新藤通弘氏の『革命のベネズエラ紀行』(新日本出版社)を読み終えました。読み終わった最初の感想は、ともかくおもしろい、ということ。
ベネズエラ革命が進めつつあるさまざまな社会改革については、以前、駐日ベネズエラ大使イシカワ氏の講演を聞いた話を紹介したことがありますが、本書では、そうした紹介にとどまらず、いったいベネズエラで何が進行しているのか、度重なる旧体制派の妨害をどうして打ち破ることができたのかが、著者の、ラテンの人たちに負けないぐらいの情熱を込めて明らかにされています。
ベネズエラでウーゴ・チャベスが大統領に当選したのは1998年。かつてラテンアメリカの革命といえば、革新的軍部によるクーデターとかゲリラ闘争とかいうイメージでしたが、チャベス大統領は、それとまったく違って、大統領選挙や国会議員選挙で国民多数の支持を得て、反対派が起こした軍部クーデターや、反対派が要求した大統領信任投票に見事にうちかって、いつのまにか政権誕生から7年もたちました。著者は、ベネズエラ革命のこれまでを、3つの段階を経てきたとしています。
- 【第1段階】1998年12月?2002年4月
- 政治権力(行政権力、立法権力)の確立期。新憲法や各種改革法の制定。
1998年12月、大統領選挙で56.20%を得て当選。
1999年2月、大統領就任。同4月、憲法制定議会招集の是非を問う国民投票で88%を獲得。同7月、チャベス派が制憲議会国会議員選挙で131議席中126議席を獲得。同12月、憲法制定国民投票で86%の賛成で新憲法を制定。
2000年7月、新憲法下での大統領選挙でチャベス60.3%を獲得し再選。
2002年4月、一部の軍部によるクーデター。チャベスは一時身柄を拘束されるが、脱出に成功し、クーデターは失敗。 - 【第2段階】2002年5月?2004年11月
- 司法権力、選挙権力の確立期。いろいろな社会改革の開始、しかし主に分配面での改革。
2002年12月、反対派による石油スト始まる。
2003年2月、チャベス大統領、農業改革「サモーラ計画」に着手。以後、「人民の店」計画(4月)、貧民地区での無料医療活動をおこなう「居住区に入ろう計画」(同)、識字運動「ロビンソン計画I」(7月)など、さまざまな改革が進められる。
2004年4月、チャベス派、最高裁でも多数を確保。同6月、全国選挙管理委員会でも多数を獲得。同8月、反対派が要求した大統領信任国民投票で、チャベス大統領は59.09%獲得。同10月、地方選挙、首都知事、カラカス市長選挙でも勝利。 - 【第3段階】2004年12月?現在まで
- 国軍の掌握の時期、社会主義の討論が開始、所有面での改革にも踏み出す。
ということで本書は、2004年11月と2005年8月の、著者の2度のベネズエラ訪問をもとにしたものですが、このわずか9カ月の間に、ベネズエラ革命は、もっぱら分配面での改革に限られていた第2段階から、所有面での改革に踏み出す第3段階に、劇的に、しかし着実に発展していた訳です。
それにしても、キリストとラテンアメリカ革命の父シモン・ボリーバルと毛沢東がいっしょこたになっているチャベスの社会思想って、何なんでしょう? それから、チャベス大統領は、かつては、1992年にクーデターを起こして失敗しているし、反政府ゲリラに共感をもっていたところから、国民多数の支持にもとづいて一歩ずつ着実な変革を進める立場に変わったというのがおもしろいところ。著者も、ゲリラ主義とキューバ共産党の関係などについては今後解明が必要だと指摘されていますが、革命のあり方、進め方の議論として興味深い問題だと思いました。
【書誌情報】著者:新藤通弘/書名:革命のベネズエラ紀行/出版社:新日本出版社/発行:2006年5月/定価:本体1400円+税/ISBN4-406-03257-6
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