置塩信雄先生の『蓄積論』を読んでいますが、これはなかなか相当な本ですね。
これじゃあ意味不明(^^;)ですが、こんなすごい中身だったとは…、なんでいままでちゃんと読まなかったんだろうと後悔することしきりです。この本の中で置塩氏は次のようなことを明らかにしています。
- 資本主義における商品の販路は、資本家の消耗生産財補填需要、蓄積需要、個人消費と、労働者の消費需要から構成される。
- 一般的過剰生産を生じないためには、資本家は、消耗生産財の補填需要のほかに、生産能力いっぱいに生産したときの利潤総計に等しい蓄積需要と個人消費をおこなわなければならない。
- 部分的過剰生産を生じないためには、生産財、消費財の生産能力は、搾取率、資本家の支出比率、生産技術によって決定される需要状態に応じた相対比率を保たなければならない。
- 資本主義社会では、こうした条件が常に充たされる保証はないが、不均衡を通じて、長期的・平均的に実現問題を解決していく。
で、なるほどと思ったのは、実質賃金率が低く、したがって搾取率が大きく、利潤率が高いときは、蓄積需要も大きくなり、ますます第1部門だけが成長し、第2部門が立ち遅れる分、労働者の実質賃金率はますます低下し、ますます搾取率が高まり、ますます高利潤率に、高蓄積に…となって、上方への不均衡拡大過程が急速に進んでいくという指摘です。これって、デフレからの回復過程に踏み出しつつある今日の日本経済のプロセスを見ていくうえで非常に重要ではないでしょうか?
世間では、成長率(=蓄積率)が高くなればなるほど、経済は順調で望ましいように言われています。しかし、成長率(蓄積率)が高ければ高いほど上方への不均衡も急速に進み、それだけ早く限界に達し、上方への不均衡の蓄積は逆転(=恐慌)されざるをえないのです。
だから、もし何らかの方法によって実質賃金率を引き上げることができれば、搾取率が低められ、利潤率も低下し、高蓄積も押さえられる。すると“景気が悪くなるじゃないか”と言われそうですが、実はそうではないということです。実質賃金が引き上げられると、第1部門に比べ相対的に低く抑えられていた第2部門の生産が拡大し、経済はより均衡的な発展の軌道を進むことができるようになるのです。
「国民の懐を温めることで、経済の新しい発展を実現できる」という提言には、こういう経済学的な裏づけがあったということです。