改めて危機感を示した。ポールソン財務長官は会見で「迅速に行動する」と、早急に不良資産買い取りの具体策をまとめる意向を強調したが、ニューヨーク株式市場では法成立後に株価が急落するなど早くも新法の効果に懐疑的な見方が台頭している。
新法では、7000億ドルの公的資金のうち直ちに活用できるのは2500億ドルに限られる。また、政府が買い取った資産の価値が5年で回復しなければ金融機関に補てんを要求できるほか、金融機関は役員報酬を制限される。早期成立を優先させるため修正が重ねられた結果、金融機関側にとっては「使い勝手が悪い内容に変質した」(米エコノミスト)との見方が強い。
一方で、米国発の金融危機はすでに欧州に拡大している。日米欧の中央銀行が協調して巨額の資金供給を続けているが、銀行が資金を融通し合う短期金融市場は機能不全の状態が続いており、資金繰りに窮した金融機関の連鎖破綻(はたん)につながる恐れもある。危機の連鎖はアジア各国にも株価や通貨急落という形で波及している。
米国経済は低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題への対応で疲弊し、9月には失業率が6.1%に上昇し、就業者数も約16万人減少するなど景気後退の色が強まっている。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は「市場の混乱を抑えるため、使える権限をすべて活用する」と決意を表明したが、市場の混乱が収束に向かうかは定かではない。◇米金融危機をめぐる動き◇
9月7日 経営危機に陥った政府系住宅金融2社に米政府が資本注入決定、政府管理下に
15日 米証券大手リーマン・ブラザーズが破産申請
16日 米保険最大手AIGが米政府管理下に
20日 米政府が公的資金による不良資産買い取り枠を最大7000億ドルとすることを公表
25日 米貯蓄貸付組合(S&L)大手ワシントン・ミューチュアルに業務停止命令
28日 米政府・議会が金融安定化法案で大筋合意
29日 米下院が法案を否決
10月1日 米上院が法案の修正案を可決
3日 米下院が修正案を可決、ブッシュ大統領が署名し成立
NY株157ドル安、金融安定化法成立後に急落 景気悪化を懸念
[NIKKEI NET 2008/10/04 10:21]
【ニューヨーク=山下茂行】3日のニューヨーク株式市場ではダウ工業株30種平均が前日比157ドル47セント安の1万325ドル38セントで取引を終えた。年初来安値を更新し、2005年10月以来、約3年ぶりの低水準に落ち込んだ。金融安定化法が午後に下院で可決されたが、足元で景気悪化懸念が急速に強まっているため、取引終了時にかけて売りが優勢になった。ダウ平均はこの1週間で合計817ドル(7.3%)下がった。
早朝発表の9月の雇用統計で非農業部門の雇用者数が15万9000人減と約5年半ぶりの落ち込みとなり、金融混乱の影響が実体経済に及び始めていることを裏付けた。安定化法の効果が見極められないこともあって、金融株を中心に幅広い銘柄が売られた。
ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数も29.33ポイント安の1947.39と年初来安値を更新。約3年5カ月ぶりの低水準で取引を終えた。
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