ジャガノート

1845年の鉄道ジャガノート(松村昌家編『「パンチ」素描集』岩波文庫)

『資本論』に、「ジャガノート」という言葉が登場します。

今月発売増刷された岩波文庫『「パンチ」素描集』(松村昌家編)を見ていたら、「1845年の鉄道ジャガノート」というイラスト(上)が載っていました。

これは、1845年の鉄道投機を風刺したイラストで、インドのジャガノートになぞらえて、大勢の人が蒸気機関車の前に身を投げ出しています。

編者の松村昌家氏は、ジャガノートについて次のように解説されています。

 ジャガノートとはヒンズー教における三大神格の1つ、ヴィシュヌ神の第8化身であるクリシュナに対する呼び名で、インド東部のプリ市では毎年の祭礼に、この偶像を巨大な山車に乗せて市中を引きまわす習わしがある。山車には直径7フィートの車輪が16個ついていて、これにひき殺されると極楽往生できるという迷信から、進んでその前に身を投げ出し、車輪の下敷きになる狂信者が多かったということである。(同書、45ページ)

『資本論』の初版が刊行されたのは1867年で、この「パンチ」の記事からは20年以上たっていますが、何にせよ、当時のイギリスでは「ジャガノート」というのはかなり有名だったようです。

『パンチ』は、1841年に創刊され1992年まで存続したイギリスの風刺週刊誌。松村昌家氏の編による本書では、この創刊から30年間の誌面から104枚の図版をとりあげ、当時のロンドンの様子を紹介しています。

ちょうどマルクスが『資本論』を書いていた時代で、「資本と労働」というイラストや煙突掃除の子どもたちの風刺画なども紹介されていて、なかなか面白いですよ。

なお、『資本論』にでてくるジャガノートというのは、次の2カ所。

1つは、第8章「労働日」第6節、注(135)のあとのところ。1833年の工場法で、1886年から児童労働を8時間に制限することになっていたのに、資本家たちの反対で、自由党政府が日和って、児童の上限年齢を13歳から12歳に引き下げようとして、結局、労働者の反対でそれを引っ込めたという話。それをマルクスは、「下院は、13歳の児童を1日に8時間以上資本のジャガノートの車輪のもとに投げ込むことを拒否」 ((『資本論』新日本新書、第2分冊、485ページ))したと書いています。

もう1つは、第23章「資本主義的蓄積の一般法則」第4節、注(88)の少し前。資本主義のもとでは、「労働の社会的生産力を高めるいっさいの方法」が、資本による「支配と搾取の手段」になると述べたところで、「労働過程中ではきわめて卑劣で憎むべき専制支配のもとに彼(労働者)を服従させ、彼の生活時間を労働時間に転化させ、彼の妻子を資本のジャガノートの車輪のもとに投げ入れる」 ((同前、第4分冊、1108ページ))と書いています。

それにはちゃんと訳注がついていて、次のように述べられています。

 インド東岸プーリーに祭られる巨大なクリシュナ神の神像。祭りの最終日に、ヒンズー教徒の狂信者は、罪の清めの神であるこの像を乗せた山車の車輪にひかれれば、ただちに極楽にいけるとして身を投じ、ひき殺されたという。 ((同前、第2分冊、485ページ))

ジャガノート」への2件のフィードバック

  1. どうも、はじめまして。いつも拝見させていただいています。
    「ジャガノート」と聞いて、小泉「改革」をたとえていた方がいたのを思い出しました。
    「現代版ジャガノートとしての小泉『構造改革』」。
    二宮厚美先生でしたね。
    でわ。

  2. buhiさん、初めまして。
    いつも拙ブログをお読みいただき、ありがとうございます。

    なるほど、小泉「改革」は現代版ジャガノートですね。

    でも、小泉改革ジャガノートは、狂信者たちをひき殺すのではなく、無関係な国民を巻き込んだ上、巻き込まれた人たちは極楽往生どころか、地獄に落とされる、とんでもない代物です。

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