歴史的な世界をとらえるのは難しい

大橋幸泰『検証 島原天草一揆』(吉川弘文館)日下力『いくさ物語の世界』(岩波新書)
左=大橋幸泰『検証 島原天草一揆』(吉川弘文館)、右=日下力『いくさ物語の世界』(岩波新書)

最近、読んだ歴史に関する本2冊。

1冊目は、吉川弘文館歴史文化ライブラリーの『検証 島原天草一揆』(大橋幸泰著)。寛永14年(1637年)から翌15年にかけて起きた、いわゆる“島原の乱”がテーマ。一揆が起きたときには、幕府・藩はキリシタン一揆だとみなしていたのに、のちに一揆が伝承化されたときには藩の苛政が原因だとされた。著者は、この“ねじれ”に注目して、17世紀前半という時期におきたこの“乱”の独自の歴史的性格があるとする。

続きを読む

何から始めるか?

といっても、レーニンの論文ではない。偉大なるワルモノ大先生がブログで、若者の理論学習について、30年ぶりに再会した学生時代の友人との会話として、こんなことを書かれていた。

はげしく学び はげしく遊ぶ(石川康宏研究室): 熱気あふれる東京学習ツアー

続きを読む

『資本論』第1部 第25章

「近代的植民理論」と題した章。

第24章「いわゆる本源的蓄積」の最終節第7節「資本主義的蓄積の歴史的傾向」の末尾で、いわゆる“否定の否定”が述べられたところで、資本主義から「協業と、土地の共有ならびに労働そのものによって生産された生産手段の共有」を基礎とする「個人的所有」の再建が明らかにされて、資本主義から未来社会への移行が明確にされた。だから、話はここで“大団円”となるはずなのに、なぜかそのあとに第25章が…。

ということで、これまで「付け足し的」な章と思って、テキトーにしか読んでこなかったのですが、あらためてつらつら読んでみると、これが意外といろいろ大事なことが書かれていました。いや?、面目ない… (^_^;)

続きを読む

「ライン新聞」編集部へのマルクスの手紙

『前衛』誌上で、不破哲三氏「講座 マルクス、エンゲルス革命論研究」の掲載が始まりました。昨年おこなわれた研究講座の「誌上再現」ということになっていますが、連載第1回ですでに、研究講座のときよりさらに詳しく突っ込んで書かれている問題が出てきます。

その1つに、「ライン新聞」を舞台にしたマルクスの活動があります。マルクスは、1842年4月から「ライン新聞」に論説を掲載し始め、同10月には主筆として編集に全責任を負うことになりました。これによって、「ライン新聞」は面目を一新されました。

同紙でマルクスがたたかう目標としたものの1つに、プロイセンの検閲制度があります。そのために、マルクスは戦術も注意深く考えたのです。論文では、そのことを示すマルクスの手紙が2つあると指摘されていたので、その手紙を読んでみました。

続きを読む

イネは株分けで増やしたらしい

池橋宏『稲作の起源』(講談社選書メチエ)

池橋宏『稲作の起源』(講談社選書メチエ)。「照葉樹林文化」論批判。

イネの栽培は、焼き畑・陸稲から始まって、その後、水田・直播きが広がり、最後に今のように苗代を作って田植えをするという方法になったと、漠然と考えられているけれども、畑作から水田へという変化はなかなか大変。水田にして水をはるためには、耕作面を水平にしないといけないし、畦や用水路をつくるなど、技術的にもかなり高度なものが要求される。畑に潅漑をしていたら、自然と水田になった、というような簡単なものではない。

続きを読む

いいところを狙ってはいるのだが… 『大飢饉、室町社会を襲う!』

清水克行『大飢饉、室町社会を襲う!』(吉川弘文館)

応永27年(1430年)を中心とした大飢饉。寛正の大飢饉(寛正元?2年、1460-61年)とならぶ、室町時代の2大飢饉。この大飢饉に襲われたとき、上は将軍・室町殿から下は市井の人々まで、室町時代の人々はどうしたか? それを、地球史的な気候変動(この時期は「小氷期」に入っていたらしい)を踏まえつつ、当時の資料から解き明かそうという本です。

しかし、読み終わってみると、興味深い素材はいっぱいあるし、狙いもいいのだけれど、掘り下げが足らず、せっかくの材料を生かしきれていないという印象を持ちました。「小氷期」という気候変動的な枠組みも、「小氷期に入っていた」と書かれているだけで、地球史的な話はありません。帯に「ドキュメント、応永の大飢饉」と書かれている割りには、応永の大飢饉のとき日々どんなことが起こったのか、ドキュメンタリーな記述があまりありません。

続きを読む

使用価値か、効用価値か(続き)

すでに書いたように、『哲学の貧困』での「使用価値」の使用例をもって、「使用価値」の初出とすることができるかどうかについては、もう少し検討が必要なようです。

以下、大月全集版『哲学の貧困』で「使用価値」となっているところを、第1章第1節の範囲で、フランス語と対照してみました(フランス語は旧メガ第6巻収録の『哲学の貧困』で確認)。

続きを読む

それは使用価値か、効用価値か?

マルクスが「使用価値」という言葉を初めて使ったのは『哲学の貧困』だと前に書きましたが、しかし、よくよく調べてみると、はたしてそれは「使用価値」といえるのか? そんな疑問がわき起こってきました。

続きを読む

マルクス『1857-58年草稿』を読む(その4)

『1857-58年草稿』で、「使用価値」はどこに登場するか。大月版『資本論草稿集』第2分冊の事項索引で調べてみた。

マルクスが『57-58年草稿』で、使用価値について詳しく論じたのは、第1分冊314?315ページ。「資本としての貨幣にかんする章」の「貨幣の資本への転化」の「2 流通から生じる交換価値は自己を流通の前提とする、また流通のなかで自己を保持するとともに、労働を介して自己を倍化させる」のなかの部分。

続きを読む

マルクス『1857-58年草稿』を読む(その3)

さて、大月版『資本論草稿集』第1分冊には、『57-58年草稿』以外に、3つの文献が収められている。

  • バスティアとケアリ
  • 序説
  • ダリモン『銀行の改革について』

経済学草稿といえる部分が始まるは、p.112から。ただし、マルクスの問題意識としては、ダリモン批判以来の「労働貨幣・時間票券」論が続いている。

続きを読む

本日のお買い物

ジョアン・シェフ・バーンスタイン『芸術の売り方』(英治出版)木畑洋一『イギリス帝国と帝国主義』(有志舎)平体由美『連邦制と社会改革―20世紀初頭アメリカ合衆国の児童労働規制』(世界思想社)
左から、ジョアン・シェフ・バーンスタイン『芸術の売り方』(英治出版)、木畑洋一『イギリス帝国と帝国主義』(有志舎)、平体由美『連邦制と社会改革―20世紀初頭アメリカ合衆国の児童労働規制』(世界思想社)

で、東フィルのコンサートの開始時刻を間違えて、1時間早く渋谷に着いてしまったので、駅前に引っ越したBook1st.渋谷文化村通り店 ((東急文化村近くにあったBook1st.渋谷店の入っていたビルは現在解体工事中。))に立ち寄って、買ってきたのがこの3冊。

続きを読む

マルクス『1857-58年草稿』を読み始めてみる

マルクスの『1857-58年草稿』を読み始めてみることにします。もちろん、以前にも読んだことはありますが、今回は少しずつでもノートをとりながら読んでゆくことにします。テキストは、大月書店の『資本論草稿集』の<1>と<2>。

まずは、目次の整理。

続きを読む

最近読んだもの

山本紀夫『ジャガイモのきた道』(岩波新書)伊藤章治『ジャガイモの世界史』(中公新書)大庭健『いま、働くということ』(ちくま新書)

長島誠一『独占資本主義の景気循環』(新評論)

左上から、山本紀夫『ジャガイモのきた道』(岩波新書)、伊藤章治『ジャガイモの世界史』(中公新書)、大庭健『いま、働くということ』(ちくま新書)、長島誠一『独占資本主義の景気循環』(新評論、古本)。

まずジャガイモ本が2冊。伊藤氏の『世界史』は今年1月の出版で、山本氏の『きた道』はこの5月に出たばかり。内容的にも、ジャガイモの原産地であるアンデスでのジャガイモづくりから始まって、それがヨーロッパから世界と日本へどう広がったという同じテーマを扱っている。こんなことになったのは、今年が国際ポテト年だからか。

続きを読む

芝健介『ホロコースト』

芝健介『ホロコースト』(中公新書)

ヒトラー・ドイツでナチスによっておこなわれたユダヤ人の大量殺戮。映画「シンドラーのリスト」や「戦場のピアニスト」で、大きく、重いテーマとなった問題ですが、600万人にものぼるユダヤ人の殺害は、なぜ、どのようにしておこなわれることになったのか。著者は、ナチスのユダヤ人政策が、どのように変遷していったかを丹念にあとづながら、戦争の進展のなかで「追放」政策が行き詰まり、「絶滅収容所」による計画的な大量殺戮にいたったとしています。

しかし、「最終解決」が始まる以前の、ユダヤ人を「劣等民族」として社会から締め出し、権利と財産を剥奪し、ゲットーに押し込めていく過程だけでも、読んでいて、うんざりしてきます。

続きを読む

長島誠一『現代マルクス経済学』

長島誠一『現代マルクス経済学』(桜井書店)

書店でパラパラとめくってみたときにちょっと面白そうと思って買ってきた本。どこが面白いかというと、『資本論』にそった経済原論的な本のようでありながら、随所に、現代の日本および世界の資本主義経済、資本主義企業がどうなっているか、という具体的な問題が挟み込まれているところです。例えば、第2章「貨幣経済」で、金本位制度の停止から始めて、現在の通貨制度のもとで価値尺度機能がどうなっているかなどが論じられています。

続きを読む

榎原雅治『中世の東海道をゆく』

榎原雅治著『中世の東海道をゆく』(中公新書)

ちょっと気分転換にと軽い気持ちで読み始めたのですが、意外に面白かったです。鎌倉時代に京から鎌倉に下った貴族の日記から、当時の東海道がどこを通っていたか、どんな道だったのかなど、徹底的に日記の記述などにこだわって調べています。

続きを読む

大阪・弥生文化博物館を守れ!

大阪センチュリー交響楽団と同じように、橋下府知事のPTによって、大阪の池上・曽根遺跡にある「大阪府立弥生文化博物館」も、廃止・統合(同じく大阪府立の「近つ飛鳥博物館」との統合)が計画されています。

しかし、「弥生文化博物館」の最大の魅力は、弥生時代の大規模な環濠遺跡である池上・曽根遺跡のすぐ近くにあること。また、「近つ飛鳥博物館」は古墳時代を対象とした博物館で、時代の違うものをごたまぜにすることは、かえって博物館の魅力を失わせるものです。

弥生文化博物館 存続求め集会(読売新聞)
文化切り捨て許せない 大阪・弥生文化博物館 存続求め市民集会(しんぶん赤旗)
弥生文化博物館:存続求め、和泉で市民の会結成――11日集会/大阪(毎日新聞)
弥生文化博物館:大阪府PT案で廃止 金銭で考えるのか――金関恕館長に聞く(毎日新聞)
橋下PTと府教委、公開討論で激突(朝日新聞)
橋下知事が売却方針の博物館敷地から大型首長墓 売却は不可能?(MSN産経ニュース)
改革直撃 博物館、ゼロ予算と格闘(読売新聞)
89歳老学者、38歳大阪府の橋下知事を叱る(MSN産経ニュース)

続きを読む