楽しさと迫力に圧倒されました

都響第719回定期演奏会(2011年6月20日)

今週はコンサートが目白押し。今日は、上野の東京文化会館で都響の定期演奏会。いつもはサントリーホールの定期なのですが、小泉和裕氏が振るというので聴いてきました。生誕200年のオール・リスト・プログラムです。

  • リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調 S.125
  • リスト:ファウスト交響曲 S.108

ピアノ・ソロのマルクス・グローはえらく若く見えましたが、1970年生まれというから、41歳。ピアノを弾くのが楽しくて仕方がない、という雰囲気があふれまくってました。

リストのピアノ協奏曲は、第1番はよく聴くのですが、2番は初めてです。出だしはクラリネットのやさしいメロディー。ピアノが登場しても、こちらもメロディアスで、なんだかリストらしくないなぁ?なんて思っていたら、途中からフォルテ・フォルテでばっしんばっしん、がっつんがっつん来たかと思えば、鍵盤の端から端まで細かく弾きまくる。うん、これは確かにリストだ!! 全体で20分程の作品ですが、表情が豊かというか、メロディと技巧とどちらもたっぷり堪能できる作品で、すっかり気に入りました。

アンコールは、やはりリストの「巡礼の年 第1年スイス」から第2曲「ヴァレンシュタット湖畔にて」。これも表情豊かな曲でした。

後半、「ファウスト交響曲」は、今年1月に下野竜也氏が読響をふったのを聴きましたが、サントリーホールにくらべて音の反響がぐっと少ない文化会館で、しかも1階R席というステージに近い座席だったので、リストが次々と繰り出してくるさまざまな主題の迫力がまったく違いました。

それにしても、この曲、全体が65分ほどで、歌が登場するのは始まってから55分ぐらい。それまでソリストと合唱団のみなさんは、ただただ待つのみ。お疲れ様ですねぇ。(^_^;)

本日のテノールは、日本を代表する福井敬氏、男声合唱は二期会合唱団ということで、まったくもって文句なしです。しかし、それだけまって福井さんが歌うのは、「永遠に女性的なるもの、われらを引きてゆかしむ」のくり返しばかり。う〜む、この「永遠に女性的なるもの」って、いったい何なんでしょう…。

【関連ブログ】
東条碩夫のコンサート日記 6・20(月)小泉和裕指揮東京都交響楽団

ところで、帰りしなに、カウンターに「本日のソリスト マルクス・グローから日本の皆様へのメッセージ」というチラシが置かれていたので、大震災へのお見舞いだろうと思ってもらって帰ってきましたが、読んでみてびっくり。福島原発事故にたいするマルクス・グローの強烈なメッセージでした。曰くーー

「この問題は、日本だけの問題ではなく、私達すべてに関わる問題」「地球的規模の問題です」と述べるとともに、「もしも仮に、これから近い将来、未来に、原子力関係の事故が全く何もなかったとしても、原子力施設で使われる燃料棒の処理についての回答を出した人は誰もいません」と技術的に未完成である問題も指摘。さらに、使用済み核燃料からのプルトニウム抽出・核兵器転用の危険および自分が2度広島を訪れた経験にふれながら、「原子力発電と原子爆弾製造というものは、いつの時代においても、今でも、今までも、結びついているのです」と強調されています。そして、ヨーロッパの各国の動向、ドイツの動向にもふれて、「抗議やデモの結果、多くの政治家たちも……原発の為に、人々のいのちを犠牲にすることは得策ではないと認識するようになった」と述べ、「今がもう一度エネルギー政策について熟考する重要な時」と指摘し、「より良い世界になるように、一緒に行動しましょう」という呼びかけで結ばれています。

海外アーティストの来日キャンセルがあいつぐ中で、なぜ自分は日本に来たのか、その決意を、ドイツ人らしく理詰めで、しかしきっぱりと語っています。都響のホームページにも公表されていますので、ぜひご一読ください。

20日(月)A定期/ピアニスト マルクス・グロー氏より日本の皆様へのメッセージ|東京都交響楽団

こちらはマルクス・グロー(Markus Groh)氏のオフィシャル・サイトに掲載された同メッセージ。英語原文と日本語訳。

japan2011 – Official Website of Markus Groh

と、ここまで書いてきて、あらためて思ったのは、「電力が必要なんだから原発も仕方ない」「東京で消費するための原発は、地方に押しつけておけばよい」という発想は「男性的」というか、少なくとも「女性的」ではないなぁ、ということ。もし、こんどの原発事故をきっかけに私たちが原発ゼロの社会へ踏み出すことになれば、それこそ「永遠に女性的なるもの、われらを引きてゆかしむ」ということになるのかも知れません。そう思うと、このコンサートには、また別の――もちろん、それは偶然なのですが――感慨も生まれてきます。

【演奏会情報】 東京都交響楽団第719回定期演奏会
指揮:小泉和裕/ピアノ:マルクス・グロー/テノール:福井敬/男声合唱:二期会合唱団/合唱指揮:長田雅人/コンサートマスター:矢部達哉/会場:東京文化会館/開演:2011年6月20日 午後7時

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