仕事の休みに、渋谷・ユーロスペースで映画「帝国オーケストラ ディレクターズカット版」を見てきました。ヒトラーが政権をとった1933年から45年までのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の歴史を、当時の楽団員ハンス・バスティアン(バイオリニスト、96歳)とエーリヒ・ハルトマン(コントラバス奏者、86歳)、それに当時の楽団員の子どもたちの“証言”によってふり返った作品です。
これまで、この問題は、「フルトヴェングラーとナチス」という角度から語られてきましたが、この映画では、楽団員たちに焦点を当てています。ユダヤ人楽団員がオーケストラを去らなければならなかったこと、楽団員の中にも明らかなナチス党員がいたこと、困難な時代の中でベルリン・フィルという最高の場所で、兵役を免除されて、演奏ができる“特権”は失うにはあまりに大きかったことなどが、60余年を経て回想されてゆきます。
その合間、合間に、1942年4月19日、ヒトラーの誕生日前夜祭でフルトヴェングラーが指揮する「第九」の演奏(そのCDについては、以前にもこのブログで紹介したことがあります)と、その前段でおこなわれたゲッペルスの演説が映し出されます。僕は詳しくは知らなかったのですが、別の年のヒトラー誕生前夜祭でクナッパーツブッシュが指揮する映像もありました。
まったく痛ましいかぎりです。楽団員たちが政治についてあまりにナイーヴだったということもあるでしょう。「やむをえなかった」「逆らいようがなかった」ということもあるかも知れません。1933年の時点では「分からなかった」ということもあるでしょう。しかし、いまふり返ってみれば、ベルリン・フィルがナチスに政治的に利用されたことは明らかです。私は、それを楽団員たちの責任に帰そうとは思いません。請い願わくば、再びそのような時代が来ないように、その歴史から何を教訓として学びとるのか、考え込まされた作品でした。
同時に、あらためてこの時期のフルトヴェングラーの演奏の“凄み”を感じました。録音はモノーラルで、バリバリとノイズも多いのですが、その存在感にはやっぱり圧倒的なものがあります。
原題は Das Reichsorchester — Die Berliner Philharmoniker und der Nationalsozialismus
公式サイト:帝国オーケストラ ディレクターズカット版 | セテラ・インターナショナル
【映画情報】
監督:エンリケ・サンチェス=ランチ/撮影:ファリバ・ニルキアン/出演:ハンス・バスティアン、エーリヒ・ハルトマン他/ドイツ 2008年