書店でパラパラとめくってみたときにちょっと面白そうと思って買ってきた本。どこが面白いかというと、『資本論』にそった経済原論的な本のようでありながら、随所に、現代の日本および世界の資本主義経済、資本主義企業がどうなっているか、という具体的な問題が挟み込まれているところです。例えば、第2章「貨幣経済」で、金本位制度の停止から始めて、現在の通貨制度のもとで価値尺度機能がどうなっているかなどが論じられています。
ふつう、こういう具体的な問題は、経済学の方法からいえば、『資本論』にそった原理的な解明のあとで、いってみれば『資本論』の理解を前提とした現実経済の分析として展開されるもの。しかし、本書のそれは、『資本論』のあれこれの例解として、最近の事例をとりあげるというような御都合主義的なものではありません。
マルクス自身、理論が現実をわがものとするときには、つねに現実の表象が思い浮かべられていなければならない、と述べたことがありますが、この本で著者が展開しているのは、いってみれば、このような意味での現代資本主義の表象だと思いました。しかし現実資本主義の表象(イメージ)といっても、ぼーっと現実を眺めていたら自然に分かるというものではありません。現実経済では、様々な偶然的、例外的、一時的な現象にあふれています。そのなかから、現代資本主義にとって本質的、必然的な現象をつかみとるためには、一定の整理、分析が必要です。
いま若い世代の人たちにマルクスの経済学を語っていく場合、『資本論』の体系を前提にして、商品から概念的な展開を積み重ねていくようなやり方だけでは、青年たちはついてきてくれません。マルクス経済学についての講義をすすめつつ、同時に、彼らに資本主義経済の科学的な表象をもたせることが必要ではないかと思っているのですが、そういう意味でも、筆者の展開は、なかなか興味深いものがありました。
もう1つ面白かったのは、お終いの方の景気循環論のところ。長島氏も、置塩信雄氏とは別の意味で、「利潤率の傾向的低下」には否定的です。
置塩氏は、晩年に『経済学と現代の諸問題――置塩信雄のメッセージ』(大月書店、2004年)所収論文で、一定の数値的な仮定の下での利潤率の長期波動について検討をされていましたが、これまでその意味がよく分かりませんでした。本書でも、長島氏が同じように一定の数値的仮定をおいて、利潤率の長期的な波動がどうなっているかモデル掲載をされています。それを読んで、初めて、置塩氏がやっていたことの意味が初めて分かってきました。
ということで、いろいろ勉強させていただきます。m(_’_)m
【目次】
序章 国家独占資本主義
第1章 商品経済
第2章 貨幣経済
第3章 資本
第4章 システムとしての資本制商品経済
第5章 資本の生産過程
第6章 資本の流通過程
第7章 再生産論
第8章 剰余価値の利潤への転化
第9章 生産価格と独占価格
第10章 商業(商業資本)
第11章 信用(銀行資本)
第12章 株式会社
第13章 擬制資本
第14章 土地所有と地代
第15章 賃労働
第16章 国民所得と諸階層
第17章 競争の仮象と「三位一体」
第18章 蓄積モデルと循環
第19章 景気循環機構
第20章 現代の景気循環
第21章 価格体系とインフレーション
第22章 利潤率の長期波動
第23章 資本蓄積の現代的傾向
第24章 国家と金融寡頭制
【書誌情報】
著者:長島誠一(ながしま・せいいち)/書名:現代マルクス経済学/出版社:桜井書店/発行年:2008年4月/定価:本体3700円+税/ISBN978-4-921190-49-1
私は東京経済大学で、まさにその本を用いての長島氏の授業をうけています。たしかにこの本は面白いです。
スマクさん、初めまして。
そうですか、長島先生の授業を受けてらっしゃるんですね。
僕も、ああなるほど、現代資本主義ってこうなってるんだ、今の企業って、こんなふうに行動するんだというのが分かって、面白く読みました。
がんばって、済学の勉強をしてくださいね。(^_^;)