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新訳『共産党宣言』を読もう

(1989年7月)

はじめに

現在、世界の共産主義運動、反核・平和運動においては、「新しい思考」の名のもとに、歴史発展の原動力である階級闘争、人民のたたかいを抑制して、帝国主義、核兵器固執勢力との「対話」「共同の創造、共同の発展」を主張する議論が説かれ、重大な障害がもちこまれています。それだけに、あらためて科学的社会主義の古典に立ちかえって、社会発展の法則や労働者階級のたたかいが果たす世界史的役割をまなぶことが求められています。

時宜にかなった新訳

そうしたとき、新日本文庫から『共産党宣言』の新訳(服部文男訳、一九八九年)が出版されたことはたいへん時宜にかなったものといえます。

『共産党宣言』は、当時の労働者階級の最初の国際的革命組織であった「共産主義者同盟」の委託を受けけて、その綱領としてマルクスとエンゲルスが協力して書き、一八四八年二月に出版されたものです。

レーニンは、『宣言』の意義を次のように指摘しています。

「この著述のなかには、新しい世界観、社会生活の領域をもふくむ一貫した唯物論、もっとも全面的で深遠な発展の学説としての弁証法、階級闘争と新しい共産主義社会の創造者であるプロレタリアートの世界史的役割とについての理論が、天才的にはっきりとあざやかに描きだされている」(『カール・マルクス』新日本文庫、14ページ)

『共産党宣言』は科学的社会主義の基本的な文献の一つとして、これまでも翻訳されていましたが、とくに今回の新日本文庫版は、これまでの訳書とちがったいくつかの工夫がなされているのが特徴です。

まず、『共産党宣言』が最初に印刷された二十三ページのパンフレットを原本として翻訳されていること、そして各国語版の序文がそれぞれの言語から訳されていることです。これによって私たちは、『宣言』をそれが発表された最初の姿で読み、その後、深められ各国にひろまっていった様子を知ることができます。

新訳のもう一つの特色は、一八八八年英語版へのエンゲルスの注を見開きの左ぺージの左端にまとめたことです。重要な指摘をふくんでいるエンゲルスの注は、これまでの訳書にもとりいれられていますが、左側のぺージにまとめられたことで、たいへん読みやすくなりました。

また、この英語版はエンゲルスが校閲したもので、ドイツ語版ですこしわかりにくい表現になっている個所をよりわかりやすく書き直しているところがたくさんあります。訳注では、そのちがいかたいへんくわしく指摘されており、『宣言』を理解するうえで、よい参考になるでしょう。

新訳の特色の三つ目は、「共産党宣言」と、その下書きともいうべきエンゲルスの「共産主義の諸原理」のほかに、付録として「共産主義的信条表明草案」と「共産主義者同盟規約」が収められていることです。

「共産主義的信条表明草案」は、単行本としては初めての翻訳です。これは、一八四七年六月の「共産主義者同盟」第一回大会の暫定的結論としてエンゲルスの手でまとめられたものですが、マルクスのいた共産主義者同盟のブリュッセル班でも、エンゲルスのいたパリ班でも賛成をえられませんでした。そして、パリ班で一任されたエンゲルスが、これに代わる新草案としてつくったのが「共産主義の諸原理」です。

「共産主義者同盟規約」も文庫本に収められたのは初めてです。これは、同年十一月の第二回大会で修正されたものですが、それによって、共産主義者同盟の目的が「ブルジョアジーの打倒、プロレタリアートの支配、階級対立にもとづく旧来のブルジョア社会の廃止および階級のない、また私的所有のない新しい社会の建設である」ことが明確にされ、また民主主義的中央集権制の組織原則も明確にさだめられました。

訳者である服部文男氏の解説とあわせてこれらの資料を読むと、同盟がマルクス、エンゲルスの指導をうけて古い考えをぬけだして、科学的社会主義の見地を確立していく過程がよくわかります。

このような特色をもった新訳の出版を機会として、ぜひ多くの人があらためて『共産党宣言』を学習されることを期待します。

たたかいの指針としての『宣言』

ここでは『共産党宣言』学習の参考に、それが出された当時のヨーロッパの様子や、「共産主義者同盟」について、そして『宣言』の内容を簡単に紹介しておきましょう。

十八世紀末から十九世紀はじめにかけてイギリスでおこった産業革命は、その後ヨーロッパにひろまり、各国で機械制大工業にもとづいた資本主義が発展しはじめていました。。フランスでは、一七八九年の大革命でブルジョアジーが支配階級になりましたが、ドイツはなお絶対君主の支配のもとにありました。

資本主義の発展とともに、一八三一年のリヨンでの労働者の蜂起をはじめ、労働者階級のたたかいがおこっていました。またその一方で、サン・シモン、フーリエ、才ーエンなどの空想的社会主義者が登場していました。そして一八四七年の恐慌をきっかけに、ヨーロッパは革命的情勢に直面していました。こうしたとき、労働者階級のたたかいの指針となったのが『共産党宣言』でした。

『宣言』をだした「共産主義者同盟」は、もともとドイツ人労働者の亡命者たちが一八三六年にパリでつくった秘密組織「正義者同盟」(「義人同盟」と訳されることもあります)でした。正義者同盟は、その後ロンドンに本拠を移し、それとともに国際的な組織となりましたが、そのころ影響力をもっていたのは、ドイツ人職人のヴァイトリングの空想的な共産主義理論でした。

他方、マルクスとエンゲルスは、一八四四年にはじめてパリで出会ったとき科学的社会主義理論の基本的見地で一致し、『聖家族』『ドイツ・イデオロギー』などの著作でそれを明らかにするとともに、各地の活動家にたいし理論的にも組織的にも積極的なはたらきかけを開始していました。

当時、正義者同盟の内部では、共産主義社会をどのようにして実現するかをめぐって活発な議論がおこなわれていました。そうしたなかで、マルクスとエンゲルスのもとに、二人の加盟と協力を要請する密使がおくられ、二人は同盟にくわわります。

一八四七年六月に「正義者同盟」は大会をひらき、名称を「共産主義者同盟」にあらためました。そして同年十一月の第二回大会において、徹底した討論をへてマルクス、エンゲルスの示した原則が承認され、前述の規約を採択するとともに、綱領の起草がマルクス、エンゲルスに委託されました。そうしてできたのが『共産党宣言』です。

『宣言』を学習する場合、「一般的な諸原則は、大体においてこんにちでも完全な正しさをたもっている」が、その実践の方法は「歴史的に現存する諸条件に依存する」というエンゲルスの指摘(「一八七二年ドイツ請版への序文」)の精神で読むことか必要です。ですから、資本主義が高度に発達した日本における革命の具体的な道筋については、日本共産党の綱領や大会決定などで学習し、古典の学習とあわせて科学的社会主義、史的唯物論の原則を深くつかむことか人切です。

本文の内容にうつりましょう。

はじめの一ページでは、共産主義者が正式な綱領を明らかにしていないため「妖怪」あつかいされていた当時の状況をのべて、『共産党宣言』発表の目的を簡潔に説明しています。

第一節は「これまでのすべての社会の歴史は、階級闘争の歴史である」という有名な言葉で始まります。そして、原始時代をのぞいて、階級闘争が社会発展の原動力であり、近代ブルジョアジーも、この階級闘争の歴史の中から生まれてきたこと、そして資本主義が同時にその「墓掘り人」である労働者階級を生み出し、その階級闘争をとおして必然的に社会主義へすすむことを明らかにしています。

なお、エンゲルスは注で、「これまでのすべての社会の歴史」とは、「すべての書かれた歴史」のことだと指摘しています。これは、『共産党宣言』を書いた当時、まだ原始共同体の存在が知られていなかったためです。原始共同体には階級も、したがって国家も存在しませんでした。国家は、階級対立が生まれ原始共同体が解体したあと、階級抑圧の機関として成立しました。そのことは、エンゲルスの『家族、私有財産および国家の起源』でくわしく明らかにされていますので、ぜひあわせて学習してください。

また同じページには、もう一つ重要な注があります。「プロレタリアートとは、自分自身の生産手段をもたないで、生活するためにその労働力を売ることを余儀なくされている近代的賃金労働者の階級を意味する」という注です。労働者階級をどう定義するかは重要な問題ですので、ここもぜひ学習してほしいところです。

二つの階級のあいだの衝突

『共産党宣言』は、労働者階級のたたかいが発展していくさまざまな段階を、「はじめには個々の労働者が、つぎには工場の労働者が、そのつぎには一つの地域の一労働部門の労働者が、彼らを直接に搾取する個々のブルジョアにたいしてたたかう」、「個々の労働者と個々のブルジョアとのあいだの諸衝突は、圭すます二つの階級のあいだの諸衝突という性格をおびてくる。労働者たちは、ブルジョアに対抗する同盟をつくりはじめる」と説明するとともに、労働者階級の「闘争の本来の成果」は「労働者たちかますます広く自分たちのまわりにひろげてゆく団結である」ことを明らかにしています。これらは、「プロレタリアの階級への、したがって政党へのこの組織化」という指摘とともに、労働者階級の階級的組織の拡大とそれを先頭に立って推進する共産党の役割を明らかにしたものといえます。

また、社会主義革命における労働者階級の指導的役割を、「こんにちブルジョアジーに対立しているすべての階級のうち、ただプロレタリアートだけが真に革命的な階級である」と指摘しています。

第一節の最後の部分では、労働者階級のたたかいが階級対立そのものを廃止するという世界史的役割をもっていることや、大多数者の利益のための大多数者の運動であること、そして労働者階級のたたかいが国際的な内容をもつとともに、まずは各国で自国の革命を達成しなければならないことを明らかにしています。

反共攻撃に反撃

第二節は、労働者階級と共産党との関係、党の目的と任務を明らかにするとともに、各種の反共攻撃に反撃しています。そこでは、共産党は、労働者階級の闘争に「特殊な諸原則」を押しつけようとするものではなく、「プロレタリアートの階級への形成、ブルジョアジー支配の転覆、プロレタリアートによる政治権力の獲得」がその目的であることを明らかにしています。

反共攻撃への反論には、たとえば共産党は財産を取りしげようとしているといった今日にも共通する攻撃にたいするものもあります。

『共産党宣言』は、革命の筋道について「労働者革命における第一歩は、プロレタリアートを支配階級に高めること、民主主義をたたかいとることである」、「プロレタリアートは、ブルジョアジーからすべての資本をつぎつぎに奪い取り、すべての生産用具を国家の手に、すなわち支配階級として組織されたプロレタリアートの手に集中して、大量の生産諸力をできるだけ急速に増大させるために、自分の政治的支配を利用するであろう」と、民主主義をたたかいとることをつうじて、労働者階級の権力を実現することの重要性を指摘しています。そして、生産手段を社会の手に移すことによって、物質的生産力の飛躍的な発展を実現するとしました。

なお、この点にかんして、一八七一年のパリ・コミューンの経験によって、「労働者階級は、できあいの国家機構を簡単に手に人れて、これを自分自身の目的のために動かすことはできない」ことが明らかになったということが、一八七二年版の序文で指摘されています。これは、労働者階級が権力をにぎったときには、国家機構の抜本的な改革が避けられないことを指摘したものです。

革命によって実現される未来社会については、「発展の過程で、階級の差異が消滅し、すべての生産が連合した諸個人の手に集中されると、公的権力は政冶的性格を失う」、支配階級となった労働者階級が「強力的に古い生産諸関係を廃止するとき、プロレタリアートは、この生産諸関係とともに、階級対立の、諸階級そのものの存在諸条件を、したがって階級としてのそれ目身の支配を廃止する」と、将来における階級対立の消滅と国家の死滅という展望が明らかにされています。そして将来の共産主義社会が「各人の自由な発展が、万人の自由な発展のための条件である連合体」であると指摘しています。

第三節は、「社会主義」や「共産主義」のかたちをとった各種のイデオロギーを、大きく「反動的社会主義」「保守的またはブルジョア社会主義」「批判的・空想的な社会主義および共産主義」の三つにわけて、それがどの階級的立場をあらわしたものか、またどんな役割を果たすかを明らかにして批判しています。そのなかには超階級的な「人間一般の利益」を主張する「真正社会主義」にたいする批判もふくまれています。

第四節は、共産党か各国で当面する革命運動をすすめるために、だれと手を組み、だれを敵としてたたかうかを明らかにしています。そこに書かれている各党派や当面する革命の課題は『共産党宣言』が書かれた当時のものですが、同時に、「労働者たちのあいだに、ブルジョアジーとプロレタリアートの敵対的対立についてのできるだけはっきりした意識をつくりだすことを、いかなる瞬問もおこたりはしない」、「いたるところで、すべての国々の民主主義的諸党の提携および協調につとめる」など、今日にもつうじる革命運動の原則的立場も示されています。

万国のプロレタリア団結せよ

そして、「共産主義者は、自分の見解および意図を秘密にすることを恥とする。共産主義者は、これまでのすべての社会秩序の強力的転覆によってのみ、自分の目的が達成されることを、公然と宣言する」、「プロレタリアは、共産主義的革命において、自分の鎖のほかにうしなうものはなにもない。プロレタリアが得るべきものは世界である。万国のプロレタリア、団結せよ!」という力強いよびかけで、その革命的宣言を締めくくっています。

ここで「強力的転覆」といっているのは、当時多くの国で労働者階級が選挙権さえもっていないという状況のもとで、マルクスやエンゲルスが、労働者の参政権を実現するだけでも「強力革命」が避けられないと考えていたからです。しかし、その当時でも革命が平和的におこなわれるのが望ましいと考えており(「共産主義の諸原理」)、議会をつうじて多数を獲得するというのがマルクス、エンゲルスたちの革命の展望でした。今日の日本では、国民主権と議会制民主主義によって、議会外の闘争とかたく結んで国会に安定した多数の議席を占めることによって、革命を実現する可能性がひらかれていることは、綱領で明らかにされているとおりです。

最後に、『共産党宣言』では、労働者の賃金は「労働の価格」とされていることに一言ふれておきたいと思います。この点は、後に『資本論』などでより深く解明され、労働者が資本家に売り渡すのは「労働」ではなく「労働力」であることが明らかにされました。科学的社会主義の経済学については、『資本論』や『賃金、価格および利潤』などで学んでほしいと思います。

(補注) 新日本文庫版の新訳『共産党宣言』は一九八九年刊。現在は、新日本出版社の「科学的社会主義の古典選書」シリーズの一冊『共産党宣言/共産主義の諸原理』として刊行されています(一九九八年刊)。なお、古典選書版の刊行にあたり、訳注は、本文の下段に脚注として付されるように全体が編集され、いっそう読みやすくなりました。また、訳文の一部が改訂され、訳者・服部文男氏の解説も、八九年の時点のものに書き改められています。

(おわり)

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