子安宣邦『日本ナショナリズムの解読』

子安宣邦『日本ナショナリズムの解読』(白澤社)

子安宣邦氏 ((大阪大学名誉教授、日本思想史学会元会長))の新著『日本ナショナリズムの解読』(白澤社)をさっそく読み終えました。

「日本ナショナリズム」なるものを支えた言説のあり方を、本居宣長から福沢諭吉和辻哲郎田辺元、橘樸(たちばな・しらき)へと、フーコー流「知の考古学」的手法を用いて追跡したものです。本居宣長や幕末の水戸学は、子安氏のホームグラウンドで、『古事記』から由緒正しい「やまとことば」を訓み出す宣長の手法の分析などは、くり返し指摘されてきたところですが、この本で、面白いと思ったのは、2つ――福沢諭吉の『文明論之概略』の分析和辻倫理学にたいする批判です。

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あくまで参考として 林健太郎『ドイツ革命史』

林健太郎『ドイツ革命史 1848・49年』(山川出版社)

1848?49年のドイツ革命について、通史的に読める本というのを探してみたのですが、これが意外にありません。良知先生の本もあるけれど、革命の経過についてとりあえずつかむ、というには不向き。

ということで、林健太郎『ドイツ革命 1948・49年』を読んでみました。

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こんなの出てました――中公文庫『日本の歴史』別巻

中公文庫『日本の歴史』別巻<対談・総索引>(中央公論新社)

1965年から1967年にかけて刊行された中央公論版『日本の歴史』は、昨年、中公文庫の新装版で再刊されましたが、こんどその「別巻」が出版されました。中身は何かというと、最初に『日本の歴史』が刊行されたときに挟み込まれていた「付録」に掲載されていた各巻執筆者と著名人との対談集です。

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牧原憲夫『民権と憲法 シリーズ日本近現代史<2>』

牧原憲夫『民権と憲法 シリーズ日本近現代史<2>』(岩波新書)

岩波新書の「シリーズ日本近現代史」の2冊目。牧原憲夫氏の『民権と憲法』を読み終えました。

1877年の西南戦争終結から、1889年の「大日本帝国憲法」発布までの時期が対象になっています。牧原氏が「あとがき」に書かれているように、この時代は、どんな工夫をしてみても、自由民権運動が高揚しながら、結局、敗北し、帝国憲法体制ができあがるという「大きなストーリー」は動かしようがありません。しかし、牧原氏は、民権派と政府の対抗という図式に、「民衆」という「独自の存在」を加え、「三極の対抗」としてこの時代を描き、民権派が「国権」にからめとられていく側面を民権運動の敗北というふうに一面的に見ず、民権派の複雑な諸側面を分かりやすく描くことに成功していると思いました。

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浜林正夫『ナショナリズムと民主主義』

浜林正夫『ナショナリズムと民主主義』(大月書店)

浜林正夫先生の新著『ナショナリズムと民主主義』を早速読み終えました。

本書は、イギリス(正確にはブリテン)史にそって、ナショナリズム(同じ国家に帰属しているという意識)がどのように成立、展開してきたかをたどったものです。

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井上勝生『幕末・維新 シリーズ日本近現代史<1>』(岩波新書)

井上勝生『幕末・維新 シリーズ日本近現代史<1>』(岩波新書)

「維新史を書き直す意欲作」という宣伝文句。もちろん、この間の資料発掘や研究によって明らかになった新事実をもりこんだ最新の通史という意味で、僕自身、いろいろ勉強にもなったし、なるほど考えなおさないといけないなと思ったところもたくさんあります。

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井上清『日本現代史<I> 明治維新』を読み終えました

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『日本通史<III> 国際政治家の近代日本』の宮地正人氏が解題を書いているということで、2001年に再刊された井上清『日本現代史<I> 明治維新』(東大出版会、親本は1951年刊)を手に入れて読みました。大学に入ったばかりのころに読んだ記憶はあるのですが、内容はまったく忘れてしまっていました。(^^;)
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届きました。永原慶二追悼文集

永原慶二追悼文集刊行会編『永原慶二の歴史学』(吉川弘文館)

一昨年亡くなられた永原慶二先生の追悼文集が届きました。永原先生が生前に私家版としてまとめられた『永原慶二 年譜・著作目録・私の中世史研究』に、昨年ひらかれたシンポジウム「永原慶二の歴史学をどう受け継ぐか」の報告、それに各方面の追悼文をあつめて、一冊にまとめられたものです。シンポジウムの場で予約していましたが、予定どおり、届きました。

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歴博に行ってきました

国立歴史民族博物館 特別企画展「佐倉連隊にみる戦争の時代」

国立歴史民俗博物館でやっている特別企画展「佐倉連隊にみる戦争の時代」を見るため、昨日、佐倉まで行ってきました。

歴博のある佐倉城趾には、終戦まで、明治7年に創設された陸軍佐倉連隊が置かれていました。今回の企画展は、その佐倉連隊にかかわる資料に即するかたちで、戦争というものが人々の暮らしにどんな影響を与えたかを具体的に見ていこうというもの。派遣先から送られてきた手紙や、戦争に行った兵士が持っていた軍隊手帳なども多数展示されています。

展示は、「I、佐倉城から佐倉連隊兵営へ」「II、佐倉連隊の兵営生活」「III、佐倉連隊と地域」「IV、佐倉連隊と戦争」の4つのコーナーに分かれていますが、一番見応えがあったのは、やっぱり「IV、佐倉連隊と戦争」のコーナー。佐倉にいた連隊は、西南戦争、日清・日露戦争に参加(歩兵第2連隊)。昭和に入ると、2・26事件の鎮圧部隊に加わったほか、「満州」に派遣され、ノモンハン事件にも出動。1944年には南方へ転出し、グアム戦・レイテ戦に参加し大きな犠牲を出しています。
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純然たる日記

仕事の関係で、この間、ドイツ語の文献をあれこれ調べているのですが、ここ3日ぐらいかかりっきって翻訳してみたものは、結局、調べていることとは関係のないことが分かり、途中で放棄。あ〜あ、疲れた… (^_^;)

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宮地正人『日本通史<III> 国際政治下の近代日本』(山川出版)は、電車の行き帰りと寝る前に少し読む程度なので、遅々として進まず。それでも、第1篇「近代日本の成立」を読み終えて、昨日から第2篇「日本帝国の確立」に突入。
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ノート:宮地正人『日本通史<III> 国際政治下の近代日本』(2)

本書の篇別構成。

近代日本の成立(開国?日清戦争まで)
日本帝国の確立(日清戦後経営?満州事変の勃発まで)
軍部ファシズムと太平洋戦争(満州事変?日本の降伏まで)
戦後日本の展開(敗戦?)

それぞれの時代の大枠的な特徴は、それぞれの篇の冒頭に置かれている「時代の扉」で明らかにされている。著者が、「基本的歴動向の論理的展開」をどうとらえているかが示されている。
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ノート:宮地正人『日本通史<III> 国際政治下の近代日本』(1)

故あって、宮地正人『日本通史<III> 国際政治下の近代日本』(山川出版社、1987年)を読み始める。19年前の本だけれども、日本の近現代史を一つの立場で俯瞰してみせた希有な通史として、いろいろと勉強になる。

本巻のはじめに

ここでは、宮地氏の基本的な視点が明らかにされている。

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歴研大会に行ってきました

今日は、10数年ぶりに歴研大会に行ってきました。出席したのは現代史部会と、お昼休みに開かれた教科書問題の特設部会。

特設部会は「歴史研究と教科書叙述」というテーマで、扶桑社の「新しい歴史教科書」の問題点を検討するもの。140人定員の教室に、僕を含め立ち見の人まででて、全部で180人の参加。若い人たちが多かったのが印象的でした。
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追悼 峯岸賢太郎先生

都立大学の峯岸賢太郎先生が、11日、亡くなられていたことを新聞で知りました。

峯岸先生とは、学生の頃から部落研の研究会でしばしばお世話になりました。最近は僕が研究活動を離れたため、年賀状のやりとりをさせていただいていただけでしたが、2年前、佐々木潤之介先生の偲ぶ会で久しぶりにお会いしたら、すっかり頭が白くなって背中が曲がってしまっておられて、びっくりしました。それでも、お酒を片手に佐々木先生の研究について熱弁をふわれておられたのが印象的でした。また、最近の年賀状に「最近、地域の九条の会を始めました」などと楽しいそうに書かれていて、まさに意気軒昂という感じでした。

日本近世史が専攻だったのに、2000年には『皇軍慰安所とおんなたち』(吉川弘文館)を出版。こういうところにも、積極的に研究を切り開いていく先生の姿勢が現われていたと思います。

まだ62歳。まったくもって残念でなりません。

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姿勢を正さずにはいられない 藤原彰『天皇の軍隊と日中戦争』

藤原彰『天皇の軍隊と日中戦争』(大月書店)

3年前に亡くなられた藤原彰先生の論文・追悼文集が出ました。

内容は3部に別れていて、1つめは、藤原先生の晩年の日中戦争にかんする論文集。2つめは、藤原先生が自らの研究をふり返った論文2つ。そして最後に、藤原先生を偲ぶ荒井信一氏ほかの追悼文。そのなかには、その後急逝された江口圭一氏の一文も含まれています。

今日、ようやく手に入れて、さっそく回想の2論文と追悼文を読み終えましたが、あらためて現代史研究を開拓してきたというにふさわしい先生の業績の大きさに姿勢を正さずにはいられません。

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