今月の岩波新書の1つ、川崎健さんの『イワシと気候変動』。めちゃくちゃ面白いです。
イワシとかサバ、ニシンなどがある時期やたらにとれたかと思うと、突然さっぱりとれなくなった――というのは、ときどき聞く話ですが、なぜとれなくなるのか?
実は、日本近海だけでなく、世界中のあちこちの海域で、何十年か周期で、ある種類の魚が大量に獲れたり獲れなくなったり、あるいは魚種が入れ替わったりしています。しかも不思議なことに、その周期が日本近海と、たとえばカリフォルニア沖とでぴったり同期していたりするのです。
でも、どうして?
どうやら、非常に大きなスケールで大気と海洋とのあいだを熱エネルギーが循環していて、その結果として、何十年か周期で北太平洋の海水温が高くなったり低くなったりしているのです。そして、アリューシャン列島付近の低気圧の勢力が強くなったり弱くなったり、さらにはそれが北大西洋の気候にも影響して、地球的規模で数十年周期の気候変動が起きて、それがそれぞれの魚の漁獲高の変動や魚種の交替を生み出している、というわけです。
う〜む、なんという壮大なスケール! しかもそうした気候変動がイワシなどの研究から分かってきた、というのが面白い!!
魚の場合、1匹の親が生む卵の数はめったやたらに多いのにたいして、卵から成魚にまで成長する比率は非常に小さい。だから、その魚の群れ全体の個体数を左右するのは、卵から成魚にまで成長する生き残り率なのだそうです。親の数が少々減っても、卵の「生き残り率」が上がれば魚群は増える、逆に、親の数が変わらなくても、「生き残り率」が下がれば魚群は小さくなる、ということです。
さらに、魚の数が増えて群れの密度が高まれば、1匹1匹の魚の栄養状態は悪化するので、卵の「生き残り率」は悪化し、逆に、群れが小さくなれば1匹1匹の栄養状態はよくなり、「生き残り率」も改善する。ということで、負のフィードバックが働いているわけですが、そこに地球的規模での気候変動が影響して、突然、魚が急激に増え出したり、逆に激減したりするわけですね。説明されてみれば、な〜るほどですが、なかなかダイナミックで、面白いですねぇ。(^_^;)
著者の話は、そうしたメカニズムの解明だけでは終わりません。さらには、魚資源が、そういうふうに数十年周期で増減しているとしたら、資源保護はどうやったらよいのか? 現在のように、国連海洋条約にしたがって、沿岸各国が200カイリまでの排他的経済水域を囲い込んでいていいのか? 議論はどんどん広がっています。
ここ数年、日本ではさなかの消費量が減り、皮肉なことに、その結果として水産物自給率が上向いていますが、もちろん喜んでいられるような事態ではありません。
イワシはどうして獲れなくなるのか? という話から、地球的規模の気候変動を生み出すメカニズム、海洋法の問題から日本の漁業の将来まで、とても一冊の新書には収まりきれないような希有壮大なスケールの話が怒濤のように展開して、ともかく面白い本です。
【書誌情報】
著者:川崎健(かわさき・つよし)/書名:イワシと気候変動――漁業の未来を考える/出版社:岩波書店(岩波新書、新赤版1192)/発行:2009年6月/定価:本体700円+税/ISBN978-4-00-431192-8
川崎先生は赤旗の科学のひろば、文化欄にも出て下さってますね。新刊が出ていたとは知りませんでした。
kandaさん、初めまして。
私も本屋に行ってたまたま見つけて、「あ、川崎先生の本だ!」と買って帰ってきました。新書1冊には入りきらないような内容で、ほんとに面白いです。
ピンバック: しろたんと本の感想とか書くとこ
GAKUさん
私もこの本を読みました。
そして、ブログにも書きました。
その中に、貴ブログも利用させていただきました。
宜しくお願いいたします。