今村仁司『マルクス入門』

筑摩書房のマルクス・コレクションを読んでいる手前、仕方なく購読。

結論からいうと、あれこれ今村流マルクスを描いていますが、マルクスの全体像が見えてこないだけでなく、今村氏がいまマルクスを通して何を主張したいのかさえよく分かりませんでした。

全体として、『資本論』の話は、一部を除いて、主には価値形態論までで終わっており、たとえば未来社会における個人所有の復活という問題でも、「いったんは私的所有へと変質し頽落した個人所有を、もう一度共同所有と結合する」「個人所有と自由な個人を優位におき……共同所有を劣位におく仕方で、個人と共同体を結合する」など述べるだけで、意味不明というか、個人所有と共同所有の関係が問われている時に、その関係を明らかにしないままに、その周辺をあれこれさまよっているだけです。

とくに最後の2章は、「第4章と第5章は、いささか自説を押し出す試みをしてみた」(あとがき)だけあって、出来が悪いですね。

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日本中世史研究をふり返る

雑記@史華堂: 史学史を学ぶで、『歴史評論』6月号「特集 日本中世史研究の現代史」を知り、さっそく購入しました。特集は以下の論文。

  • 鈴木靖民、保立道久「対談 石母田正の古代・中世史論をめぐって」
  • 池 享「永原慶二 荘園制論と大名領国制論の間」
  • 伊藤喜良「非農業民と南北朝時代――網野善彦氏をめぐって」
  • 木村茂光「戸田芳実氏と在地領主制論」
  • 竹内光浩「河音能平『天神信仰論』のめざしたもの」

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いろいろ買い込んだもの

えっと、備忘録です…。

まず憲法関係。3冊目のは去年出たものだけど、買い忘れていたのを発見!

  • 全国憲法研究会編『法律時報増刊・憲法改正問題』
  • 『ジュリスト』2005年5月1・15日合併号「特集・憲法改正論議の現在」
  • 『法律時報』2004年6月号「特集・国際社会と憲法9条の役割」

その他に。

  • 伊勢崎賢治『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書、2004年12月刊)
  • 朝日新聞「自衛隊50年」取材班『自衛隊 知られざる変容』(朝日新聞社、新刊)
  • 田沼武能『難民キャンプの子どもたち』(岩波新書、2005年4月刊)
  • 莫邦富『日中はなぜわかり合えないか』(平凡社新書、新刊)
  • 宮本正興・松田素二編『新書アフリカ史』(講談社現代新書、1997年7月刊)
  • 暉峻淑子『格差社会をこえて』(岩波ブックレット、2005年4月刊)
  • 今村仁司『マルクス入門』(ちくま新書、新刊)

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筑摩版『資本論』続き

その後も、筑摩版『資本論』をたらたらと読んでいます。また、いろいろ疑問な箇所を見つけました。

上246ページ終わりから2行目「資本家のサナギ」
原語はKapitalistenraupe。Raupeは辞書をひく限り、「幼虫、いも虫、毛虫」でサナギの意味はありません。サナギはPuppe。
上251ページ終わりから5行目「社会的生産の古い諸形態」
これはFormationenだから「諸構成体」の間違い。Formと勘違いしたんでしょうか?
俗流経済学と通俗経済学
鈴木直氏の担当部分は、すべて「俗流経済学」になっていますが、今村仁司氏・三島憲一氏が翻訳を担当した部分は、なぜか「通俗経済学」と訳されています。どっちでもいいんですが、訳の統一ができてません。(^^;)
Stoffwechsel
「物質代謝」というような意味の単語ですが、これも訳の不統一です。鈴木氏担当部分は全部「新陳代謝」という訳になっているのですが、今村氏の担当部分では「素材のやりとり」(上67ページ3行目)、「物質変換」(上130ページ注38の4行目、6行目)となっています。なお、三島氏担当部分には、この言葉は出てこないみたいです。

それから、前に書き込んだときに指摘した強調(ゴチック)がいっぱい出てくる件ですが…
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的場昭弘『マルクスを再読する』

マルクスを再読する

最近読み終わったのは、的場昭弘『マルクスを再読する 〈帝国〉とどう闘うか』(五月書房、2004年6月刊)。的場氏は、もともと一橋大学社会科学古典資料センターのアーカイビストで、現在は神奈川大学教授。最近、『マルクスだったらこう考える』(光文社新書)も刊行されていますが、内容はほぼ同じ。でも、『再読する』の方が何を考えているかがよく分かると思います。

最近さかんにマルクスを掲げ注目される的場氏ですが、結論からいうと、氏のマルクス論は……

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とりあえず昨日今日買ったもの、読んだもの

この間買った本。

  • 関志雄『共存共栄の日中経済』(東洋経済、新刊)
  • 八代尚宏・鈴木玲子『家計の改革と日本経済』(日本経済新聞社、新刊)
  • 山之内靖『受苦者のまなざし 初期マルクス再興』(青土社、2004年11月刊)
  • 今村仁司・三島憲一他『現代思想の源流』(講談社、2003年刊)
  • 古井倫士『頭痛の話』(中公新書、新刊)
  • 岩井忠熊『陸軍・秘密情報機関の男』(新日本出版社、新刊)
  • 建部正義『はじめて学ぶ金融論〔第2版〕』(大月書店、新刊)
  • 加藤周一『歴史の分岐点に立って 加藤周一対話集5』(かもがわ出版、新刊)
  • 宮澤誠一『明治維新の再創造 近代日本の〈起源神話〉』(青木書店、新刊)
  • 松野誠也『日本軍の毒ガス兵器』(凱風社、新刊)
  • F・コワルスキー『日本再軍備』(サイマル出版、1969年)=古本

ということで、完全に買いすぎです…。(^^;)
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『現代思想』マルクス特集号

いまさらとは思うが、『現代思想』2004年4月臨時増刊「総特集 マルクス」を読み始めました。筑摩の「マルクス・コレクション」といい、マルクスが出版ジャーナリズムでいろいろ取沙汰されるのはよいのですが、問題はその中身です。

全部は読み終わっていませんが、これまで読んだところで、いろいろ感想を。
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またヤケ買い

今月は、コンサートに3回も行ってしまったし、オケの春シーズンの定期にも申し込んでしまったし…で、倹約しなきゃと思っているのに、ついついまたいろいろ買い込んでしまいました。

  • P・W・シンガー著『戦争請負会社』(山崎淳訳、NHK出版、2004年12月)
  • 杉田敦著『境界線の政治』(岩波書店、2005年2月)
  • 粱東河著『わたしは、こうして北朝鮮で生き抜いた!』(中平信也訳、集英社、2005年1月)
  • 伊波洋一、永井浩著『沖縄基地とイラク戦争 米軍ヘリ墜落事故の真相』(岩波ブックレット、2005年2月)

『戦争請負会社』は、こないだ、「東京新聞」の書評欄で、粉川哲夫氏が力の入った紹介を書いていました。杉田敦氏の本は、パラパラっとみていたら、途中でエルネスト・ラクロウの政治理論にかかわって、マルクス主義やグラムシについて書かれていたので、ちょっと読んでみるかという感じ。あとは、コメント略。(^_^;)

筑摩版『資本論』

筑摩書房から新しく出た『資本論 第1巻』を読み始めました。

とりあえずぱらぱら読み始めた印象では、細かい訳注などがいっさいない(簡単なものは割り注で入っているが)ので、意外と読みやすいというのが一番。あと、強調(ゴチック)がたくさんあるのも特徴です。後者は、邦訳「マルクス・エンゲルス全集」などの底本となっているDietz社のWerke版ではいっさい省略されているものを、同じDietz社の普及版(1953年)を参考に復活させたとのこと。従来の邦訳資本論にはなかったもので、結構たくさん出てきます。

ところで、これまで読んだところで、誤訳(もしくは誤植)と思われるのは――

(1)上巻68ページ13行目、および、同72ページ8行目の「人間労働の支出」のところは、独文はArbeitskraftなので、「人間労働力の支出」と訳されるべき部分です。同じ68ページの15?16行目では、「人間の労働」と「人間の労働力」がきちんと訳し分けられているので、たんなるミスか、それとも誤植なんでしょうか。しかし、2カ所もというのはちょっと解せません。

(2)上巻171ページ、注73の3行目と4行目の「資本制生産様式」。原文はProduktionsprozesses(「生産過程」)なので、ここも訳が違っています。そのあとに出てくる「生産様式」はProduktionsweiseなので、正しい翻訳になっています。

こなれた日本語にするために、いろいろ努力されていますが、上記2点は誤訳もしくは誤植と言わざるをえません。

ジョン・ベラミー・フォスター『マルクスのエコロジー』

マルクスのエコャ??ー表紙

ジョン・ベラミー・フォスター氏は、『独占資本主義の理論』(鶴田満彦監訳、広樹社、1988年)などの著書で知られるアメリカの経済学者。現在はオレゴン大学教授(社会学)。

で、この本は、最初は「マルクスとエコロジー」という題名で書かれる予定だったが、執筆の過程で「マルクスのエコロジー」に変わったという。著者によれば、マルクスに対するエコロジーの側からの批判は、次のような6点にかかわっている。

  1. マルクスのエコロジーにかんする記述は「啓発的な余談」であって、マルクスの著作本体とは体系的に関連づけられていない。
  2. マルクスのエコロジーにかんする洞察は、もっぱら初期の「疎外」論から生まれたもので、後期の著作にはエコロジーにかんする洞察は見られない。
  3. マルクスは、結局、自然の搾取という問題へのとりくみに失敗し、それを価値論に取り込むことを怠った。
  4. マルクスは、科学の発展と社会変革がエコロジー的限界の問題を解決し、未来社会ではエコロジー的問題は考える必要がないと考えた。
  5. マルクスは、科学の問題やテクノロジーの環境への影響に関心を持たなかった。
  6. マルクスは、人間中心主義である。

著者は、こうした見方が、マルクスが批判した相手の議論であって、マルクスのものではないことを明らかにしていくのだが、その詳細は省略せざるを得ない。

面白いのは、こうした問題とかかわって、著者が、自分のマルクス主義理解を問題にしていること。「私のエコロジー的唯物論への道は、長年学んできたマルクス主義によって遮られていた」(まえがき)と書いて、次のように指摘している。

私の哲学的基礎はヘーゲルと、ポジティヴィズム〔実証主義〕的マルクス主義に対するヘーゲル主義的マルクス主義者の反乱に置かれていた。それは1920年代にルカーチ、コルシュ、グラムシによって始められ、フランクフルト学派、ニュー・レフトへとひきつがれたものであった。……そこで強調されたのは、マルクスの実践概念に根ざした実践的唯物論であり、……このような理論の中には、自然や、自然・物質科学の問題へのマルクス主義的アプローチが入り込む余地はないように思われたのである。……私が自分の一部としたルカーチやグラムシの理論的遺産は、弁証法的方法を自然界に適用することの可能性を否定した。それは基本的に領域全体をポジティヴィズムの手に譲り渡すことになると考えたのである。……私の唯物論は、完全に実践的な、政治経済学的なものであり、哲学的にはヘーゲルの観念論とフォイエルバッハによるその唯物論的転倒から知識を得たものだったが、哲学と科学内部における唯物論のより長い歴史については無知だった。(本書、9?10ページ)

著者はまた、「唯物論を実践的なものにする際に、マルクスは自然の唯物論的把握への、つまり存在論的および認識論的カテゴリーとしての唯物論への一般的な関わりをけっして放棄しなかったということである」とも指摘している(同、23ページ)。
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今日のお買い物

今日は、いろいろと本を買い込んでしまいました。

  • 鹿野政直『兵士であること 動員と従軍の精神史』(朝日選書、2005年1月刊、定価1300円+税)
  • 大澤真幸『現実の向こう』(春秋社、2005年2月刊、定価1800円+税)
  • 戸田山和久『科学哲学の冒険――サイエンスの目的と方法を探る』(NHKブックス、2005年1月刊、定価1120円+税)
  • ジョン・ベラミー・フォスター『マルクスのエコロジー』(こぶし書房、2004年4月刊、定価5600円+税)
  • 『思想』〈知覚の謎〉2005年2月号(定価1200円)
  • 『現代思想 特集・脳科学の最前線』2005年2月号(定価1300円)

もともとは、フォスターの『マルクスのエコロジー』を買おうと思って書店に立ち寄ったのですが、あれよあれよという間に、1万円近い買い物になってしまいました。
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学習会の感想

過日、若者相手に「『科学の目』と古典学習」をテーマに喋ったものの感想文をどっさりといただきました。準備不足で、レジュメの「一」の(一)だけで1時間もかかってしまうというとんでもない講義だったのに、「よかった」「学習の意義が分かった」「古典を読んでみようと思った」などなどの感想をいただき、うれしいやら申し訳ないやらです。

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今年をふり返る

今年の記念すべき出来事の1つは、ブログを始めたこと。去年7月にホームページを立ち上げて、もっぱら日記的なことを中心に書き進めていましたが、Movable Typeというものを知り、僕にピッタリということで、半年ほどの間に600以上のエントリーになってしまいました。

Movable Typeのカスタマイズでは、各方面にお世話になりました。
これからもよろしくお願いします。m(_’_)m

音楽関係では、

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溪内謙『上からの革命』

昨日、コンサートの帰りに、新宿に新しくオープンしたジュンク堂書店に行ってみました。

三越の7階と8階の2フロアーぶちぬきで90万冊の書籍を並べたと言うだけあって、実際、ヘーゲル、マルクス、現代思想、経済学などのコーナーを見て回ると、「こんな本まで…」と思うようなものまで並んでいました。それに、店員教育も行き届いていて、「○○の本は?」と聞くと即座に「あちらの棚です」と答えが返ってきます。

で、あれこれ見ていたら、今年2月になくなったソ連史研究の泰斗・溪内謙氏の新著『上からの革命』(岩波書店、11月9日発売)を発見。1万1550円という定価に、一瞬ギョッとしましたが、氏の大著『スターリン政治体制の成立』(全4冊)を「簡潔な一冊」にまとめたもの、となれば買わざるを得ません。「簡潔な一冊」と言いながら、500ページを超える著作。がんばって勉強したいと思います。

ところで、『スターリン政治体制の成立』ですが、あっちこっちの古本屋を探して、ようやく第3部まで3冊揃ったものの、第4部(1986年刊)はどうしても見つかりません。古本屋でも、第4部は4冊セットでしか売られていません。どこかに第4部だけ転がってないでしょうかねえ…。

ぼやいていても仕方がないので…

『経済学および課税の原理』

分からん、分からんとぼやいていても仕方がないので、一昨日から、リカードウ『経済学および課税の原理』(羽島卓也・吉澤芳樹訳、岩波文庫)を読み始める。

読んでみて初めて、この本が、「経済学の原理」と「課税の原理」を別次元のものと区別して論じていることを知る。で、第1章から第7章までが「経済学の原理」、第8章から第18章までが「課税の原理」、そして第19章以下が、それらについての応用編というか学説批評という形をとった補足、という構成になっている(羽島氏の解題による)。そう思って読むと、章ごとの組み立てには、それなりの筋が通っている。なるほどこういうことも、やっぱり現物を読んでみないことには分からないのだなあと、あらためて文献そのものに当たってみることの重要性を痛感。
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リカード研究の必要性

最近、菱山泉氏(京都大学名誉教授)の入門書的な本を2冊ばかり読みました。

  • 『近代経済学の歴史――マーシャルからケインズまで』(講談社学術文庫、1997年。親本は有信堂、1965年)
  • 経済学者と現代2『リカード』(日本経済新聞社、1979年)

なんで、こんなものを読んだのかというと、リカードやスラッファの経済理論を勉強してみたいのです。そもそもは、置塩氏の研究から触発されて、リカードを現代に再生したというスラッファの『商品による商品の生産』をずいぶんと前に飼ったのですが、そもそもリカードは『経済学と課税の原理』も読んだことがないので、全然歯が立ちません。そこで、ともかく周辺から探っていこうと、スラッファの代表作『商品による商品の生産』の翻訳者である菱山氏の本を読むところから始めた訳です。

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置塩信雄『蓄積論』(第1版)

置塩信雄『蓄積論』(第一版)を読み終えました。感想を一言でいうなどと言うことはできませんが、マルクス経済学が、資本主義経済の体制的な特徴、基本的性格を明らかにするだけでなく、景気変動の局面を動態的に分析できるんだということが非常に新鮮な発見でした。

あと、重要なポイントとしては、貨幣賃金率と実質賃金率の区別。それから、平均利潤率というのが、スムースな資本移動といった平和的な運動で実現するものではなく、好況・恐慌という景気循環を通じて初めて実現されること。あと、恐慌における下方への累積過程のなかで、実質賃金率の上昇・利潤率の低下から、資本家に新しい生産技術の採用が強制されること。そして何よりも、資本の有機的構成を高めない技術革新というものがありうること、などなど。少しずつノートをつくって公開するつもりです。

今日の買い物

今日(正確にはすでに昨日ですが)買った本です。

  • 石川康宏『現代を探求する経済学 「構造改革」、ジェンダー』(新日本出版社)
  • 高崎真規子『少女たちはなぜHを急ぐのか』(NHK出版、生活人新書)
  • 小松美彦『自己決定権は幻想である』(洋泉社新書)

またぞろ、いろいろな本の買い込み癖がうごめきだしたかな…? 気をつけねば。

1冊目は、優雅な女子大(しかもお嬢様学校)の先生でありながら、
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