構想力と覚悟

駅のホームで見つけたツバメの巣

駅のホームでツバメの巣を見つけました。

今日の「朝日新聞」夕刊に、京都大学の大澤真幸氏が参議院選挙の結果について「われわれは何も選んでいない」と題する文章を書かれています。
小澤氏の論旨は次のようなものです。

まず選挙結果について、大澤氏は「民主党は勝つには勝ったが圧勝とはいえず、自民党も負けたとはいえ、完敗ではない」といわれ、では、いったい有権者は参議院選挙で何を選択したのか?と問題を提起します。

で、大澤氏は、参議院選挙の争点は、(1)イラクでの多国籍軍への自衛隊参加、憲法など安全保障に関わる主題と、(2)年金問題であったが、「有権者の投票行動を規定したのは、主として(2)ではなかったか」と指摘。「(1)を前面に出して戦った共産党や社民党の敗北・不調も「同じ実を示している」といわれる。「ならば、民主党の勝利は、有権者が民主党の提案する年金システムや社会保障制度を選択したことを示しているのか?」と問いかけ、大澤氏は「そうではあるまい」と言われ、あらためて「われわれは何を選んだのか?」と問いかけておられます。

結論からいうと、大澤氏は、「こんな肝心なとき」に、なぜ「憲法の改正/非改正や多国籍軍への参加/不参加が中心的な論点になりえなかった」のか、ということを論じられています。氏は、「多国籍軍への参加に憲法との不整合を覚える人は、少なくないはずだ」とも述べられていますが、にもかかわらず何故それが中心的争点にならなかったのか。そのことを大澤氏は考えてみようと言うのです。

そしてそれは、通常の選択の前提をなすような根本的な選択をおこなう「構想力」の欠如にある、というのが大澤氏の結論です。どうしてそういう結論になるのか。

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選挙の結果

参議院選挙の結果が確定しました。

自民党が、選挙区でも比例区でも民主党に及ばなかったということは、“小泉人気”の終焉を表わすものといえるでしょう。しかし、民主党が躍進したと言っても、与党・野党で比べてみると、与党は、自民党マイナス1、公明党プラス1で与党全体としては改選前と変わらず。野党は、民主党がプラス12、共産党がマイナス11で、結局、民主党が共産党の議席を奪って「躍進した」ということです。選挙区で言えば、民主党と共産党がいれかわったところのほかに、民主党が自民党から議席を奪ったところや、自民党が候補者を1人に絞った結果、共産党が落選したというところもありますが、比例では、自民党がマイナス1、公明党がプラス2、民主党がプラス5、共産党がマイナス4、ということで、やっぱり大局では、野党の中で民主党が伸びた分、共産党が減ったという関係になっています。
同じことは論戦でもいえると思います。
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置塩信雄『蓄積論』(8)

第1章 資本制経済の基礎理論

4、実質賃金率と資本蓄積

b、実質賃金率の一時的決定

iii)需給の一時的均衡点

いま、例えば、消費財部門の資本家が、従来より、より低い利潤率でもいままでの水準の生産を決定するようになったとしよう(これはなんらかの矯正なしには不可能だが)。すると、消費財で測った実質賃金率は上昇する。その結果、労働者の消費需要が増加して、消費財生産、生産財生産はともに増加する。この場合には、資本家の蓄積需要や個人消費の増加の場合とちがって、生産水準の上昇が、実質賃金銀の下落をともなうのでなく、実質賃金率の上昇がともなう点が注意されなくてはならない。すなわち、この場合には、労働者の消費需要の増大による生産水準の上昇があるのである。だが、このことが可能なためには、資本家の供給態度の変更が絶対必要である。ケインズは、このような方向への研究、そのための政策を考えてもみない。これは彼がブルジョア経済学者として、資本家の利潤追求態度を変化しえない『神聖』なものとみなしていたことを示している。(88ページ)

↑これが置塩氏の結論で重要なところ。つまり、経済の民主的規制で、置塩氏が想定したような「強制」ができたとすれば、労働者の実質賃金率を引き上げつつ、経済水準全体を引き上げることが可能だということです。“国民の懐を暖めてこそ、経済は発展する”ということの経済学的証明です。

置塩信雄『蓄積論』(7)

第1章 資本制経済の基礎理論

4、実質賃金率と資本蓄積

b、実質賃金率の一時的決定

iii)需給の一時的均衡点

両部門の需給の一致点が成立したとして、生産量、雇用量、実質賃金率は、(1)生産財に対する新規投資需要、(2)消費財に対する資本家需要、(3)両部門の資本家の生産決定態度にどのように依存しているか。(86ページ)

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置塩信雄『蓄積論』(5)

第3章 資本制的蓄積と恐慌

4、反転

a、暴力的均衡化

上方への不均衡累積過程においては、次のような不均衡が累積していった。(イ)生産能力と市場の不均衡、(ロ)労働力供給と労働需要の不均衡、(ハ)諸商品の価値(労働生産性)と価格の不均衡、(ニ)各部門の利潤率の不均衡。
これらが、恐慌によって暴力的に均衡化される。(260ページ)

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置塩信雄『蓄積論』(2)

第2章 資本制的拡大再生産

4、「均衡」蓄積軌道

d、均衡蓄積軌道――技術変化のある場合

  • 生産技術が毎期一定率で変化する場合、実質賃金率が一定だとすれば、生産財部門の比重 λ は毎期上昇してゆく。つまり、このばあいには消費財1単位を生産するために直接・間接に必要な労働量が減少しているのに、実質賃金率が一定であるから、搾取率が上昇し、それが生産財の追加生産に回されるということ。
  • これにたいし、実質賃金率が労働生産性の上昇と同じ率で上昇してゆくとすれば、搾取率は不変にとどまり、生産財部門の比重は変化しない。ただしこれは、両部門における a1、a2(それぞれ1単位生産するのに必要な生産財の量)が変化しないというタイプの技術変化を想定したから。マルクスが想定したような、生産の有機的構成の高度化を伴うような生産技術の変化があった場合は、実質賃金率と労働生産性の上昇率と同一率で上昇し、搾取率が不変であっても、a1、a2が増加するから、生産財部門の比重は毎期増大してゆく。
  • 実質賃金率が一定であれば、生産財部門の比重 λ 、生産財生産の増加率 g は毎期上昇してゆかなければならず、もし実質賃金率が労働生産性と同一率で上昇すれば、λ と g は毎期不変となる。
  • このとき、消費財生産の増加率はどうなるか。もし、λ 一定なら、消費財生産部門の増加率は生産財生産部門の増加率と等しくなければならない。
  • それにたいし、実質賃金率がすえおかれて生産財生産部門の比重が毎期増大していく場合には、消費財生産部門の増加率は、生産財生産部門の増加率より小にならざるをえない。労働生産性の上昇率が充分に大きい場合には、消費財部門の生産量の変化はゼロまたは負になることもありうる。

(180〜181ページ)