マルクスはリカードウ『原理』をどのように読み込んだのだろう

資本論草稿集を読んでみると、マルクスは、恐慌論にしても再生産論にしても、行きつ戻りつ、いろいろと試行錯誤を繰り返しています。ところが、リカードウ批判に関していえば、『57〜58年草稿』の段階でも、すでにほとんど出来上がっていて、リカードウ理論をすっかり自分のものにして、自分の理論に即して自在に批判しています。

しかし、僕自身がリカードウの『原理』を読んでみても、たとえば第1章から、問題は労働の価値ではなく労働力の価値なんだ、というような結論がどうやったら引き出せるのか、さっぱり見当もつきません。いったいマルクスは、どんなふうにリカードウを読んで、みずからの学説を作り上げたのでしょうか?

ということで、ちょいとつぶやきました。

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『1861-63年草稿』第3分冊後半をさらにざっくり読む

591ページ「四 相対的剰余価値」

591ページ下段。賃金と剰余価値。「先行するもの、規定するものは、賃金の運動である。その騰落が利潤(剰余価値)の側に反対の運動を引き起こす」

592ページ上段。「賃金の騰落は、剰余価値(利潤)率を規定しはするが、しかし商品の価値または価格(商品の価値の貨幣表現としての)には影響を及ぼさない」。「賃金の上昇が商品価格を高くするというのは、間違った先入観である」。

592ページ下段。剰余価値率は賃金の相対的な高さによって決まる。賃金の相対的な高さは、必要生活手段の価格によって決まる。必要生活手段の価格は労働の生産性によって決まる(これはリカードウの説? マルクスの説?)。生産性は土地の豊度が高いほど大きい。「改良」はすべて、生活手段の価格を引き下げる(ここらあたりはリカードウ)。労賃=労働の価値は、労働が労働者階級の平均的消費に入る必需品を生産する限りで、労働の生産力の発展に反比例して騰落する。
 利潤は、労賃が上がらなければ下がりえないし、労賃が下がらなければ上がりえない。
 労賃の価値は、労働者が受け取る生活手段の量によって計るべきではなく、この生活手段に費やされる労働量によって計るべきである。実際には、労働日のうち労働者自身が自分の者として取得する割合で。

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『1861-63年草稿』第3分冊後半をざっくり読む

『資本論草稿集』1861-63年草稿の第3分冊(「剰余価値にかんする諸学説」)の後半部分(大月書店『資本論草稿集』6、530ページ以下)をざっくりと読んでみます。

530ページに「剰余価値にかんするリカードウの理論」の見出し。これはマルクスのもの。とはいえ、ここで取り上げられているのは『経済学と課税の諸原理』の後半部分。

章の書かれていない530ページの冒頭部分の引用は、第25章「植民地貿易について」から。

そのあとは、

第26章「総収入と純収入について」(531ページ)
第12章「地租」(535ページ)
第13章「金にたいする課税」(536ページ)
第15章「利潤にたいする課税」(543ページ下段)
第17章「原生産物以外の諸商品にたいする課税」(549ページ上段)

など。

で、561ページ下段(草稿650ページ)で、「われわれは、こんどはリカードウの剰余価値論の説明に移ろう」と書かれている。このあとは、第1章「価値について」からの引用がおこなわれているし、「一 労働量と労働の価値」(561ページ)から「五 利潤論」(604ページ)まで見出しを立てて書いている。あらためてリカードウの価値論・剰余価値論の批判を始めたということだろう。

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リカードウのお勉強

中村廣治『リカードウ評伝』(昭和堂)

中村廣治『リカードウ評伝』(昭和堂)

ホランダーの『リカードの経済学』(日本経済評論社)を読んでいましたが、とても歯が立ちません。(^^;)

ということで、中村廣治『リカードウ評伝』(昭和堂)を読み始めました。リカードウの生涯を追いながら、彼の学説がどこでどう発展したのかも含め、わかりやすく解説されています。

本日のお買い物

サミュエル・ホランダー『リカードの経済学』(日本経済評論社)

サミュエル・ホランダー『リカードの経済学』(日本経済評論社、1998年刊)

リカードウの『経済学および課税の原理』をきちんと読みたいので、なにかコンメンタールはないか? と聞いたら、「やっぱ、これしかないでしょ」と言われたので、ついに買いました。上下2冊で1,000ページ超、古本でも9,000円しました。

はたして、この忙しい最中にどこまで読めるか分かりませんが、がんばって挑戦してみたいと思います。

マルクスはリカードウをどう読んだのだろう?

『剰余価値学説史』を読んでみると、マルクスは、すでにリカードウを自家薬籠中の物にしている。『57-58年草稿』の学説史の部分を読んでみても同じ。

そもそも1851年に、エンゲルスにたいして、古典派経済学はリカードウ以来なんの進歩もしていないと書いて送っているのだから、そのころにはすでに十分読みこなしていたと考えられる。

しかし、リカードウの『諸原理』を読んで、あそこからマルクス的な労働価値学説を引き出すには、かなりの読みこなしが必要なはずで、いったいマルクスは、どんなふうにリカードウあるいは『諸原理』を読んでいったのだろうか?

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やっぱりリカードはよう分からん…

引き続きリカード『経済学および課税の原理』(岩波文庫)を読んでいます。

第2章「地代について」は、有名なリカードの地代論(マルクスが「差額地代」と呼んだもの)の解明です。

しかしその中に、こんなくだりが出てきました。

 製造品、鉱産物、土地生産物のどれであろうと、あらゆる商品の交換価値は、つねに、きわめて有利な、そして生産上の特殊便宜をもつ者だけがもっぱら享受する事情のもとで、その生産に十分である、より少ない労働量によって規定されるのではなく、このような便宜をもたない者、つまり最も不利な事情のもとで生産を継続する者によって、その生産に必然的に投下される、より多くの労働量によって規定される。(岩波文庫、上110ページ)

ここでリカードは、地代の問題に限らず、一般の「製造品」であっても、その交換価値は、最劣等条件のもとで生産する場合の投下労働量によって規定されると言っています。

地代の場合は、土地が独占されているがゆえに、最劣等地での必要労働量が価値を規定するというのは分かりますが、工業生産物の場合も、そうなるというのは、いったいどういうことでしょうか?

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リカードウをちゃんと理解したい!!

ふたたびリカードウの『経済学および課税の原理』を読んでいます。しかし、リカードウがどういうことを想定して、彼の理論を展開しているのか、よ?分かりまへん。(^_^;)

第1章「価値について」の第3節で、リカードウは、こんな議論を展開しています。

 諸商品の相対価値の変動は、それらの物の生産に要する労働の増減によってひき起こされるばかりではない。その相対価値は、使用される固定資本の価値が不等であるか、あるいは、その耐久力が不等である場合には、賃金の騰貴およびその結果である利潤の下落によって変動することを免れない。(岩波文庫、上、45ページ)

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リカードウと労働価値学説

福田進治『リカードの経済理論』(日本経済評論社)

リカードウといえば、アダム・スミスに続いて、いろいろ混乱はあっても、労働価値学説の立場にたった経済学者だと思っていたのですが、どうも最近の経済学史研究では、そうはなっていないようです。

福田進治『リカードの経済理論』(日本経済評論社、2006年12月)を読んでいたら、こんな記述に出くわしました。

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あっちこっち

今日は、印刷工場で最後の作業。午後、ものすごい勢いで雨が降ったけれど、そのあとは蒸すばかり…。
夕方からは、週末の講義準備のため、職場に戻ってちょこっと作業。今回は、いままでの項目だけのレジュメをやめて、講義要綱をプリントして、それを読み上げながら講義をすすめていくことにしてみました。昔のように、古典の引用を並べて順次説明していく、というだけでは収まらなくなりつつあるので。また、なかなか講義を聴きながらノートがとれないという若い世代向けにサービス。で、準備してみると、A4で28ページになってしまった。はたして5時間で終わるだろうか…。
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ぼやいていても仕方がないので…

『経済学および課税の原理』

分からん、分からんとぼやいていても仕方がないので、一昨日から、リカードウ『経済学および課税の原理』(羽島卓也・吉澤芳樹訳、岩波文庫)を読み始める。

読んでみて初めて、この本が、「経済学の原理」と「課税の原理」を別次元のものと区別して論じていることを知る。で、第1章から第7章までが「経済学の原理」、第8章から第18章までが「課税の原理」、そして第19章以下が、それらについての応用編というか学説批評という形をとった補足、という構成になっている(羽島氏の解題による)。そう思って読むと、章ごとの組み立てには、それなりの筋が通っている。なるほどこういうことも、やっぱり現物を読んでみないことには分からないのだなあと、あらためて文献そのものに当たってみることの重要性を痛感。
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リカード研究の必要性

最近、菱山泉氏(京都大学名誉教授)の入門書的な本を2冊ばかり読みました。

  • 『近代経済学の歴史――マーシャルからケインズまで』(講談社学術文庫、1997年。親本は有信堂、1965年)
  • 経済学者と現代2『リカード』(日本経済新聞社、1979年)

なんで、こんなものを読んだのかというと、リカードやスラッファの経済理論を勉強してみたいのです。そもそもは、置塩氏の研究から触発されて、リカードを現代に再生したというスラッファの『商品による商品の生産』をずいぶんと前に飼ったのですが、そもそもリカードは『経済学と課税の原理』も読んだことがないので、全然歯が立ちません。そこで、ともかく周辺から探っていこうと、スラッファの代表作『商品による商品の生産』の翻訳者である菱山氏の本を読むところから始めた訳です。

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