芝健介『武装親衛隊とジェノサイド』(有志舎)
少し前に、『ホロコースト』(中公新書)の感想を書きましたが、同じ著者のさらに新しい本です。
テーマは、ヒトラー・ナチスの武装親衛隊(武装SS)。親衛隊(SS)といえば、ナチスのユダヤ人虐殺などを担った中心組織の1つとして知られていますが、その武装組織であるはずの武装SSについて、「武装SSは、SSの一翼組織ではなく、栄光あるドイツ国防軍の一部だった」という“伝説”がいまでもあるそうです。しかし、それは本当なのか? それを徹底的に明らかにしています。
まあ、最近では、“ナチスはめちゃくちゃやったけれど、ドイツ国防軍は国を守っただけだ” ((ちなみに、このエピソードは青池保子さんのマンガ『エロイカより愛をこめて』にも登場する。))というのもたんなる「伝説」であって、実際には国防軍もユダヤ人虐殺に関与していたことが明らかにされているのですが。
ともかく、武装SSが、対ソ連戦での、占領地域におけるユダヤ人掃蕩に始まって、ドイツ国内(占領地域を含む)でのユダヤ人絶滅計画の組織的な担い手になっていく過程が、その人種差別的な世界観教育の実態とともに、詳しく明らかにされています。
『ホロコースト』同様、ぜひとも読まれるべき一冊です。
【目次】
「武装親衛隊神話」を超えて
第1章 SSの組織原理と武装SSの組織的起源
第2章 反ユダヤ主義世界観とその実践
第3章 ソ連ユダヤ人の絶滅と武装SS
第4章 SS医師たちの犯罪――アウシュビッツと武装SS
第5章 「ポリタリー」から「絶滅のアルバイター」へ――武装SSの「兵士」類型をめぐって
なお、著者には、『武装SS―ナチスもう一つの暴力装置』(講談社選書メチエ、1995年)もあります。
【書誌情報】
著者:芝健介(しば・けんすけ)/書名:武装親衛隊とジェノサイド――暴力装置のメタモルフォーゼ/出版社:有志舎/発行年:2008年6月/定価:本体2400円+税/ISBN978-4-903426-14-3