難しい作品… 映画「マンダレイ」

マンダレイ(プログラム表紙)

デンマークの監督ラース・フォン・トリアーが撮った最新作。ニコール・キッドマンの主演で話題になった「ドッグヴィル」(2003年)の続編です。(ことし3本目の映画)

ドッグヴィルを父とともに脱出したグレースは、アメリカ南部アラバマ州で、農園「マンダレイ」の前を通りかかる。そこでは、黒人たちが、白人の一家族によって奴隷として支配されていた。時代は1933年、すでに奴隷解放から70年たっているにもかかわらず。ドッグヴィルで「力の行使」を学んだグレースは、父の手下たちの「力」を使って、黒人たちを解放する。グレースの発案で、農園は黒人たちの「共同体」とされ、白人家族はそこで雇われて働くことになった。しかし、黒人たちは、グレースの行いに困惑の表情を見せる……。

前作同様、セットはほとんど簡略化され、屋敷の門構えやポイントになる窓、室内のベッドやテーブルを除くと、建物も農園も、みな舞台の上に引かれた線で示されるだけ。それでも、ドアをノックする音や開け閉めする音がおぎなわれているのと、ナレーションが多くなっているので、前作より少しは分かりやすくなっているかも知れません。

ところでその内容ですが、もっか公開中なので詳しく紹介できませんが、なかなか複雑な仕掛けになっています。アメリカの黒人差別を批判しているのは間違いないのですが、黒人を「哀れな存在」と見なすグレースの行いを“偽善”として告発するだけでは話を終わらせておらず、あたかもヘーゲルの「<主>と<奴>の弁証法」を見ているようです。(^_^;)

しかし、じゃあアメリカのやってきたことはみんな偽善だったのかというと、やっぱりそれも違うと思うので、なかなかすっきりしません。何にせよ、エンドロールの背景に登場する写真を最後まで見て考えさせられる作品です。

主役グレースを演じるのは、映画監督ロン・ハワードの娘ブライス・ダラス・ハワード。前作の印象が強かっただけに、主演交代はなかなか難しいところですが、見事にニコール・キッドマンとは違う、もう少し人間味あるグレースを演じていました。他方、「まだ準備ができていないんです」という台詞をくり返す黒人たちの頭役ウィレルムを演じるのは、「リーサル・ウェポン」シリーズでメル・ギブソンの相棒役をつとめたダニー・クローヴァー。彼が渋いところを演じています。さらに、イザーク・ド・バンコレが、この作品のキーとなる“誇り高き黒人”ティモシー役も見応えあります。

全編が、手持ちカメラ(というか、実際には、でかい安定装置付きのカメラを肩に担いでいるのですが)で撮影されていて、クローズアップを多様する画面構成が、いやでも観客たちを主観的なかたちで作品世界にまきこんでゆきます。モーツァルトのレクイエムを思わせる弦楽による陰鬱な音楽も、不思議な作品空間をつくりあげています。

『マンダレイ』オフィシャルサイト

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マンダレイ|映画まみれ

あれこれブログの記事を見てみると、ブライス・ダラス・ハワードの評判はいまいちのようです。「影が薄い」とか、インパクトがないとか…。でも、こんどのグレースは、前作のような審判するキャラではなく、予想外の事態に困惑するキャラなので、ニコール・キッドマンのような個性の強い女優よりも、彼女の方が適役だと思うのですが、どんなもんでしょうねぇ。

要は、「マンダレイ」を「ドッグヴィル」の延長線上で見るか、それとも独立した作品として考えるかで、ブライス・ダラス・ハワードにたいする評価も、この作品全体にたいする評価も違ってくるように思います。僕は、独立した別の作品として見るべきだろうと思うのですが。じゃあなぜ主人公が同じグレースなんだ?という疑問には、うまく答えらませんが…。(^_^;)

【作品情報】監督・脚本:ラース・フォン・トリアー/撮影:アンソニー・ドッド・マントル/美術監督:ピーター・グラント/出演:ブライス・ダラス・ハワード(グレース)、ダニー・グローヴァー(ウィレルム)、イザーク・ド・バンコレ(ティモシー)、ウィレム・デフォー(グレースの父)、ローレン・バコール(女主人)/2005年、デンマーク、139分

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

14件のコメント

  1. 文中リンクありでのTB、ありがとうございます。
    ブライス・ダラス・ハワード、よかったですよね!
    次の3作目、ラストでは誰がグレースを演じるのか、楽しみです。
    また遊びにきます!

  2. ピンバック: 映画子の映画日記
  3. ピンバック: 平気の平左
  4. ピンバック: シャーロットの涙
  5. はじめまして。文中リンク&TBありがとうございます。
    ブライス・ダラス・ハワードは確かに色々と意見が分かれてますね。あの状況に困惑し迷っている様は、確かに二コールより感情移入し易かったかもしれませんね。
    次回作のタイトルは『ワシントン』っていうそうですね。
    いよいよ本丸に到達するトリアーがどんなシメを持ってくるか今から楽しみです。

  6. ピンバック: 映画まみれ
  7. ピンバック: 微動電信
  8. ピンバック: still searching Style...
  9. こんにちは、TBありがとうございます。
    あの繰り返し流れている曲、ヴィヴァルディの詩篇第126番の第4曲らしいです。原曲を聴いてみたいので、少し探しましたけどみつかりませんでした。
    専門店を一度のぞいてこようと思います。(^-^)

  10. ピンバック: サーカスな日々

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