国内工場を海外生産の「調整弁」にしてしまったトヨタ

昨日の日本共産党大演説会で、志位委員長が紹介していた「双日総研」のリポートというのは、これ↓。

「溜池通信」第440号(2010年4月2日)「2010年度日本経済の現場検証」

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このリポートのなかで、双日総研の吉崎達彦氏は、トヨタ自動車の「グローバルリンク生産体制」を分析したTian Xin「日本マザー工場の生産調整バッファー機能」(『世界経済評論』2009年8月号)という論文を紹介して、次のように述べられています。

まず、Tian Xin論文の紹介の部分。

  • この間、国内のマザー工場は海外工場の技術支援をするとともに、生産量のバッファー機能を受け持つようになる。海外の需要の変動に応じて、国内の工場が生産台数を調整する役割を担っている。トヨタではこれを「グローバルリンク生産体制」と呼んでいる。
  • 海外工場の需要変動への対応力が弱いのは、<1>欧米系サプライヤーはJust in time 方式への対応が限定的、<2>タクトタイムの変更ができない、<3>臨時従業員の雇用に対する規制が厳しい、<4>残業・休日出勤の柔軟性が乏しい、などの理由による。

でもって、これを受けた吉崎氏のコメント(下線は吉崎氏)。

 グローバル経営を進めてきたトヨタ自動車といえども、国内でやっているような柔軟な生産体制は海外では不可能であるらしい。確かに、部品メーカーが生産順番を決めて同期生産するとか、工場の都合に合わせて休日や残業を増減させる、といったきめ細かな労使協調は、海外では望むべくもないだろう。ゆえに海外での生産量はなるべく一定に保ち、需要が増えたり減ったりした場合は国内で生産を調整することが合理的になる。
 リーマンショック以後の日本国内の生産の落ち込みは、欧米以上に激しかった。なぜそうなったのか、さまざまな理由が語られたものだが、今にして思えば「日本であれば、他国でできないような生産調整が可能だった」ことが一因ではなかったか。つまり、「できたから、やってしまった」という理由があったように思える。(「溜池通信」第440号、5ページ)

ということで、読んでお分かりの通り、吉崎氏のリポートは、決して、日本経済がここまで落ち込んでしまった原因を明らかにして、それをきちんと正そう、という立場のものではありません。むしろ、日本の国内工場を世界の「調整弁」にしたトヨタのやり方を「合理的」と言っています。

しかし、そんなリポートからでも、志位さんは、鋭く日本経済の危機の原因を見て取ったわけです。実際、日本企業の経営行動として、日本国内の工場を「調整弁」にしているといったことを具体的に指摘した論文というのを、僕も知りませんでした。

リーマンズ・ショックのあと、アメリカ経済が落ち込む中、日本がそれ以上に大きな落ち込みを見せたとき、私も、「日本の大企業がアメリカへの輸出に依存する外需頼みの経済になってしまったのが原因だ」と言いましたが、しかし、そうした海外での需要落ち込みを、日本の国内工場により増幅して跳ね返したのが、実は日本企業自身だったのだ、というのは気づきませんでした。

トヨタは、被害者どころか、実は日本経済を大きく落ち込ませた張本人だった、というわけです。

国内工場を海外生産の「調整弁」にしてしまったトヨタ」への2件のフィードバック

  1. 志位和夫委員長が東京の演説会で紹介していたリポートの原典をさがしていました。
    タイムリーな投稿、たいへんたすかりました。

  2. nokonokoさま

    初めまして。お役に立ててなによりです。演説会で志位さんの話を聞いたときは、もっとストレートに日本の大企業のやり方を批判した論文かと思って、ずいぶんと探してしまいました。

    しかし、落ち着いて読んでみると上に書いたとおりで、一瞬「う〜ん、こんなんでいいのかなぁ?」と思ってしまいましたが、あらためて考えてみると、ここからあれだけの論を展開した志位委員長の着眼の鋭さをあらためて実感した次第です。

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