置塩信雄『蓄積論』(第1版)

置塩信雄『蓄積論』(第一版)を読み終えました。感想を一言でいうなどと言うことはできませんが、マルクス経済学が、資本主義経済の体制的な特徴、基本的性格を明らかにするだけでなく、景気変動の局面を動態的に分析できるんだということが非常に新鮮な発見でした。

あと、重要なポイントとしては、貨幣賃金率と実質賃金率の区別。それから、平均利潤率というのが、スムースな資本移動といった平和的な運動で実現するものではなく、好況・恐慌という景気循環を通じて初めて実現されること。あと、恐慌における下方への累積過程のなかで、実質賃金率の上昇・利潤率の低下から、資本家に新しい生産技術の採用が強制されること。そして何よりも、資本の有機的構成を高めない技術革新というものがありうること、などなど。少しずつノートをつくって公開するつもりです。

置塩信雄『蓄積論』(9)

第1章 資本制経済の基礎構造

4、実質賃金率と資本蓄積

c 蓄積需要と実質賃金率

  • ある時点における実質賃金率の水準は、その時点に存在する両部門の生産能力、生産技術を一定とすれば、これらの生産能力を所有する資本家の生産決定態度、資本家の蓄積需要、個人消費に依存する。これらの決定要因のうち、もっとも変動が激しく、他の諸要因をも変化させてゆくのは、資本家の蓄積需要である。(88ページ)
  • 資本家の蓄積需要が、その期の生産能力に比して高水準の時は、実質賃金率は下落し、蓄積需要が、その期の生産能力の比して低水準の時には、実質賃金率は上昇する。実質賃金率の運動の仕方を決めるのは、蓄積需要の絶対的な大きさではなく、その期の生産能力との相対的連関である。(89ページ)
  • その期の生産能力と蓄積需要の相対的関係は、今期に存在する生産財量に対する次期の生産財の増加分の比であらわすことができる。この比を資本蓄積率(資本の増加率)と呼ぶ。すると、各期の資本蓄積率の変化が実質賃金率の運動を引き起こすと言える。(90ページ)

置塩信雄『蓄積論』(8)

第1章 資本制経済の基礎理論

4、実質賃金率と資本蓄積

b、実質賃金率の一時的決定

iii)需給の一時的均衡点

いま、例えば、消費財部門の資本家が、従来より、より低い利潤率でもいままでの水準の生産を決定するようになったとしよう(これはなんらかの矯正なしには不可能だが)。すると、消費財で測った実質賃金率は上昇する。その結果、労働者の消費需要が増加して、消費財生産、生産財生産はともに増加する。この場合には、資本家の蓄積需要や個人消費の増加の場合とちがって、生産水準の上昇が、実質賃金銀の下落をともなうのでなく、実質賃金率の上昇がともなう点が注意されなくてはならない。すなわち、この場合には、労働者の消費需要の増大による生産水準の上昇があるのである。だが、このことが可能なためには、資本家の供給態度の変更が絶対必要である。ケインズは、このような方向への研究、そのための政策を考えてもみない。これは彼がブルジョア経済学者として、資本家の利潤追求態度を変化しえない『神聖』なものとみなしていたことを示している。(88ページ)

↑これが置塩氏の結論で重要なところ。つまり、経済の民主的規制で、置塩氏が想定したような「強制」ができたとすれば、労働者の実質賃金率を引き上げつつ、経済水準全体を引き上げることが可能だということです。“国民の懐を暖めてこそ、経済は発展する”ということの経済学的証明です。

置塩信雄『蓄積論』(7)

第1章 資本制経済の基礎理論

4、実質賃金率と資本蓄積

b、実質賃金率の一時的決定

iii)需給の一時的均衡点

両部門の需給の一致点が成立したとして、生産量、雇用量、実質賃金率は、(1)生産財に対する新規投資需要、(2)消費財に対する資本家需要、(3)両部門の資本家の生産決定態度にどのように依存しているか。(86ページ)

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置塩信雄『蓄積論』(5)

第3章 資本制的蓄積と恐慌

4、反転

a、暴力的均衡化

上方への不均衡累積過程においては、次のような不均衡が累積していった。(イ)生産能力と市場の不均衡、(ロ)労働力供給と労働需要の不均衡、(ハ)諸商品の価値(労働生産性)と価格の不均衡、(ニ)各部門の利潤率の不均衡。
これらが、恐慌によって暴力的に均衡化される。(260ページ)

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置塩信雄『蓄積論』(2)

第2章 資本制的拡大再生産

4、「均衡」蓄積軌道

d、均衡蓄積軌道――技術変化のある場合

  • 生産技術が毎期一定率で変化する場合、実質賃金率が一定だとすれば、生産財部門の比重 λ は毎期上昇してゆく。つまり、このばあいには消費財1単位を生産するために直接・間接に必要な労働量が減少しているのに、実質賃金率が一定であるから、搾取率が上昇し、それが生産財の追加生産に回されるということ。
  • これにたいし、実質賃金率が労働生産性の上昇と同じ率で上昇してゆくとすれば、搾取率は不変にとどまり、生産財部門の比重は変化しない。ただしこれは、両部門における a1、a2(それぞれ1単位生産するのに必要な生産財の量)が変化しないというタイプの技術変化を想定したから。マルクスが想定したような、生産の有機的構成の高度化を伴うような生産技術の変化があった場合は、実質賃金率と労働生産性の上昇率と同一率で上昇し、搾取率が不変であっても、a1、a2が増加するから、生産財部門の比重は毎期増大してゆく。
  • 実質賃金率が一定であれば、生産財部門の比重 λ 、生産財生産の増加率 g は毎期上昇してゆかなければならず、もし実質賃金率が労働生産性と同一率で上昇すれば、λ と g は毎期不変となる。
  • このとき、消費財生産の増加率はどうなるか。もし、λ 一定なら、消費財生産部門の増加率は生産財生産部門の増加率と等しくなければならない。
  • それにたいし、実質賃金率がすえおかれて生産財生産部門の比重が毎期増大していく場合には、消費財生産部門の増加率は、生産財生産部門の増加率より小にならざるをえない。労働生産性の上昇率が充分に大きい場合には、消費財部門の生産量の変化はゼロまたは負になることもありうる。

(180〜181ページ)

置塩信雄『蓄積論』

置塩信雄先生の『蓄積論』を読んでいますが、これはなかなか相当な本ですね。

これじゃあ意味不明(^^;)ですが、こんなすごい中身だったとは…、なんでいままでちゃんと読まなかったんだろうと後悔することしきりです。この本の中で置塩氏は次のようなことを明らかにしています。

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置塩信雄『資本制経済の基礎理論』

置塩信雄先生『資本制経済の基礎理論』増訂版(1978年)を読み終えました。こんな学術書をさして「面白かった」などというと奇妙かも知れませんが、マルクス経済学というのがこういうリアリティを持っているのかと、ぐいぐい引き込まれます。

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