御手洗ビジョン、消費税2%引き上げなど提言

日本経団連の御手洗会長が、新しいビジョン「希望の国、日本」(御手洗ビジョン)を発表。消費税を2011年度までに2%引き上げ7%にすることなどを提言。

経団連ビジョン「希望の国、日本」 (2007-01-01)
消費税は2011年度までに2%程度引き上げ=経団連・御手洗ビジョン(朝日新聞、 ロイター)

御手洗ビジョンの全文は経団連のホームページで公開されているのだけれど、pdfファイルは印刷不可、コピー不可になっているので、読むのが面倒。ざっと見た範囲では、以下の点が目立つ。

  • 第4章「今後5年間で重点的に講ずるべき方策」の最後に「憲法改正」が特記されていて、憲法9条2項(戦力不保持)を改正して、自衛隊の保持を明確にし、「国益の確保」あるいは「国際平和の安定」のために集団的自衛権が行使できるようにするとしている。
  • 同じく第4章で、「需要の創出・拡大」という項目があるけれど、書かれていることは、いっそうの規制緩和をすすめて新しい技術や商品開発を可能にするなど、供給サイドのことばかり。肝心の国民の懐を暖めて消費を拡大する、という問題は、まったく視野にも入っていない。(それでも、「需要の創出・拡大」を「重点的に講ずるべき方策」にあげざるをえなかったところに、「史上最長の景気拡大」と言いつつ、需要不足に悩む経済界の心理が反映しているといえるが)
  • 社会保障の項目では、消費税の目的税化の話がまったく出てこない。医療保険については、「免責制」(一定額以下の診療は保険の適用外として、本人が全額負担する制度)の導入、混合診療の導入などが中心になっている。失業保険制度については、「再チャレンジ」との関係で、「一定の財政的支援の継続」をいわざるをえなくなっている。
  • 税制改正では、2011年に国・地方のプライマリーバランスの黒字化のため、消費税率の2%程度の引き上げはやむを得ないとしている。法人税については、相変わらずの大幅引き下げを要求。個人所得課税については、「低・中所得層に配慮した減税」を求めている。しかしだからといって、高額所得者や株取引などへの課税強化を言っているわけではない。そのあたりに、何か、隠された魂胆を感じてしまうのだが…。
  • 労働市場改革のところでは、「多様な働き方」の名目で、ホワイトカラー・エグゼンプション制度の推進がうたわれている。
  • 「教育の再生」では、「克己心と公徳心の涵養」がメインに掲げられている。そして、「公徳心」の涵養には愛国心が必要だという論理。しかし、改革をすすめていけば「石くれやいばらも多く、痛みも覚悟しなければならない」、だから改革を続けるためには「国を愛する心」が必要だ、と書いているのを読むと、結局、「改革」=「痛みの押しつけ」を「お国のため」といって我慢させる、というところに狙いがあるのは明らか。思わず本音が出てしまったということか。

消費税は2011年度までに2%程度引き上げ=経団連・御手洗ビジョン
[asahi.com 2007年01月01日12時45分]

 [東京 1日 ロイター] 日本経団連は1日、今後10年間に目指すべき日本の将来像を描いた「希望の国、日本(御手洗ビジョン)」を発表し、消費税は2011年度までに、2%程度引き上げるべきとの考えを表明した。また、国の債務残高の対国内総生産(GDP)比を安定させるため、2012年度以降から2015年までの間に、消費税をさらに3%程度引き上げるか、社会保障以外の歳出を毎年4.6%程度削減することが必要、との見解を示した。
 御手洗ビジョンは、昨年5月に就任した御手洗冨士夫会長(キヤノン<7751.T>会長)が実現に向けて取り組む政策提言の基本方針。経団連は昨年4月の提言で、2010年代の初頭をめどに消費税を10%に引き上げていくべきとの考えを示していたが、政府の「骨太方針2006」に盛り込まれた歳出削減の方針と景気回復による税収増を織り込んで、新ビジョンで引き上げ幅を縮小。安倍内閣の成長路線に沿った内容となった。
 新ビジョンでは、法人税の実効税率を30%程度の水準まで引き下げることや、2015年度をめどに道州制を導入することを盛り込んだ。これらを含め、イノベーションによる生産性の向上やFTA・EPAの締結を促進するなど19項目の諸施策を講じることにより、2006年から2015年までの10年間に、実質GDPは年平均2.2%、名目GDPは同3.3%の成長が可能になると試算した。
 消費税の項目では、2011年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する政府の目標について、名目成長率3%、長期金利4%の前提で試算。この結果、11.4兆円の歳出削減と、2009年度に基礎年金国庫負担割合を2分の1に引き上げることを織り込めば、消費税を2%程度引き上げることで、2011年度の国のプライマリーバランスが0.6%程度の黒字、地方は0.5%程度の黒字化が可能になるとしている。
 2012年度以降については、社会保障給付の伸びを「高齢化で修正した成長率」以下にとどめることを前提にすると、消費税をさらに3%程度引き上げるか、社会保障以外の歳出を毎年4.6%程度削減するか、いずれかを行うことによって、2015年度の国のプライマリーバランスは1.8%程度の黒字、地方も0.3%程度の黒字になると試算した。国・地方それぞれの債務残高の対GDP比を安定的に低下させることが可能になるとしている。

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作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

5件のコメント

  1. TBありがとうございます。私は特にマジメに世の中を考えているほうではないと思っていたのですが、このたびの安倍内閣の方針、それに呼応するかのごとき経団連の発言には危うさを覚えます。
    できれば引き続き「輸出戻し税」についてお読みいただき、忌憚のないご意見をお聞かせ願えれば幸甚です。
    http://blog.goo.ne.jp/gogo084/e/c06352bbf40689b0c8ff9f2a1962282b

  2. naoさん、こんばんは。
    僕は、消費税というか、一般に付加価値税の場合、国境をまたぐ場合に課税による不平等が起こらないように、戻し税をするというのは、一般論としては、あり得ることだと思っています。

    しかし、naoさんが指摘されるとおり、「福祉目的税」ということになれば、なんでそれを輸出企業にだけ払い戻すのか?という疑問がわくのは当然。だから、目的税化に反対したかどうかは分かりませんが、なかなか鋭い指摘だと思いました。

  3. GAKUさん、ありがとうございました。私も「戻し税」は理屈に合っていると考えていたのですが、輸出企業にだけ戻すというのは税負担の公平性の面から考えてもどうかな?と思った次第です。
    勉強になります。
    これからも読ませていただきますので、どうかよろしくお願いいたします。

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