谷口誠『東アジア共同体』(岩波新書)を、今朝の通勤電車のなかで読み終えました。読み始めたときの第一印象は前に書きましたが、読み終えた感想は「予想に違わず」で、中国、アジアとの関係重視、共同に21世紀の日本の発展の方向を展望するという点で、意外に共通点が多いのに驚くとともに、外交活動、それもOECDなど経済活動などに携わってきた人なりの視野の広さと深さがあって、学ぶべきところも多かったと思います。
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「読書」カテゴリーアーカイブ
谷口誠『東アジア共同体』
岩波新書の新刊、『東アジア共同体』(新赤版919)を読み始めました。
著者の谷口誠氏は、外務省入省、国連大使、OECD事務次長を経て、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授などを務められた方です。だから、日米安保条約や日米関係については、「日米間には日米同盟が存在し、日米安全保障条約があり、日本の生存にとって、米国と健全な友好関係を維持していくことが重要なことは言うまでもない」という立場ですが、日本の対アジア外交において、日本が東アジア諸国に評価されてこなかった原因として、「過去の侵略戦争と、それに纏わる歴史認識の相違」とともに「戦後の日本外交」が対米重視政策であるためにに、「いっかんしたアジア重視政策がなかったこと」をあげられるとか、東アジア通貨危機の原因として「東アジアNIEsに、マクロ経済政策の一環として資本市場の自由化の促進を強く要求し、指導してきたIMF(国際通貨基金)、OECDの責任は大きい」と指摘されるなど、なるほどと思う指摘があちこちに登場します。
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気になる本
日曜日の新聞書評から。
- 山田昌弘著『希望格差社会 「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』(筑摩書房 新刊、1900円)
- 辻井喬著『父の肖像』(新潮社、2600円)
山田昌弘氏は『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999年)の著者。
辻井喬氏の本は、読売、日経などあっちこっちで取り上げられています。同じ著者の『風の生涯』も読みかけなんですが…。
風呂の中でスティグリッツを読む
いつも風呂に入りながらのんびり本を読むのですが、今日は、友人から薦められた『スティグリッツ早稲田大学講義録』(光文社新書)を読みました。
この講演は、今年(2004年)4月に行なわれたもので、タイトルこそ「国際金融機関の役割――成功と失敗、および改革への提言」という難しいものになっていますが、中身は、国際金融機関とりわけIMF(国際通貨基金)がどれだけ間違ってきたか、なぜ間違ったのか、これからどう改革したらよいのかを、分かりやすく話しています。
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ウィ・ギチョル『9歳の人生』
主人公の少年ペク・ヨミンは9歳の男の子。ソウル近郊の「山の町」と呼ばれる貧民街で暮らしています。「山の町」というのは、この町が急勾配の山の斜面にはりつくようにつくられているからで、町には水道もなく、雨が降れば雨漏りばかりするような家がびっしりと並んでいます。そんな町で、空想壁のあるキジョンや6年生のガキ大将・黒ツバメと遊んだり、けんかしたり、そんな少年のたくましい生活を「僕は…」という語り口でえがいています。
小学校では、ヨミンの隣にウリムという女の子が座っています。ところが、このユリムは…
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溪内謙『上からの革命』
昨日、コンサートの帰りに、新宿に新しくオープンしたジュンク堂書店に行ってみました。
三越の7階と8階の2フロアーぶちぬきで90万冊の書籍を並べたと言うだけあって、実際、ヘーゲル、マルクス、現代思想、経済学などのコーナーを見て回ると、「こんな本まで…」と思うようなものまで並んでいました。それに、店員教育も行き届いていて、「○○の本は?」と聞くと即座に「あちらの棚です」と答えが返ってきます。
で、あれこれ見ていたら、今年2月になくなったソ連史研究の泰斗・溪内謙氏の新著『上からの革命』(岩波書店、11月9日発売)を発見。1万1550円という定価に、一瞬ギョッとしましたが、氏の大著『スターリン政治体制の成立』(全4冊)を「簡潔な一冊」にまとめたもの、となれば買わざるを得ません。「簡潔な一冊」と言いながら、500ページを超える著作。がんばって勉強したいと思います。
ところで、『スターリン政治体制の成立』ですが、あっちこっちの古本屋を探して、ようやく第3部まで3冊揃ったものの、第4部(1986年刊)はどうしても見つかりません。古本屋でも、第4部は4冊セットでしか売られていません。どこかに第4部だけ転がってないでしょうかねえ…。
『抗争する言語学』
莫言『赤い高粱』
出張2日目です。今日は、ずっと雨が降り続いて、建物の中に閉じ込められています。
昨日から読み始めた莫言の小説『赤い高粱』は、第1章を読み終えて、第2章の真ん中ぐらいにさしかかっています(もちろん、仕事をしながら、休憩どきや寝る前に読んでいるだけですが)。
「わたし」の父と祖父、祖母の話(これがちょうど日中戦争の頃)、そして祖父、祖母の若かったときの話を、「わたし」が故郷の昔話として語るという感じで、話がすすんでいきます。そして、その父が子どもの頃の話と、祖父、祖母が若かったときの話とが、一面の赤い高粱畑を舞台としながら、折り重なるように語られていくので、読んでいると不思議な感じがします。莫言の『赤い高粱』は、全部で5つの話からなる連作で、岩波現代文庫にはそのうち第1作と第2作が収められています。あとの3作についても読んでみたくなりました。
池莉『ションヤンの酒家』(小学館文庫)
中国の作家・池莉の『ションヤンの酒家』(小学館文庫)を読みました。映画「ションヤンの酒家」の原作ですが、いわゆるノベライズではなく、ホントの原作(原題「生活秀」)です。
映画は見逃してしまったのですが、小説は非常に面白かったです。主人公・来双揚(ライ・ションヤン)は、映画だと30代になったばかりぐらいに見えますが、原作だと、もう少し年がいっているように感じます。そのションヤンが、妹や兄夫婦、甥っ子、父親などに悩まされながら、下町の屋台を切り盛りしている。そういう“いま”を生きる庶民の強かな暮らしが描かれています。
読んでみたい本
日曜日の各紙書評から
- 星野興爾『世界の郵便改革』(郵研社 1,575円)
- 小倉和夫『グローバリズムへの叛逆』(中央公論新社 2,310円)
- 香山リカ『<私>の愛国心』(ちくま新書 735円)
- 鈴木靖民編『倭人のクニから日本へ』(学生社 2,520円)
1冊目は、アメリカ、イギリス、ドイツ、ニュージーランドなどの郵便事業「改革」を紹介したもの。かつてあれほど持ち上げられたニュージーランドの郵政民営化は散々な結果になっているらしい。小倉和夫氏は、国際交流基金理事長。
あと、読売の読書欄で、島田雅彦氏のこれまで書いてきた作品の流れが紹介されていて、役だつ。あと目立ったのは、柳美里『8月の果て』が毎日(高橋源一郎)と日経(清水良典)の2紙で非常に好意的に取り上げられていたこと。読みにくいクセのある小説だが、しかし読んでいて面白いことは間違いない。
『人間性の起源と進化』
こないだから、『人間性の起源と進化』(西田正規、北村光二、山極寿一編、昭和堂、2003年)を読んでいます。類人猿研究の最新の成果をもとに、生物種としての〈ヒト〉がいつ、どんなふうに誕生したかを探求しています。新しい知見も含まれていて、興味深い書物です。
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『決意!合併・1リーグ制NO!宣言』
先週末のストライキは回避されたとはいえ、まだ近鉄・オリックス合併問題は解決しておらず、今週の経営者側の対応が注目されますが、そうしたときにプロ野球選手会と同会長・古田敦也選手が編集した『決意! 合併・1リーグ制NO!宣言』が緊急出版されました。
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丸山昇『上海物語』
柄谷行人を読んでいると書きましたが、その“息抜き”というわけではありませんが、中国文学の丸山昇氏の『上海物語』(講談社学術文庫)をぱらぱらと読み終えました。親本は1987年に出されたということですが、「中国の城都」シリーズの1冊ということでは気づかなかったのかも知れません。
上海を舞台に、清末から辛亥革命、さらに日中戦争へと時代の動きを追いながら、日中文化人たちの交流を調べ上げた本です。魯迅、郭沫若といった有名な人物だけでなく、労働運動や革命運動の中心地でもあった上海で活躍したたくさんの中国文学者が登場します。また、日本人も、芥川龍之介、谷崎潤一郎、佐藤春夫、金子光晴などのほか、内山完造、林京子など、さまざまな文学者が登場。人間ドラマとしても、ぐいぐい引き込まれてしまいました。
【書誌情報】著者:丸山昇/書名:上海物語 国際都市上海と日中文化人/出版社:講談社(講談社学術文庫1667)/発行年:2004年07月/定価:1050円+税
最近買った本
本を処分して引っ越したというのに、さっそくいろいろ新しい本を買い込んでいます。(^^;)
- 保立道久著『歴史学をみつめ直す 封建制概念の放棄』(校倉書房)
- 柳美里『8月の果て』(新潮社)
- 丸山昇著『上海物語 国際都市上海と日中文化人』(講談社学術文庫)
- 尹載善著『韓国の軍隊 徴兵制は社会に何をもたらしているか』(中公新書)
- 佐藤卓己著『言論統制 情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』(中公新書)
- 河合幹雄著『安全神話崩壊のパラドックス 治安の法社会学』(岩波書店)
- 置塩信雄著『近代経済学批判』(有斐閣双書) ←古書です
置塩『近代経済学批判』は、本当に1年以上ずうーーーーっと探していた本。古本屋さんでも全然出回りものが無く、ほとんど諦めかけていました。(^^;)
尹『韓国の軍隊』――帯に「すべての国民は国防の義務を負う(大韓民国憲法第39条) 兵役義務の知られざる実態とは」とあったので、とりあえず購入。自民党などは、憲法改正で「国防の義務」を明記しようとしているだけに、「国防の義務」が憲法に明記された国の実態を知ることは必要だと思います。
と、これだけ買い込んだにもかかわらず、目下のところは柄谷行人著『トランスクリティーク』(批評空間、2001年)を読んでいます。これも、出たばかりのときに買ったのですが、ずーーーっと埋もれていて、引っ越しで“発掘”したものです。(^^;)
橘木俊詔他『封印される不平等』
まだ第1部の座談会(橘木俊詔、刈谷剛彦、斎藤貴男、佐藤俊樹の4氏による)を読んだだけですが、中身はかなり面白い感じです。
座談会のテーマの1つは、「結果の平等」と「機会の平等」の問題です。いわゆる「構造改革」論議の中で、しばしば戦後日本は「結果の平等」を重視するあまり効率が悪くなった、これからは「機会の平等」こそ重視すべきだという議論が出されますが、そもそも「結果の平等」と「機会の平等」は、そんなに二律背反的、排他的な関係にあるのか? ということです。座談会メンバーのなかでも、橘木さんは「結果の平等」(としての所得格差の問題)を重視し、佐藤氏は、「機会の平等が保障されていれば、結果がいくら不平等でもかまわない」と言い切るということで、一見するとまっこうから意見が対立しているように見えるのですが、座談会の中で非常に興味深い視点が指摘されています。
田村秀男『人民元・ドル・円』
中国経済の実情を、「人民元」という通貨を通して紹介しています。著者は、日経新聞の経済部出身のジャーナリストで、中国「脅威論」や「崩壊論」をまくし立てるのではなくて、経済成長を可能にした仕組みを、それが生み出したさまざまな矛盾と一緒に、いろんなエピソードを交えながら紹介しています。気楽に読めて、中国の「改革開放」経済のしたたかさや奥深さが分かったような気がします。
面白いと思ったのは、人民元が事実上ドル・ペッグだったということ。そして、それが中国経済の驚異的な発展を可能にしている最大の条件になっているという指摘です。
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西崎文子『アメリカ外交とは何か』
西崎文子さんの『アメリカ外交とは何か――歴史の中の自画像』(岩波新書、2004年7月刊、本体780円)を読み終えました。アメリカという国の、独立以来の、とくに第5代ジェイムス・モンロー大統領がとなえた「モンロー・ドクトリン」いらいの外交のあり方がコンパクトにまとめられています。アメリカの孤立主義と理解されている「モンロー・ドクトリン」が、実は「西半球」(南北アメリカ大陸)はアメリカの勢力範囲だとして、ヨーロッパの干渉を拒絶するイデオロギーだったということがよく分かります。
また、「自由」の理想を世界中に広めるという“使命感”に燃えて、結局、武力をもちいて「自由」を押しつけるというアメリカ外交の逆説――。著者は、モンロー主義に始まり、第1次世界大戦のときのウィルソン大統領の外交政策、第2次世界大戦後の「トルーマン・ドクトリン」、さらにベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争という歴史をたどりながら、アメリカ外交の分裂・矛盾を明かしてゆきます。
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チャルマーズ・ジョンソン『帝国アメリカと日本 武力依存の構造』
チャルマーズ・ジョンソン『帝国アメリカと武力依存の構造』(集英社新書、2004年7月刊、693円)を読み終えました。2002年と2004年に発表された3つの論文(もちろん英文で発表されたもの)が邦訳されています。
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小松美彦『自己決定権は幻想である』
「自己決定権」の問題を社会学的に取り上げた本かと思って読み始めたのですが、主に取り上げられているのは脳死・臓器移植にかんする「自己決定権」問題、つまり、本人が「ドナー登録」に同意したということを理由にして脳死・臓器移植をおこなう「論理」の“危うさ”です。