勅使河原彰『歴史教科書は古代をどう描いてきたか』

勅使河原彰『?史教科書は古代をどう描いてきたか』

帯に「『つくる会』教科書、徹底批判!」とあるので、最初は、「つくる会」の歴史教科書の古代史部分をとりあげて批判した本かと思って読み始めましたが、実際には、それにとどまらず、明治以来の歴史教科書と歴史教育の移り変わりを丹念にあとづけて、そのなかから「つくる会」歴史教科書の問題点を明瞭に浮かび上がらせています。

明治維新で誕生した新国家は、最初から教育にたいする統制の意図は持っていましたが、それでも、最初から国定教科書でもなかったし、南北朝についても両統併記だったのが、自由民権運動と対抗し、大日本帝国憲法を定めて国会開設にいたる時期に、国定教科書となり、南北朝正閏論でも南朝正統説になる、など統制が強まったことが分かります。そのとき同時に、内容への統制が強められたのが、日本の歴史の「始まり」の部分で、天照大神から始まるのが日本の「正史」とされるとともに、考古学的な知見が排除されるようになります。

さらに勅使河原氏が力を注いで明らかにしているのは、その戦前の国定教科書で日本の歴史の始まりとされた「天照大神」以下の「神話」が、けっして、古事記・日本書紀に記された「神話」そのままではなく、それを巧妙に改作してあることです。
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永原慶二『日本封建社会論』を読了

新装版『日本封建社会論』

永原慶二先生の『日本封建社会論』(東大出版会、初版1955年、新装版2001年)を読み終えました。

前にも書いたことですが、あらためて1955年という“時代の息吹”を強く感じましたが、しかしそれは、“すでに時代はわかってしまった”という意味ではなく、研究の質と量が飛躍的に発展した今日において、研究における理論的総括の重要性を教えてくれるものという意味においてです。

本書は、第1章「序説 研究史と問題の所在」に続けて、第2章「封建制形成の前提」(おおよそ平安時代=荘園制)、第3章「農奴制=領主制の生成」(鎌倉時代)、第4章「封建国家の形成」(室町?戦国大名、織豊政権)という3章構成で、封建制を論じ、結びで「日本封建社会の構造的特質」が論じられる、という構成になっています。

その間に、第5章「補論 中世的政治形態の展開と天皇の権威」という章があります。ここでの天皇制論は、権力と権威を区別し、さらに自律的に支配を構成していた段階と、封建的支配層によって再生産されたものとしての中世天皇制とを区別する立場が明らかにされています。このあたりは、網野氏の天皇制論にたいする永原先生の批判に繋がる部分でもあり、興味深く読みました。

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永原慶二氏の歴史学をどう受け継ぐか

昨日、明治大学で開かれたシンポジウム「永原慶二氏の歴史学をどう受け継ぐか」に参加してきました。プログラムは以下の通り。司会は、池享氏。

  • 中村政則「趣旨説明」
  • 保立道久「永原慶二氏の歴史学」
  • 井原今朝男「永原慶二氏の荘園制論」
  • 池上裕子「永原慶二氏の大名領国制論」

1年前に永原先生が亡くなられてから、いろんなきっかけもあって、先生の本をいろいろ読みました。とくに、ちょうど『荘園』(1998年)を読み終えつつあったこともあって、あらためて先生の研究の視野の広さ、奥深さ、がっちりした理論的な組み立てなどを強く思っていたので、中村先生のご挨拶といい、そのあとの3人の報告といい、なるほどとと思う部分と、それから自分の気づいていなかった新しい問題を教えてもらったり、大変勉強になった研究会でした。

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歴史研究に向かう姿勢

中世史研究をふり返った『歴史評論』6月号に続いて、『歴史評論』5月号の特集「戦争認識と『21世紀歴史学』の課題」を読み始めました。

特集の目次は以下の通り。

  • 荒井信一「学徒兵の戦争体験と『近代の歪み』」
  • 岡部牧夫「15年戦争史研究の歩みと課題」
  • 大八木賢治「戦後歴史教育における戦争」
  • 滝澤民夫「歴史教育と高校生の戦争意識・戦争認識」

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日本中世史研究をふり返る

雑記@史華堂: 史学史を学ぶで、『歴史評論』6月号「特集 日本中世史研究の現代史」を知り、さっそく購入しました。特集は以下の論文。

  • 鈴木靖民、保立道久「対談 石母田正の古代・中世史論をめぐって」
  • 池 享「永原慶二 荘園制論と大名領国制論の間」
  • 伊藤喜良「非農業民と南北朝時代――網野善彦氏をめぐって」
  • 木村茂光「戸田芳実氏と在地領主制論」
  • 竹内光浩「河音能平『天神信仰論』のめざしたもの」

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西都原古墳群で最古級の前方後円墳

宮崎県の西都原古墳群の調査で、纒向型前方後円墳から、3世紀中頃と見られる土器が出土。

3世紀中頃というと、畿内で前方後円墳が造られ始めた時期。同じ時期に南九州でも前方後円墳が造られたとしたら、古代史の枠組みを揺るがせる大発見かも…。ただし、畿内での前方後円墳の出現時期についても、現在、いろいろ論争があるし、土器の型式による編年そのものを見直さないといけないのかも知れないし。難しい…。

南九州に国内最古級の前方後円墳 宮崎大など発掘調査(朝日新聞)

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永原慶二『下克上の時代』(中公版「日本の歴史」第10巻)

下克上の時代

永原慶二先生の『下克上の時代』(中公版「日本の歴史」第10巻)を久しぶりに読みました。親本は1965年刊で、僕自身は、多分(←記憶あいまい)大学に入ってすぐの頃に旧文庫版で読んだと思います。この度、新しく版を起こして、文庫で再刊されました。

その後、永原先生は、いわゆる一般向け通史としては、1975年に小学館版「日本の歴史」第14巻『戦国の動乱』を、1988年に同じく小学館の「大系 日本の歴史」第6巻『内乱と民衆の世紀』を執筆されています。前者は、その後、大幅に加筆・修正し、『戦国時代 16世紀、日本はどう変わったのか』と改題の上、2000年に小学館ライブラリーに上下2冊で収められました。後者は、90年代に「大系 日本歴史」全体が同じく小学館ライブラリーのシリーズとして再刊。どちらも現在入手可能です。

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関口裕子『日本古代家族史の研究』

こないだから、関口裕子さんの『日本古代家族史の研究』(上下、塙書房、2004年2月刊)を読んでいます。上下合わせて1000ページ超、上下各12000円の分厚い学術書です。

ようやく上巻の140ページほど読んだだけで、まだ全貌どころかその片鱗をうかがうところにさえ至っていません。戦前、戦後の家族史・共同体史(論)を研究史的に検討した序論部分なのですが、研究史批判の基礎となる実証的部分は、その後の部分に出てくるので、なかなか関口さんの積極的な論の展開がみえないままで、苦労しています。(^^;)

ところで、

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衝動買いしてしまった…

山田昌弘『希望較差社会』(筑摩書房)を買いに本屋へ立ち寄ったのですが、そのとき、ついつい買ってしまった本が…。

  • 永原慶二『苧麻・絹・木綿の社会史』(吉川弘文館)
  • 梶川伸一『幻想の革命 十月革命からネップへ』(京都大学学術出版会)

『苧麻・絹・木綿の社会史』は、今年7月に亡くなられた永原先生が、直前まで書かれていた著書です。永原先生には『新・木綿以前のこと』(中公新書、1990年、絶版)という著書がありますが、新著の前書きを読むと、木綿ばかりでなく、苧麻、絹のことをさらに深めたいと思い、昨年(2003年)正月から取り組んできたと書かれています。そして、『新・木綿以前のこと』の改訂増補した「苧麻から木綿へ」が、本書に収められています。80歳を過ぎて、なおこれだけの研究に取り組まれたことに感慨を覚えずにはいられません。あらためて、先生のご冥福を祈りたいと思います。

恩師の研究をふり返って

引っ越しで本を移したために、何がどこにあるかさっぱり分からなくなりました。その代わり、昔買ったままになっていた本などを“再発見”したりもします。(^^;)

今日、何気なく恩師の『幕末社会の展開』(佐々木潤之介著、岩波書店、1993年)を手に取ってみました。終章を読むと、最後に先生が、新たな「絶対主義論」の展開を展望しつつ、それは別稿に譲ると書かれているのを発見。大学院を辞めてから、近世史にかんする論文はほとんど読まなくなり、この本も買ったままになっていました。結局、この別稿は書かれずじまいになった訳で、今さらながら、なぜ本書が刊行されたときにすぐ読んでおかなかったかと悔やまれます。

追悼 永原慶二先生

日本中世史の大家である永原慶二先生が、7月9日に亡くなられました。

直接ゼミナールなどで指導していただいたことはありませんが、教養の授業では『歴史学叙説』(東大出版会、1978年)のもとになった講義を1年間拝聴し、教壇に立たれたときのいかにも学者然とした様子が思い出されます。

亡くなられる直前に『永原慶二 年譜・著作目録・私の中世史研究』という冊子を私家版としてまとめられたのを、最近知り合いから見せてもらい、その中に収められている「私の中世史研究」(『歴史評論』2002年12月号?2003年2月号掲載)というインタビューを読んでいます。

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