いま、『蒋介石秘録』(サンケイ新聞社編、初版1975年刊、改訂特装版1985年刊)を読んでいます。別に、産経新聞や蒋介石の肩を持つつもりなどありません。また本書は、蒋介石の日記や回想、台湾政府の公文書や国民党の公式記録に「準拠」しつつも、あくまで書いたのはサンケイ新聞です。だから、全体の基調になっているのは反共史観だし、そこここに、侵略正当化につながる日本側の注がつけられています。
しかしそれでも、たとえば日本が中国に突きつけた「21カ条要求」について、蒋介石の日記や中国政府の公式資料が引用されているので、当時、中国側がこれをどう受け止めたか、ある意味で生々しく伝わってきます。歴史を具体的に理解するためには、そういう“実感”がけっこう大切なのです。そういう目で読んでみると、全体を貫く反共史観の中に、いろいろ面白いところが登場します。
参考までに、そのくだりを紹介しておきます。これは、蒋介石が当時書いた文章です(同書、上、294?296ページ)。
かねがね、私(蒋介石)がいうように日寇(日本という侵略者)が示した21カ条の精神は、各種の不平等条約を集大成したものであった。……およそ中国の政治、法律、軍事、警察、賦税、交通、鉱産、塩業、宗教、教育など、立国のために必要とするところの文化、国防、経済の要素は、精神面においても、事実面においても、すでに列強との間に結ばれた不平等条約で、失われ、分割されつくしてきた。21カ条は、これら列強が共有している特権を、日本帝国主義者の手に集中させ、それを独占し、壟断しようとするものである。……21カ条は、悪辣、苛酷の最たるものである。それは日本の帝国主義者の中国に対する侵略政策をさらに一歩進めた。日本は中国の分割政策から独占政策に変えたのである。
……
すべてこれは日寇が中国全土を占領し、属国化し、奴隷化しようとしたものであった。